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咲也・此花STEPS!! 4~もと・訳ありフリーターの俺が花いっぱいの国でにゃんこな王様になるまで~  作者: 日向 るきあ
STEP3.王都の悪党――その名は

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STEP3-3 王都の悪党――その名は・N~奈々緒の場合~

 返ってきた声に愕然とした。

 思わず立ち止まっていた。

 アズは笑っていた。


「……いや、なんでそんなヌルい生活しなきゃなんねえの?

 お前と暮らせることは歓迎だ、家があるのもグッジョブだ。

 けれど、俺はいまの状況、めっちゃ楽しんでるぜ。

 お前のボディーガードやってた頃の刺客どもはさ、もーてんっでハエみてーなもんだった。

 それがいまはどーだよ。

 ガチで強ぇ騎士、訓練された兵士、力のある異能使い!

 まあどいつも俺より弱ぇんだけどよ、それでもそれなり歯ごたえあんだよ。

 やつら必死に戦ってさ、俺に負けると『この悪党め!』って悔しがるんだ。

 いやあほんと、マジにキモチいーわ!

 俺の人生よ、いまやっと、マジに楽しいんだ。

 お前はおうちで平和に暮らせばいいさ。王どもからふんだくったカネをあいつらに配ってやれよ。そんときお前が危なきゃちゃんと守ってやる。もちろん、ほかの七瀬のやつらもな。

 でもこんっな楽しい遊び、俺は自分テメェから降りるつもりなんざねェ。

 そーだな、モノホンのへーかが俺に平伏して、命乞いしてきたら考えるわ。

 それか、もうひとりぐらいサイコーのかわいこちゃんを俺にくれれば!

 そーいやユキマイの女王さまって、すんっげ可愛いネコちゃんなんだって?

 お前とどっちが可愛いか……」


 アズは楽しそうに笑っていた。

 けど、その笑顔のまま、前のめりに倒れた。

 俺たちはすでに、包囲されていた。

 俺の腕の中、笑ったままのアズの息はすでに、なかった。



「……緒! 奈々緒!

 しっかりして。今見たものは、現実じゃないよ。

 とてもリアルだけど、何度でもやり直せる、シミュレーションだ。

 ほら、深呼吸して。

 ……ついてなかったね、最初の挑戦が、あんな終わり方で」


 はっと気付けば、奈々希が俺を呼んでいた。

 暖かな手が肩に置かれ、俺を正気づけようとしていた。


 どっ、と全身から汗が出てきた。

 さっきこの腕に感じた重さ。本当に、こときれたアズを抱いているようだった。

 ぞっとした。シミュレーションだなんて思えなかった。


「震えているよ。すこし、休むといい」

「ありがとう。でも、大丈夫。

 ……本物のアズはさ。死んだ、んだよね。笑ったままで。

 そうなってる。いまは、まだ。

 サクやんの歴史も、そのまんまだ」


 そう、本物のふたりは死んだのだ。唯聖殿の地下で。

 アズは、あんな風に――悪党として、笑ったまま。

 サクやん――サクレアは、信じていた友の裏切りに泣きながら、幾度も。

 そしてその歴史はまだ、変えられてない。

 自分でも不思議だけれど、今の俺には、それが感じ取られた。


 そして俺の前に立つナビは、それを否定しない。

 だから俺は、言葉を続けた。


「そんなのはいやなんだ。

 変えたい。一刻でも早く。

 奈々希。お願い、もう一度……」


 * * * * *


 俺は考えていたのだ。あのタイミングでも間に合うと。

 なぜって、アズが本気で狩られるようになってから、まだわずか三日。

 アズの心はそこまで深く、暴力に取り込まれてはいないはず。

 俺たちとの、楽しく平和だった――それは活動のときには刺客もきたけど――日々への切符を差し出せば、まだアズは受け取ってくれるはず。


 そう、俺は考えていた。

 けれど、そうじゃなかった。

 アズを『悪党』にしないためには、やはり一日だってそんな立場に置いちゃダメだったのだ。


 けれどあの運命は、俺の力では避けえない。

 すなわち、アズが王都に飛び出し、義賊となることは。

 そしてたちまちにして、鬱屈した世の寵児となることも。

 なぜって、アズには好奇心と正義感がある。

 そして研究院の背後にある王家の権力は、俺たち七瀬のそれより大きく、国内のすべてを押さえつけている。


 でも、俺は気付いた。

 それをひっくり返す方法がないわけじゃない。

 そうすればそのさきの――『王都の悪党』となる運命は、『上書き』できる。

 それ以上の運命が、押し寄せることによって。

 だから俺は、アズールが義賊となってすぐ、自ら革命ののろしを上げた。


 大義も勝算も充分あった。

 エリーをはじめとした由羅は、経済基盤の弱さから、なにかと冷遇されていた。

 経済を停滞させかねない王の舵取りのまずさに、三倉も見切りを付け始めていた。

 偉名王の出身である、瑠名の中にすらいたのだ――貧しく、虐げられるものたちが。その立場に落ちぬよう、現状に必死にしがみつくものたちが。

 俺も、七瀬のみんなにも、いいかげん義憤がたまっていた。

 アズも俺の側で戦える、ときけば二つ返事で加わってくれた。


 なにもかもがたやすかった。

 俺は『御座トロン』のチカラをフルに利用して、シミュレーションの中にありながらも、その情勢をすべて把握し、最適なやりかたをはじき出しつつ進めたからだ。

 いうなれば、逆行転生による知識チート+『大賢者』による高速多重演算の無敵の体制。

 俺は、希代の天才軍師としての成功をほしいままにした。

 戦いも余裕。交渉も危なげなし。

 的確に仲間を集め、裏切り者を近づけず、敵対者の布陣のスキをことごとくつき、敵味方の死者をだすこともなくして、革命軍はみるみる偉名国内を掌握。

 挙兵から一月もたたずして、偉名宮に王手をかけた。


 * * * * *


 計算ずくめの俺の毎日だったが、アズとふたりの休み時間だけは別だった。

 あったかいコーディアルを飲み、のんびりと過ごす。

 そのときだけは、俺は『御座トロン』を使わなかった。

 しばらくそんな時間も持ててなかったが、今日だけはみんなに無理言って、時間を作った。

 だって、明日は決戦だ。

 明日勝てば、全部終わる。

 俺は偉名王になって、アズはその一の騎士。

 俺はアズにずっとそばにいてもらう。ユキマイに行けなんて、サクレア王を篭絡しろなんて絶対言わないし、ほかの誰にも言わせやしない。

 それで、すべて終わる。アズとサクやんは永久に、呪わしい『過去』から逃れられるのだ!



 時間が夜で、非番のときなら、アズがいる場所を探すのは簡単だ。

 月が一番綺麗に見える場所。そこにいつも、アズはいるのだ。

 俺はアズが一番好きなコーディアルをマグカップに入れて、庭園を横切る渡り廊下を目指した。

 はたして、アズの後姿はそこにあった。


「アズ!」


 声をかけると、アズは振り返った。

 しかし、今夜のアズは、黙ったままだった。

 さすがのアズも、決戦を前に緊張しているのだろうか。


「だいじょぶだよ。明日もぶじ勝てる。

 そうしたら、ぜんぶ終わるから。

 はい、いつもの。まだあったかいよ?」


 だから笑って、マグカップを差し出した。

 しかし、アズはそれを受け取らない。

 無表情のまま、ぼそっと言った。


「お前、最近つまんねえな」



 ――何を言われているのかわからなかった。

 ぽかんとしていると、説くように、やさぐれるように、吐き出すように、アズは言葉を重ねてきた。


「つまんねえんだよ、今のお前。

 前はよ、いちいち泣いたり笑ったり、失敗しちゃ落ち込んで、でも立ち直っちゃがんばって。

 ホント、どうっしようもねえお人よしで、天然ボケで危なっかしくて。

 だから俺はお前んとこにきた。

 それがいまのお前ときたら、常に余裕ぶっこいてよ。俺サマはなんでもわかってますって顔してやがる。

 お前の作戦はいっつも完璧だ。正直俺いらねえよな。つまんねえよ。

 だから、決めた。俺、あっちにつくわ。

 安心しろよ、お前らは殺させねえから。

 いいか、止めるなよ? ぜったいに、止め……」

「待って!!!」


 へんな念押しをされたが、聞けるわけもない。

 混乱のまま俺は、アズの腕をつかんでいた。

 ブリキのマグカップが、硬い音を立てて床に転がる。

 せっかくのコーディアルもこぼれて流れてしまったが、いまはそんなの、どうでもよかった。


「待って、よ……なに、いってるのかわかんない。

 王党派につくって、そういってるの?

 まって、ちがうんだ、俺がこんなことしてるのは、そうさせないためであって……

 そしたらお前はきっとユキマイに行かされることになる。そしたらきっと、サクやんを殺して、それで、……

 だめだよ。そっちに行ったらダメなんだ。

 たのむから、ここにいて。ユキマイには行かないで。なんでもするから。だから……」

「へえ。なんでもしてくれるのか? マジに?」


 アズがすいと手を掲げると、誰かが後ろから俺の腕をつかんだ。

 目の前には、銀色のきらめきが複数。

『騒ぐな』。そんな声をかけられて、背中が一気に冷たくなった。


 アズは楽しげに笑った。


「こいつら誰だって? ほら、こないだ昔の仲間だっていって連れてきた奴らだよ。

 お前俺のこととなると何一つ疑わねえんだもん。あんときだけは逆にびびったわ。

 ……いや、マジに? 泳がせてたわけじゃなしにマジ?」


 痛感した。俺は、バカだ。


 アズは俺の親友だって、裏切ったりなんかしないって、信じきっていた。馬鹿じゃないか。

 アズは俺を助けた。でも俺を裏切ってた。史実ではそうだったじゃないか。ずっとずっと俺に隠してサクレアをひどいめにあわせてた。

 なのにどうして、アズを信じきっていたのだろう。


「……心配すんな。

『ナナの身柄は俺のもの。必要以上の傷を負わせねえ』

 俺はやつらにそう約束させてある」


 おんなじだ。またおんなじだ。

 にやりと笑う顔はおんなじだった。

 こいつは、いまのアズは『王都の悪党』だ。『悪党』になってた。戦いを通じて。俺がよこした、戦いの毒を食らって。俺が歪めた。


 なにもかもが真っ暗に染まった。そんな気がした。

 今度は言い訳の余地もない。俺がこの手で、こいつを、悪にしてしまったのだ。




「一緒に来い、ナナ。そうすりゃ俺は、お前だけのモンだ」



 それでも、こいつは俺に笑いかける。手をさしのべてくれる。



 だましても、裏切っても、拉致っても、最終的には俺のことを――




 そのとき俺はもう、赤と黒の瞳におぼれていた。

 いますこし冷静になれば、話術と幻惑にやられている、そう気付いたはずなのに。


「……うん」


 でも、そのときの俺にはそんなのもう、どうでもよかった。

 アズの笑みが優しくなった。

 大きな手であたまをなでてくれた。

 そっとなみだをふいてくれて、そして――


「っにやってんのよもう、ナナオのバカっ!」


 そのとき俺は正気にかえった。

 みれば、俺たちは全員囲まれていた。

 武器を構えた仲間たちに。

 それを率いているのは、陽光色のツインテールに、ルビーの瞳を持った戦姫。


「エ、エリー!」


 だった。

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