STEP3-4 ダブルエリカ・参戦!~奈々緒の場合~
エリーは強引に、シミュレーションを終了させた。
かくして俺の目の前には、白とブルーのセーラーカラーの服を着て、ぷんすかと腕組みをした彼女……いや、エリカがいる。
俺の目がその姿をとらえると同時に、あの威勢のいい早口を飛ばしてきた。
「まったく! まったく! あんたって子は! どうしてこう、たよりないのよっ!
トロンによるシミュレーションのなかでさらにトロンのシミュレーション機能を使うとか、その発想までは超クールだったのに!!」
『ほんとだわ!
逆行転生による知識チート+『大賢者』による高速多重演算の無敵体制とか、もういっそ後ろからひっぱたきたくなるほどのカンペキ無双っぷりだったのに、なんだって肝心のあいつの手綱だけはずしてるのよもうっ!
あーもう、やっとエリカのなかでテキトーに眠りについて、たまにのほほーんとラノベでも読みながら死後の老後を送ろうかと思ってたのに!
このドジ! 甘ちゃん! おひとよし!』
「え、ええと……」
どうみても一人ぶん以上の言葉をしゃべり倒す彼女の瞳は、右が赤、左が青の、オッドアイ状態になっている。
直感的にわかった。
これはマンガなんかでよくある、憑依っ子状態だと。
どういうことかというと、今ここに立っているエリカの身体の中には、エリーの魂が宿ってしゃべっている――偉名宮探索のとき、そうであったように。
ただし今回は、本来の身体の主であるエリカも同時に、100パーセント自分を解放している。
つまりは、エリカの身体を二人で同時に使って、俺に話しかけてきている状態なのである。
そう、こんなふうに。
「あたしがどうしてここにいるかって? 密航してきたからに決まってるじゃない!
ユーユーが突然エアビークル貸してください、通信を通じて助言はしてほしいのですけれど絶対ついてこないでくださいっなんてわかりやすく『押すなよ? 押すなよ?』言ってるから、ははーんこれはってピンときたのよ!」
『そしたら高天原入るなりいきなりはぐれたじゃない?
それでも『トロンの間』につけたからとりあえずシミュレーションやってたら突然、奈々希と奈々緒がいるじゃない?
っで、奈々希ったら半泣きでたすけてエリー奈々緒が~とか言ってくるじゃない?
まったく遅いのよ、もっと早くあたしに甘えなさいよ奈々希のバカッ! お互い死んでからとかほんとバッカじゃない?! ほんともう、バカ! バカバカバカッ!!』
かわいそうなナビは、エリーにバカバカ言われておろおろしてる。
うん、かわいそうだけど、さっきまでの温厚で落ち着いた頼もしい王さまどこいった。
ともあれちょっとかわいそうすぎなんで、俺は仲裁に入ることにした。
「あ、あのねエリー、この奈々希は……」
『わかってるわよ! つまりは間接的にあんたに言ってるのっ!!
ほんとさあ……なんであんたの一番、アズールなのよ。
あたしだってあんたのこと何度も助けたわよね?
さらには年上の世話焼きおさななじみ、けなげな薄幸美少女、才色兼備のお姫様と属性完備!
……いいわ、わかってる。ナナにとってあたしは、半分『お姉ちゃん』だったのよね。
あたしにとっても、半分妹みたいなもんだったし』
「え」
俺と奈々希は絶句した。
せめてそこは弟と言ってほしかった。たとえホンネはそう、思っていないにしても。
『ま、いいわ。ナナはそんなしょーもないところがいいんだから。
こないだのこともあるし、今回だけは助けてあげる。ありがたくおもいなさいっ。おへんじは?』
「えっと……はぁ……」
『声が小さい! もう一度っ!』
「はいっ!!!」
『よろしい。
じゃあさっそくだけど、作戦を具申するわ。
いっそアズールはユキマイにいかせなさい。
そこで阻止するの。水際作戦よ!』
エリー/エリカは腰に手を当てて、どーんと俺たちを指差した。
『あんたたちもわかってると思うけど、奈々希が革命やるのはダメよ。
どっちに転がしても、バッドエンドにいきつくわ!』
「まず、あそこで奈々希が捕まった場合。
奈々希はアズールに言われるままに情報を吐くけど、革命軍の勝ちはもはや覆らない。
あたしたちの手によって王党派は処断され、アズールはあんたを連れて亡命。
逃亡が一段落した後、自分の愚かさを責め、自暴自棄になったあんたはいろいろあって死亡。
アズールはあんたをそんなふうにした後悔から暴れ狂い、あたしたちの手で討伐される。
まあ、サキだけは無事ですむけど、いくらなんでもこれは嫌でしょ」
「嫌ですっ!!」
俺は即答していた。
いや、いろいろあってってなんだろう。恐ろしすぎて聞けないけれど。
半泣きの俺の前で、エリーは二本指を立てる。
『あんたが革命を成功させるパターンは二つあるわ。
ひとつはあえて間者をひきこませ、あたしたちに抑えさせることで、アズールを感服させる。
もうひとつはつねづねこまかいドジをまじえて、アズールの気持ちを離れさせない。
これはどっちも同じ顛末よ。
奈々希が王になった後、大臣となったアズールが軍拡を主張する。
革命を通じてアズールは、戦いなしではいられなくなってしまったから。
……最後は、お墓も建てられなかったわ』
しばらくは、声も出なかった。
けれど、きかなきゃならなかった。
「みてきたの、ふたりとも。
そんな、過酷な……」
『見たといえば、見たわ。ただし、小さな額縁の中のものがたりとしてね』
「エリーの権限で『御座』にアクセスして、あたしがプレイヤーAIモジュールを作成。
で、同時平行早回しでシミュレーションをしていたの。
だっていちいちまじめにやってたら時間がいくらあっても足りないでしょ?
パラメータ改変系も試したけど、どれも芳しくないのよね。
あたしたちが試行した限りでは、アズールがユキマイに行くまえに、ハッピーエンドは仕込めない。
もっともユーユーは別の結論を得てるかもしれないけどね。
あの子はあたし以上の天才。もっとスマートで、想像もつかないことを、ファンタスティックにやれる子だから」
俺がぽかんと口を開けたそのとき、俺の通信機のイヤホンに、ユーさんの声が飛び込んできた。
『……エリカ、さん?
まさかいるわけじゃありませんよね、そこに!
奈々緒くん! 正直に答えてください! エリカさんが……』
それは、きいたこともないようなあわてた調子。
俺はイヤホンを外し、エリカに渡した。
しばらく話し合っていた二人だが、結論は同じようだった。
俺は、無駄な試みをしていたかもしれない。ちょっとだけ落ち込んだ。
優しい奈々希は、そんなことないよ、奈々緒の納得が得られるのがなにより大事なんだし、この体験で奈々緒も成長するのだからと慰めてくれた。
そういわれればそうだ。このシミュレーションは、俺の弱いところをハッキリさせてくれた。
さっきエリーも言っていたが、俺は『ドジで甘ちゃんのおひとよし』なのだ。
一回目も二回目も、アズは俺の友達だからと過信せず、もっとやつをよく見ていれば防げた顛末といえる。
いまのアズと、むかしのアズは、全く同じわけではない。
蒼馬家の子として育ち、家族の愛情を身にしみて知る『梓』と、そんなものとはほとんど縁のなかった『前世のアズール』を、つい同じように見てしまう。
そんなところが俺は、甘いのだ。
きっと、サクやんやメイちゃんなら、自然にしててもこんなミスはしないはず。
そのぶん俺は、意識して取り組まなきゃならない。
ふたりのように、だれかを幸せにできる男に、俺はなりたい。だから、俺はやるのだ。
「大丈夫。その思いがあればきっと、やれるよ。
奈々緒は、生きた人間だ。だから、AIを超える奇跡だって、きっと起こせる」
「ありがとう。
もう一度、やってみるよ。
エリカたちが教えてくれた通り、アズール留学から始めてみる」
二人の話はまだ続くようだった。
その間に俺は、もうひとトライ、がんばってみることにした。




