第1章 日常の重圧と骨董市の青い石
「快斗、また溜め息? これで16回目」
夕暮れ時の放課後。街灯がぽつぽつと灯り始めた駅前の交差点で、立花星来が足を止めて振り返った。風になびく黒髪を耳にかけながら、どこかすっと冷めた、けれどどこか楽しそうな瞳で僕を見つめている。
「16回って……いちいち数えてるのかよ、星来」
「数える気になるくらい、快斗の溜め息が重たいってこと。はい、これ」
星来から差し出された冷たい缶ココアを受け取り、プルタブを引く。シュッと小さな音がして甘い香りが漂い、一口流し込むと喉を通っていった。
「で? なんでそんなに憂鬱そうな顔をしてるの? 進路希望調査の紙、まだ白紙なんでしょ」
「白紙だよ。ていうか、書けるわけないだろ」
僕、仁川快斗は13歳の中学1年生。
成績は中の上。運動神経も中の上。自分には何一つズバ抜けた才能がないと痛感している、どこにでもいる中学生だ。
「将来どうやって食べていくのか」
「何のために勉強するのか」
学校の廊下に貼り出される成績順位表や、先生たちの「そろそろ将来を真剣に考えなさい」という言葉が、目に見えないプレッシャーとなって僕の首を絞める。
でも、僕にとって一番重苦しいのは——家の中にあった。
僕の父さん、仁川真司は、若い頃にシャーロック・ホームズの物語に夢中になったらしく、今でもホームズを熱烈に愛している。家の中にはホームズの書簡集やヴィクトリア朝の解説書がずらりと並び、父さんは僕に目を輝かせてその魅力を語ってくるのだ。
『快斗、ホームズの観察眼はすごいぞ。お前ももっと視野を広く持てば、自分の素晴らしい将来が見えてくるはずだ!』
父さんに悪気はない。長い不妊期間を経て生まれた僕を、心から愛してくれているのも分かっている。母さんの麻子だって「真司さんは熱くなりすぎね。快斗の要領が悪いのは私に似たんだから、自分のペースでいいのよ」と優しく抱きしめるように庇ってくれる。
けれど、父さんの純粋すぎる情熱や、周囲からの「あの仁川さんの息子なら……」という無言の視線が、僕にはたまらなく息苦しかった。父さんが愛する「本物の天才ホームズ」と比べて、僕には何の才能もない。
「はあ……」
17回目の溜め息をつくと、星来が呆れたように笑った。
「考えすぎ。快斗はそうやって人の顔色とか気持ちばかり気にして足が止まるんだから。でもさ、そういう気遣いができるところ、パワーストーンの波動より癒やされるよ?」
「……さらっと変な励まし方すんなよ」
星来は僕の幼馴染だ。僕の両親である真司と麻子、そして星来の両親である立花公平叔父さんと、はるか叔母さん。この4人は昔からの大親友同士で、僕たちが生まれる前からの家族ぐるみの大切な付き合いが今も続いている。
親同士が親友だから、僕と星来もまるで生まれた時からの腐れ縁みたいなものだ。パワーストーンや都市伝説が大好きな不思議ちゃんで、世間の目や理屈なんて気にせず、直感でずかずか突き進む星来。考えすぎて動けなくなる僕の背中を、彼女はいつも悪気なくポンポン叩いて引っ張っていく存在だった。
「悩みで頭がいっぱいなのは分かったけど、快斗。今日の最大の目的、忘れてない?」
星来がスマートフォンの画面を僕に見せる。そこにはあるゲームの公式サイトが映っていた。
『アルカディア・オンライン —約束の果てへ— 本日17:00 全世界同時発売!』
「あ……!」
思わず声が出た。そうだった。予約して待ちに待っていた新作ゲームの発売日が今日なのだ。
「自分の『将来の正解』は分からないけど、『今日発売のゲームを全力でプレイする』っていうのは、今の快斗にとって100%の正解でしょ?」
星来の言葉に、ハッとさせられた。
大層な将来の夢なんてない。父さんみたいに何かに情熱を注げているわけでもない。だけど、今日を最高のものにするための「ゲームを楽しみたい」という気持ちにだけは、嘘がない。
「そうだよ……! 俺、早く帰ってあのゲーム攻略しなきゃいけないんだ!」
「でしょう? じゃあ、帰るついでにちょっと付き合って。駅前の骨董市で、気になるパワーストーンが出品されてるの」
星来に袖を引っ張られ、僕たちは駅前広場で開催されていた露店街へと向かった。
色あせた古本や謎の絵画、古い置物が並ぶ怪しげなテントが立ち並んでいる。星来は目を輝かせながら骨董品を覗き込んでいたが、ふと、ある小さな木箱の前で足を止めた。
「うわ……見て快斗。この石、すごい」
星来が指さした布の上にあったのは、深い青色をした一粒の宝石だった。深い海と夜空を混ぜ合わせたような透明感のある輝き。値札には『青いガーネット(詳細不明)』と書かれている。
「へえ……綺麗だけど、青いガーネットなんてあるのか?」
僕が顔を近づけると、その宝石の表面に、かすかに細かい文字のような刻印が彫られているのが見えた。
「これ、すごくいい波動が出てる気がする! 快斗、買っちゃいなよ!」
「えっ、なんで俺が!? いや、でも……なんか引き込まれるな……」
小遣いで払える程度の安値だったこともあり、僕は吸い寄せられるようにその青い石を買い求めた。手のひらに乗せると、ほんのりと温かい。
「よし、無事に珍しい石も手に入ったし、早く帰ってゲームしようぜ!」
僕がポケットに宝石を押し込むと、星来がいたずらっぽく笑った。
「ふふ、ゲームもいいけど、明日の進路指導から逃げるために、いっそ19世紀のロンドンにでも吹き飛んじゃえばいいのにね。真司叔父さんたちが大好きなホームズの世界へさ」
「冗談よせって! そんなとこ行ったらネットも電気もないし、新作ゲームがプレイできなくなるだろ! 俺は現代の日本でゲームがやりたいんだよ!」
僕がそう叫んだ、まさにその瞬間だった。
ポケットの中の青いガーネットが、パッと眩い濃紺の光を放った。
「え……!?」
「快斗、石が……!」
周囲の景色がグニャりと歪み始める。商店街の喧騒が遠のき、代わりに馬の蹄の音と、湿った風の匂いが立ち込めていく。駅前の現代的な街頭の光が消え、深い霧の中にぼんぼりと灯る「ガス灯」の明かりが浮かび上がった。
「な、なんだこれ……!?」
僕と星来の足元から地面が消え、僕たちは激しい眩暈とともに、見知らぬ「古い街並み」へと投げ出されたのだった。
ホームズ依頼人、青いガーネットの奇跡(略称 2作とも自力で書きました)の真司と麻子、その親友の立花公平、はるか夫妻の子ども、快斗と星来の物語がスタートです。
父親の真司と違い、快斗は、真司からのホームズ絶賛話ばかり聞かされて耳タコになっています。
そんな快斗が星来とともにホームズに出会ったらどうなるか?と思い、この物語を作りました。
この物語は、アイデアを出してAIが書いたものを加筆修正しました。




