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俺はやり遂げる! 仲間を見つけてモンスター退治だ!

「おはようございます! 私、案内係の天使です! 早速ですがこちらをご覧下さい!」

 

 頭の鈍痛と共に目を覚ますと、白く輝く空間の中にこやかに羊皮紙を広げる白羽根の生えた女がいた。 訳がわからないままに羊皮紙を見ると、とんでもない記述が飛び込んで来た。

 

 異世界転移者:萬野茂治

 最終目標:一万文字以内での魔王討伐

 獲得スキル:少し先の未来予知能力

 ルール:茂治視点で小説を書かない、描写を省き過ぎない、仲間を作る

 ※未達成の場合、萬野茂治の頭部が爆発する

 

「な、なんだこれは! ふざけんな!」

 

 十代半ばの茂治は処理が追い付かず、拳を振り上げて女に怒号をぶつける。

 

「ええーっと一から説明してもいいんですけど、あなた頭が吹き飛びますよ?」

 

 穏やかでない言葉と女の威圧感に気圧され、茂治は不満な表情のままなんとか口を噤む。 どうやら冗談ではない様子だと感じ取れた茂治は、簡潔に説明を求めた。

 

「はい! では口語だと文字数が増えるので箇条書きにしますねー」

 

 ・事故死した茂治を異世界で生き返らせる代わりに条件をいくつか付加した

 ・魔王討伐に成功した場合、茂治の望みを一つ叶える

 

「ち、ちょっと待てよ! 誰が何のために俺を生き返らせたんだよ!? 異世界ってなんだ――」

「ほらほらもう500文字越えてますよ。 死にたくないなら無駄口叩いてないで早く異世界へ行った行った〜」

「ううっ……と、とりあえず異世界とやらに行くしかないか」

 

 

 

 茂治が気が付くと、人々の行き交う足音が耳に入って来た。 ハッとして辺りを見回すと、鎧を着込み帯剣した男や杖を持ちローブを羽織った女が目に入った。 木造らしき住居の数々に大きな酒場……茂治はここが異世界だと確信した。

 

「うわあぁぁ本当に異世界じゃねぇか!」

 

 黒いやや長めな髪を掻き毟り苦悩の声を荒げる。 町人達が冷たい目で茂治を一瞥して去って行く。

 

「はっ!? こんなことしてる場合じゃねぇ! 早く魔王討伐に出かけなきゃ!」

 

 しかし相手は魔王、それに数々の縛りルールを設けられていることが茂治を苦しめる。

 

「そうだ! あの羊皮紙に書いてあった獲得スキルとやらを使えば何とかなる……はず!」

 

 早速スキルを使う茂治。 使い方を知らなかったが頭の中でイメージを続けていく内に、脳内に映像が出てきた。

 

「どれどれ……お? 酒場に入るのか」

 

 そこまで把握出来たので、駆け足で酒場に向かう。 中に入ると、屈強そうなハゲたおっさんや魔のオーラが全身から漂う女、更には僧衣を来たウシ頭の人間や発掘家の格好をしたリザードマンといった獣人が酒をあおっていた。

 

「おおっ……! ここで仲間を見つけたらいいんだな! よしさっさとやるか」

 

 しかし茂治の思惑通りには行かなかった。 スキルを使いながら一人一人に当たって行くのは相当時間がかかりそうだと判断したため、手当たり次第に声をかけることにしたが誰一人として相手をしてくれなかった。

 

「おう兄ちゃん、『デーモン殺しのベアード』に気安く話かけるたぁいい度胸だな」

「ヒヒッ! このシマを仕切っているベアード様に近づくとは愚かなヤツだな」

 

 それどころか、茂治はベアードとかいうクマ人間に腕を掴まれ凄まれてしまった。 筋骨隆々なベアードの威圧感と取り巻きの人間達の汚らしい嘲笑が茂治の心臓の鼓動を早くさせる。 しん、と静まり返った酒場が更に茂治を追い詰める。

 

「あ、ご、ごめんなさい、1000文字越えてるから焦って人を間違えました……」

 

「1000? 何訳の分からんねーこと言ってんだ兄ちゃん? ふざけんのも大概にしろや!」

 

 腕を掴む力が強くなり茂治の骨が軋み出す。 懇願する茂治の声は届かず、誰もが駄目だと悟った……

 

「おう、そのくらいにしとけ。 あんまり騒がれちゃ酒が不味くなるわ」

 

 茂治の真後ろから聞こえてきた助け舟。 よく通る逞しい声が酒場に響き渡る。

 

「誰だテメェ!? このベアード様に楯突くっての……いぎゃっ!!」

 

 割って入ってきた何者かが茂治の腕を掴むベアードの手首を捻り上げる。 痛みで叫ぶベアードは茂治の腕を離し、折れそうな手首を庇う。

 

「ベ、ベアード様! テメェ何しやがる!」

「やっちまえ!」

 

 取り巻きらはナイフや斧を取り出し応戦する。 が宙を舞うベアードに押し潰され、ぎゅうと情けない声を出して倒れ込んだ。

 

「あ、ついこいつをぶん投げちまった」

「助かった……ありがとうございま――っ!」

 

 茂治は息を呑んだ。 助け人に例を言おうと振り向いたら、ベアードに勝るとも劣らない体躯の人狼がそこにいた。 数々の古傷を持つ狼の顔にゴワゴワの灰色の体毛に包まれた筋肉の塊が、歴戦の勇士らしさを主張していた。

 

「大丈夫かボウズ? とりあえず、暴れちまったし憲兵が来る前に早いとこ出るぞ」

 

 人狼は固まって動けない茂治を肩に担ぎ、酒場を後にした。 人の少ない町の外れまで運び出し、二人はひと息付くことにした。

 

「よう、落ち着いたか? しっかし何でボウズはあんなとこにいたんだ? まだ酒を呑める年齢じゃねぇってのに」

「あ、ああ。 実は……」

 

 茂治はこれまでの経緯を、文字数に気を付けながら説明した。 異世界転移という、一歩間違えたら頭のおかしな話は少々表現を捻じ曲げてどうにかして納得させることが出来た。

 

「ふーむ……魔王の呪いで死期が近いのか。 なるほど、酒場での無茶な行動はそのためだったか!」

「え、ええまあはい」

 

 スキルについても伏せて置いた。 信憑性を疑われて仲間に出来るチャンスを失いたくなかった故の行動であった。

 

「良し、じゃあこの俺ローウェンが魔王討伐の手伝いをしよう! 俺も魔王討伐の旅路だったしついでだ」

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」

 

 気楽にしてくれと威勢よく笑うローウェンに、茂治は可能性を感じていた。 この強さならもしかしたらいけるのでは? という期待感を胸に、二人は町を出発した。

 本当は可愛い女の子が良かったなと心の中で呟いたが、贅沢は文字数浪費に繋がるのですぐに気持ちを切り替えた。

 

「ところで、魔王はここからどのくらいの距離があるんだ?」

「そうだなぁー順当に行くと、山岳をいくつか越えて川を渡って崖を渡って魔王城に到達ってとこかな」

 

 山岳をいくつか越える、この時点で茂治は頭を抱えた。 描写は飛ばし過ぎたら駄目というルールがあるため果たして間に合うのかこれは? と心配した。

 

「茂治は急がなきゃ駄目なんだよな。 そうだなぁ……かなり危険だし確証はないけど、小耳に挟んだ近道とやらを通るか」

 

 もう2500文字近く使っているので茂治は是非を問わず即決した。 とにかく早く魔王城へ、細かいことはどうでもいいんだよ! となりふり構わず近道へと急いだ。

 

 

 

「ローウェン、ここが近道なの?」

「昔の坑道だからかなり危険だけどな。 ここから魔王城前の崖近くに出れるらしいがモンスターの巣窟だし岩盤がいつ崩れるかわからねぇ、そもそも道が貫通してる保証はねぇからな」

 

 二人は岩壁の洞窟前に来ていた。 ローウェンが入り口を封鎖している鎖や木板を引きちぎりつつ説明しているが、茂治はただこの道に賭けるしかなかった。

 念の為にスキルで未来予知を試みたが何故か発動出来なかった。 回数制限のような条件でもあるのかなと茂治は考えたが、時間を無駄にしたく無かったためさっさと洞窟へ飛び込んだ。

 

「一応松明や簡単な武器は十分量用意してるが無理はすんなよ。 いつモンスターが飛び出すかわからねぇからな」

 

 茂治はまだ見ぬモンスターに震えつつも、松明と手頃な棍棒を装備する。

 

 人狼のローウェンは優れた嗅覚と聴覚を持ち、更に熟練の経験でモンスターの気配を探りつつ先導する。 毒牙を持つケイブバットを刺激しないようやり過ごしオークの寝息を察知して遠回りするなど、なるべく戦闘を避けていった。

 

 「くぅ、もう3000文字か。 心なしか苦しくなってきたぜ……あっ」

 

 焦る気持ちのせいかケイブバットのフンで足を滑らせ茂治は大きな音を立ててすっ転んでしまった。

 

「痛ってぇ……尻が割れちまったぜ」

「マズいな、デカい音を立ててしまったか。 モンスターが来るかも知れねぇ、気を付けろ茂治」

 

 松明で辺りを照らし警戒するローウェン。 すると横穴や壁穴からゾロゾロと人型のモンスターや巨大な虫が姿を現した。 棍棒やボロボロの剣を持つ小鬼や、大きくギザギザなハサミと小さく鋭い針を持つサソリが二人を取り囲んだ。

 

「き、気持ち悪い連中が沸いて来たああ! あっち行け!」 

「変だな……敵対するはずの普通のゴブリンがギロチンサソリと一緒に居るだと?」

 

 もしや、と閃いたローウェンは耳を立て音を探り、松明をゴブリンの大群に向かって投げ込んだ。 松明を投げ込まれた刺激でゴブリン達は唸り声をあげ威嚇を始めていく。

 

「ちょっ、何あいつら怒らせてんの!? それに松明が無いとどうしようもないでしょ!」

「茂治の一本で見えるからいい、それより俺が投げた先を見ろ」

 

 遠く投げ込んだ松明が薄汚れた僧服を着たゴブリンを照らしていた。 人間らしき頭蓋をあしらった杖を持ち、何やら呪術を唱えている。

 

「あいつが親玉のゴブリンシャーマンで、サソリ共を呪詛で支配しているようだな。 あれさえ倒しちまえばゴブリンとサソリで相打ちさせられるかもしれん。 今から俺が血路を開くから、茂治はシャーマンを殺れ!」

「ええっ! 俺が!? モンスターとはいえ殺すのは抵抗が……い、いやわかった! 俺がやる!」

 

 魔王を倒すために旅をする俺がこんな雑魚すら倒せなくてどうする! と茂治は頬を叩き自身を叱咤する。 棍棒を握る手に力が入り、闘気が満ちていくのを感じていた。

 

「よし……行くぞっ!!」

 

 ローウェンの掛け声と共にシャーマンへ一直線。 ローウェンが獣のような早さで駆け、次々にゴブリンやギロチンサソリを切り裂き殴り飛ばしていく。 茂治は返り血を全身に浴びつつも怯むこと無くローウェンの背中をしっかり追い続ける。

 

「見えた……! さあ行け茂治っ!」

 

 ローウェンが身体を捻らせ茂治を掴み、回転をかけてぶん投げた。 茂治は投げられることを想定していなかったが、その目はただひたすらにシャーマンを捉えていた。

 

「おらああああっ!!」

「グギッ!?」

 

 思わぬ奇襲で逃げ遅れたシャーマンは、茂治の遠心力をたっぷり込められた棍棒を頭に受け、岩壁まで吹き飛び絶命した。

 ゴブリン達は一瞬で親玉が死んだことやギロチンサソリが敵意を向けて来たことに狼狽え、統制を取れぬままに乱戦が始まった。

 

「よくやったぞ茂治! さあ今の内に行くぞ」

 

 ローウェンは勢いのあまり地表に叩きつけられノビていた茂治を抱きかかえて先を急いだ。

 ゴブリンとギロチンサソリの騒乱を背に、断崖を飛び越え残党を踏み飛ばし、ついに二人は光の射し込む空間へ辿り着いた。

 

「起きろ茂治。 どうやら道は本当に繋がっていたようだな」

「あ、頭痛ぇ……うおっ本当だ光がある!」

 

 だが出口と思わしき場所は遥か上にあり、ゴツゴツした壁を登るしか方法は無かった。

 

「いくつか手足を引っ掛けられそうな場所はあるが、もし滑らせたら骨を持っていかれるなこりゃ。 どうする茂治?」

 

 どうするとは言え、もうそろそろ5000文字に達するので別の出口を探す余裕は無い。 光の筋を見上げ少し悩む茂治、すると突如頭の中に未来が映し出された。

 

(な、なんだ!? スキルを使っていないのに脳内に映像がっ!)

 

 それは壁を登るローウェンの背に捕まり、道筋を導く茂治の姿だった。 しばらくして二人はついに出口から脱出したところで映像は途切れた。

 

 茂治は自身のスキルについて未だに法則性や発動条件を見い出せていなかったが、やはり考察する時間が惜しいためさっさと壁登りに移行した。

 ローウェンは茂治を背負い、茂治の指示に従って着々と手足を引っ掛けていく。

 

「いやぁ、まさか茂治にこんな特技があるとはなぁ」

「い、いやぁそれほどでも。 あっその木の枝は掴まないようにな」

 

 やがて二人は洞窟から抜け出すことが出来た。 風が木々の匂いを運び、肺に溜まった洞窟の空気を洗い出していく。

 

「ついにここまで来たか……残り5000文字くらいで俺は魔王を倒せるのだろうか」

 

 断崖絶壁の向こうに聳えたつ、天まで伸びる魔王城が茂治を見下ろしていた。 不安や高揚感で震える腕を掴み、茂治は瘴気に包まれた魔王城を強い眼差しで見上げていた。

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