STEP6-3A 回帰~朔夜の場合~
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誤字報告いただきました! ありがとうございます!
何に「変えても」→「代えても」
その瞬間、俺は確かに全てを把握していた。
この世界の全ての地の景色。
太古の昔から、無限の未来にいたるまでの歴史。
往来する生命たちの変遷と来歴。
かれらが見たこと、思ったこと、感じたこと。
ユキマイの砂の一粒一粒。南の大洋にたゆたう水の一滴一滴。
大空渡る風に含まれる気体の分子、ひとつひとつのかたちと動きまで。
俺はすべて『知っていた』。どんな小さな特徴も、余さず正確に知覚していた。
すさまじいばかりの情報が、俺の中で渦を巻く。
いや、その表現は適切ではない。
なぜなら、いま俺は真なる神。
そうである以上、世界は俺だ。
俺にはうちもそともない。
すべては俺で、俺はすべて。
ああ、わかる。ちっぽけなことだ。どうとでもなる。
サクレアを襲った艱難も。
サクレアの弱さも。
そう、サクレアという、存ざ――
「ふざけるなッ!!」
サクレアが、ちっぽけな、どうとでもなることだと?
ふざけるな。俺は、俺をどやしつけた。
そして『そこ』から、俺にそんなことを思わせてくるそいつから、俺自身を全力で引き剥がそうとした。
だがそいつは、『神の座』は、絡みつくように俺を放さない。徐々に、侵食してくる。
俺からサクレアを、とりあげようとする。
サクレアをただのモブに、書き割りに、文字の羅列にひとつの点にと貶めようとする!
違う。違う。こんなのは、ちがう。
いやだ、間違っている。
俺にとってサクレアは、些事などにはなりえないのだ。
俺はサクレアを捨てない。捨てられない。
たとえそれが、小さく愚かなあり方だとしても。
サクレアが『神』だ。俺にとっての『神』だ。
そのサクレアの存在を、運命を、しあわせを軽んじるものが『真なる神』というならば、そんなものはくそ食らえだ!!
もがき、全力で叫べば、衝撃とともにヒトの視界が戻ってきた。
おりしも、俺の正面で『天使』が、こぶしを収めるところだった。
「すまない。少し強くやりすぎた」
まずやってきたのは、頬の痛み。ついで小さな混乱。
そして、何が起きたかの理解。
だが、俺は疑問の声を上げてしまった。
「お前、もしかして、俺が戻ってこれるように……?!」
「おかしいか?
俺はお前のナビゲーターだ。お前が最良にたどり着けるよう、サポートをするのが役割。
……基本的には、そのつもりだ」
その答えを聞くと、自分が恥ずかしくなった。
だから俺は、ひとつ頭を下げると、右手を差し出した。
「その……
感謝する、『天使』。
俺の意を汲み、目を覚まさせてくれたこと。
それと、悪かった。
ここまでいろいろと、つっかかってしまった。子供じみていた」
「気にするな、サクヤ。俺がお前でもそうしていた」
奴はひとつうなずくと、しっかりと俺の手を握り返してくれた。
「『天使』。お前は俺たちの、最良のナビゲーターだ。
改めて頼む。力を貸してくれ。
サクレアのためのベストを、見つけたいんだ。
『デウス・エクス・マキナ』じゃない、ひととしての血の通った道でたどり着く、あいつのためのベストエンドを」
「もちろんだ。
俺は、そのための存在だからな」
奴が握手をとき、身をよければ、三人の友が飛びついてきた。
言葉もなく抱きついてきた三人に、その体の小さな震えに、俺はいま、こいつらに怖い思いをさせてしまったのだと実感した。
なのにこうして、帰還を喜んでもらえる。しっかりと、抱きしめてもらえる。
うれしさと申し訳なさとがこみ上げる中、俺は思いを改めた。
俺はこいつらのことも、捨てたくなんかない。
こいつら、ルナ、父上母上、そして、ここにはいない多くの慕わしき人々。
どうして、忘れていたのだろう。
こんなにもたくさんの、いとおしく、たいせつなものを。
「みんな、すまない。悪かった。
撤回する。何に代えても、は。
俺は、幸せにしたい。おまえたちも含めて、みんな。
ここからも、一緒に、来てくれるか?」
「もっちのろんだよ、サクっち!
この頼もしいシャサさんたちに、どーんと頼ってよ!」
シャサが笑ってどんと胸をたたけば、イザークとイサがそれに続く。
「そーときまったら善は急げだ!
もう一度サクレアのこと、調べなおしてみちゃどうだ?
サクレアのためのベストなら、サクレアを知らなきゃだろ?
俺もサクレア時代のサキのこと、もっと知りたいしな♪」
「おお、情報管理なら任せてくれよ!
さすがにシンカミレベルはきっついが、天ちゃんのフルパワーくらいならがんばったるぜ!」
「ほう、我がチカラに挑むかイサよ? 後悔しても知らないぞ?
というか天ちゃんて何だ天ちゃんて」
「あははは! やだ、天ちゃんとサクっちちょーそっくりー!!」
「だから天ちゃんはよせと!」
「というか俺たちは似てなんかないっ!」
イザークが明るくウインクする。
イサが茶目っ気たっぷりに親指を立てる。
シャサが陽気に笑って、『天使』がムキになって、俺もまた――
『御座の間』ははじめて、明るい笑いにあふれた。
そうして俺たちは、生前のサクレアをなす記憶を、ゆっくり、ゆっくりと、辿りはじめた。




