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一.春の里にて

 春の女王様は、大念塔でのお役目の三カ月を過ごされる以外は、御自分の生まれ故郷である春の里でお過ごしになられます。

 春の女王様をお守りする春忍者達も、共に里で過ごします。

 さて、忍者と言っても、精霊大王様が天下統一を果たされ、大王兼大将軍となられてしまった今の世の中では、することもありません。

 もっぱら、女王様の警護、女王様の住まわれる屋敷の警備、雑巾がけ、便所掃除、雪かき等。修業の時間をする暇などなく、手荒れのひどい仕事ばかりです。

 それでも忍者達は文句一つ言わずこなしています。

 女王様も、大変感謝しており、いつも忍者達をねぎらっています。女王様に褒められて忍者達もお仕事を頑張ります。これがウィンウィンの関係ですね。

 しかし、その中で仕事をさぼってばかりの不良忍者がいました。

 彼の名前は春飛はるとびサスケ。春忍頭領の一人息子、これからの春の里を担っていく大変責任ある立ち場にも関わらず、いっつも仕事をさぼっては昼寝をしたり、盗み食いをしたり、台所の女中達のところに遊びに行ったり、ふらふらとどっかに遊びに行って日の出の頃に帰ってきたりと、放蕩息子を地でいっています。

 頭領様も息子にはあまり厳しく言いません。皆不満たらたらですが、はやり偉い人には逆らえないということですね、我慢しています。


 さて、雪がしんしんと降り積もる曇空の日。

 囲炉裏の前でサスケは今日もねっ転がっています。

 すると、頭領から呼び出しを受けて、仕方なくしぶしぶ、どうしようもなく重い腰を上げました。

 頭領がいつもいるお堂へ入りますと、火も点けずに体を丸めて座っていました。

「親父どの、なんだい」

 いつものように悪びれもせずに用を尋ねると、頭領は言いました。

「サスケ、冬の女王様のところに行ってくるのだ」

 なんとも、厭な用件です。

 サスケも、話には聞いておりました。

 この冬がいつまで経っても終わらないのは、冬の女王様が塔から出てこないからだというのです。


 この不思議の国は一年を通して四つの季節が廻ります。

 雪が解け、命が芽吹く春。

 太陽が輝き、熱が覆う夏。

 実りが溢れ、枯れてゆく秋。

 氷雪が包み、命を蓄える冬。

 これは、春・夏・秋・冬。四人の女王様が交代で国の真ん中にある大念塔で、大念法俸四季天変の行を果たすことで、季節が移り変わっているのです。

 今は一面の銀景色。冬の時間です。冬の女王様が塔で祈り続け、春先のために土に水を蓄え植物達が芽を伸ばすための寒気を与える時間。

 けれど、長すぎです。いつまで経っても暖かくなる気配がありません。このままではたんぽぽの種も、桜の芽もカチコッチンです。

 もう、春の女王様に交代しなければならないというのに、未だに塔から冬の女王様が出てこないのです。


 頭領は言いました。

「我らの春の女王様は、もう待ちきれないと行った様子で部屋の中を落ち着きなくうろうろされている。しかし、この状況は確かにおかしい。せがれや、塔に行き、冬の女王様の様子をうかがってくるのだ」

 サスケも応えます。

「厭だってんだい。第一、冬の塔は冬の女王様の忍者達がお守りしているだろう。冬なのに、春の忍者がのこのこ出て言ったら、文句を言われちまうよ」

 組織同士の軋轢という奴ですね。

 しかし頭領は少しも心配していません。

「大丈夫だ。お前が仕事をしないで遊び歩いている『フリ』をしていること、皆信じきっている。突然冬の塔に近付いて見つかったとしても、勝手にやってきたと、袋叩きにされて終わるよ」

 全然大丈夫じゃありません。

「これは、精霊大王様直々の御命令だ。こういう大変なことが起きた時に、誰にも警戒されないで任務ができるよう馬鹿ドラ息子のフリをしていたのを、役立てる時が来たのだ、行け! 春飛サスケよ」


 そう言って、この寒空の下、叩き出されたサスケでした。

「まったく、無茶を言う親父だよう。おいらは、馬鹿ドラ息子のまんまでずっと過ごしたかったってのになあ」

 実際のところ、サスケは働くのは嫌でしたが、いつまで経っても寒いのは嫌なので、早速不思議の国の真ん中にある、冬の女王様がいるはずの塔を目指すのでした。



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