転生ヒドイン、前世は銀行員
本編には、浮気および刺殺に関する描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
佐藤美幸は、大手銀行で働く、ごく普通のOLだった。
30歳の時、大学時代の同級生である田中弘と婚約。
両家への挨拶を済ませ、入籍の段取り、結婚式場の手配、新居探し、そして仕事と、慌ただしい毎日を送っていた。
入籍日をいつにするか、両家の両親も交えて話し合っていた、ある日のこと。
弘が浮気を告白した。
しかも、相手は美幸の大学時代からの親友、舞美だった。
舞美は涙ながらに訴える。
「弘さん……素敵な人だから……でも、美幸の婚約者だし……好きになっちゃダメだって分かってたけど。でも……どうしても自分の気持ちを抑えきれなくて……。」
その結果、二人は関係を持ち、舞美は妊娠したという。
両家の両親は呆れ果て、言葉も出ない。
「……お前、婚約の意味、分かってんのか?」
弘の父が、どうにか言葉を絞り出した。
「マリッジブルーで気の迷い、だけじゃ済まないわよ? あんた、美幸さんにも、その子にも、ちゃんと責任を取りなさいよ。」
弘の母は、まるで死刑宣告のように告げる。
「も、もちろん……。美幸にはちゃんと慰謝料を払うし……舞美ちゃんとお腹の子にも……。」
ずっと黙っていた美幸が、すっと立ち上がった。
「んなら、話は早いわ。」
美幸はすぐに行動を起こした。
大学時代の先輩のツテを頼り、弁護士を召喚する。
「慰謝料の相場って、いくらぐらいなんでしょうか?」
「実は、これといった決まった金額はないんですよ。案件にもよりますが、一般的な目安としては50万〜200万円程度とされることがありますね。」
「安っ!!」
「ですから、あくまで参考金額です。先ほどお伝えした通り、案件によって事情は異なります。
美幸さんの場合、婚約期間や結納の有無、式場の予約やキャンセル、新居の購入計画など、結婚に向けて具体的に準備を進めていた事情がありますから。そのあたりを整理して、請求内容を検討する必要がありますね。」
「提示された金額から減額していくって聞いたんですけど。」
「交渉では、最初に提示した金額と最終的な合意額が異なることもあります。ただ、請求額をどう設定するかは、個別の事情を踏まえて考える必要があります。」
「なるほど。じゃあ、スタートは1,000万円で。」
「そんな……オークションみたいな……。」
美幸の母のツッコミが、虚しく響いた。
弁護士は目をパチクリと見開く。
「随分と強気ですね……。」
「いや、満額取れるとは思ってませんよ。」
「……と、言いますと?」
「最終的な着地点を考えて、交渉の余地を残しておくんですよね?」
「……美幸さん、銀行員でしたね。」
「はい。融資の審査は担当していませんけど、数字を扱う仕事ですから。」
「なるほど……。ただ、高額な請求そのものが直ちに問題になるわけではありませんが、請求の仕方によっては、恐喝罪や脅迫罪などの問題が生じる可能性もあります。
請求額についてはこちらで検討しましょう。婚約破棄に至った経緯や、結婚準備に伴う損害などを整理したうえで、請求内容を決めていきます。」
「では、プロにお任せします。」
「最初からそうしなさい。」
美幸の母が、深々とため息をついた。
こうして、婚約破棄に伴う慰謝料の請求手続きは淡々と進んでいった。
そして最終的に、美幸は弘から350万円、舞美から180万円を受け取った。
担当してくれた弁護士は、苦笑しながらこう語った。
「私、弁護士をして20年近くになりますけど、ここまでの案件はレアですね。」
婚約破棄に伴う慰謝料請求としては、特殊なケースに当たるのだろう………と、美幸はどこか他人事のように思った。
慰謝料の支払いについては、もちろん一括を希望した。
弘の預金残高や収入、投資で儲けた金があることは知っていたからだ。
弘からは分割払いを希望されたが、弘の両親がそれを許さなかった。
「一括で払え。最後ぐらい誠意を見せなさい!」
両親に叱られ、弘は結局、一括で支払った。
一方の舞美は、払えないと駄々をこねた。
しかし、弁護士から「でしたら、法的措置を検討することになりますが……。」と告げられると、あっさり支払いに応じた。
どうやら、両親が親族に頭を下げまくり、援助してもらったらしい。
だが、美幸からすれば、そんなことはどうでもよかった。
受け取った慰謝料を前に、美幸は考える。
「ここから弁護士費用を払ったとしても、まだ余るな……。まぁ、汚い金には変わりないから、思い切って使うか。」
銀行員である美幸は、収入面では安定している。
老後の資金として残しておくことも考えた。
「……いや、増やすか。」
慰謝料の一部を資産運用に回した。
そして、残った金で両親と二週間のヨーロッパ旅行を満喫した。
さらに、婚約破棄で余計な心労をかけてしまった姉夫婦と姪たちへのお詫びとして、某テーマパークの宿泊券付き旅行をプレゼントした。
そうして、少しずつ自分の人生を取り戻していった美幸。
そんなある日のこと。
帰宅途中の美幸は、舞美に刺された。
「アンタのせいで!あれから弘さんと喧嘩ばかりで、うまくいかない!!
挙げ句の果てに、あの野郎、若い女と浮気しやがった!!妊娠したって嘘までついたのに!!
アンタと弘のせいで!友達も家族も、みんな居なくなったのよぉぉぉ!!」
(自業自得だろ……。)
美幸は薄れゆく意識の中で、そう思った。
【慰謝料請求に関する記述について】
本作における慰謝料請求に関する描写は、法律関連の書籍やウェブサイト等を参考にしています。
作中に登場する金額や交渉の経緯は、あくまで物語上の一例です。実際の案件では、個別の事情や証拠、適用される法令・裁判例等によって判断が異なります。
本作は法律上の助言を目的としたものではなく、記述の正確性を保証するものでもありません。あらかじめご了承ください。




