表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜が目覚めたら将軍!? 史実(未来予知)で成り上がり、乱世を生き抜く  作者: 八月河
第十三回 驃騎北征馳草原 三族一致戦漢朝
PR
103/118

第十三回 驃騎北征馳草原 三族一致戦漢朝 三段

建安六年、盛夏。


草原の戦局は、高順の陌刀隊投入によって一時は優位に傾いたかに見えた。しかし鮮卑の扶羅韓と匈奴の呼廚泉は決して愚かではなく、正面からの騎兵突撃が通じぬと見るや、即座に戦術を切り替えた。彼らは騎兵を散開させ、陌刀隊の側面と背後に回り込み、遠方からの騎射によって重装歩兵の体力を削り始めたのである。重甲の隙間を狙った矢が次々と降り注ぎ、陌刀隊の動きは徐々に鈍っていった。


高順は張遼と華雄に命じて騎兵隊を左右に展開させ、包囲を破ろうと試みた。張遼は右翼から鮮卑の騎兵を追い散らし、華雄は左翼から匈奴の包囲網に突入した。田豫には別命が下り、少数の騎兵を率いて敵の後方に回り込む任務を帯びている。郝萌と曹性は弩兵を率いて陌刀隊の援護射撃を続け、徐栄と牽招は右翼の守備を固めていた。宋憲、魏続、侯成の後軍は補給線の守備に手一杯で、前線に兵力を割く余裕はない。


諸将がそれぞれの持ち場で敵と対峙する中、本陣の兵力は必然的に手薄になっていた。高順の傍らに残るのは、魏越、成廉をはじめとする直属の近衛部隊、すなわち古参の陥陣営のみである。その数はわずか数千。百万の軍勢の本陣としては、あまりに心許ない兵力だった。


この状況を、扶羅韓と呼廚泉は見逃さなかった。


「高順の本陣が手薄になっている。諸将を前線に出しすぎたな。今こそ好機、全軍で本陣を叩く」


呼廚泉が指さす先には、高順の本陣を示す大旗が風に翻っている。扶羅韓もまた、冷酷な笑みを浮かべて頷いた。


「高順さえ討てば、并州軍は烏合の衆と化す。奴の首を取るのはこの俺だ」


二人は全軍の中から最も精強な騎兵を選び抜き、自らその先頭に立って高順の本陣に向けて突撃を開始した。鮮卑と匈奴の精鋭、合わせて一万五千。草原の覇者を自認する戦士たちが、獲物を仕留めるべく一直線に本陣を目指して殺到する。大地を揺るがす蹄の轟きが、戦場全体に響き渡った。


本陣では、魏越が逸早く異変を察知した。地平線の彼方から、無数の騎兵が砂塵を巻き上げて迫ってくる。その数は明らかに、これまでの陽動や牽制の規模ではない。


「敵襲! 本陣に敵主力が向かっています!」


魏越の叫びに、本陣の兵たちが一斉に戦闘態勢を取った。高順は地図を脇に押しやり、驍風に跨がると自ら重槍を手に取った。


「数はどれほどだ」


「一万五千、いや、二万近いかもしれません。鮮卑と匈奴の精鋭のみで編成された突撃隊です。我々の兵力では……」


魏越が言い淀んだ言葉の先を、高順は静かに引き取った。


「足りぬ、か。だが退くわけにはいかぬ。ここが崩れれば全軍が瓦解する。敵の狙いは私の首だ。ならば、この首を餌に時間を稼ぐ」


高順は全軍に指示を飛ばした。本陣に残る全兵力を三つの防衛線に分け、第一線は通常の歩兵と弩兵で敵の勢いを削ぎ、第二線を魏越に、第三線を成廉に預ける。高順自身は最後の防衛線の中央に立ち、全軍の指揮を執りつつ、自らも槍を振るう構えだった。


「呉資、章誑、氾嶷、趙庶、張弘、高雅の六人には、それぞれの持ち場で陣地を固めさせろ。本陣の防衛は彼らが中核となる。全員、私の合図があるまで持ちこたえよ」


高順の指示は迅速かつ的確だった。古参の陥陣営は一糸乱れぬ動きで配置につき、弩兵が矢をつがえ、歩兵が盾を構えた。本陣の防衛網は瞬く間に構築されたが、それでも敵の数は圧倒的だった。


鮮卑と匈奴の騎兵が、第一防衛線に殺到した。


弩兵の矢が一斉に放たれ、先頭を駆ける騎兵が次々と落馬する。しかし敵は数に物を言わせ、倒れた戦友の屍を乗り越えて突き進んだ。第一防衛線の歩兵たちは必死に盾を掲げて敵騎兵を迎え撃ったが、数と速度の前には抗しきれず、次々と押し破られていった。


それでも彼らは怯まなかった。倒れる瞬間まで敵の馬脚に槍を突き立て、一人でも多くの敵を道連れにしようと足掻いた。ある兵は敵の騎兵に胸を貫かれながらも、その手から槍を離さず、馬の腹に深々と突き刺した。またある兵は倒れた戦友の屍を盾に、最後の一矢を放って敵の指揮官らしき騎兵の喉を射抜いた。彼らの決死の抵抗によって敵の勢いはわずかに削がれたが、それも時間の問題に過ぎなかった。


第二防衛線では、魏越が自ら大刀を振るって敵騎兵を迎え撃った。


「一歩も退くな! ここが正念場だ!」


魏越の大刀が唸りを上げ、敵の騎兵を鞍ごと斬り飛ばす。彼の周りには、呉資と章誑が率いる歩兵が密集陣形を組んで敵騎兵の突破を阻んだ。氾嶷と趙庶は弩兵を指揮し、後方から正確な射撃で敵の先頭を削り続けた。張弘と高雅は遊撃隊を率いて側面から敵に襲いかかり、包囲されないよう巧みに立ち回った。古参たちは長年連れ添った戦友同士、互いの動きを熟知しており、言葉を交わさずとも完璧な連携を見せた。


しかし敵の波状攻撃は止まらない。魏越の大刀が敵兵を斬り伏せるたびに、新たな敵がその後ろから押し寄せる。呉資の部隊は半数の兵を失い、章誑の歩兵も疲労の色を隠せなくなっていた。


そんな中、扶羅韓が自ら先頭に立って第二防衛線の一角に突入した。彼は槍を振るい、次々と歩兵を薙ぎ倒しながら前進する。魏越はこれに応戦し、両者は激しい斬り合いを演じた。槍と刀が交錯し、火花が散る。魏越は奮戦したが、扶羅韓の剛槍の前に徐々に押され、肩に深手を負って後退を余儀なくされた。


続いて呼廚泉が別の地点から防衛線に突入し、歩兵たちを蹴散らしながら前進を続けた。第二防衛線もまた、崩壊の危機に瀕していた。


「将軍、第二線が破られます!」


成廉の声に、高順は本陣中央から戦況を見渡した。第一防衛線はすでに粉砕され、第二防衛線も時間の問題だった。魏越は負傷し、兵たちの消耗も限界に近い。残るは第三防衛線、すなわち高順自身が立つ最後の壁だけだった。


「全員、構えよ」


高順は静かに命じた。彼の声には、死を目前にした者の持つ不思議な落ち着きがあった。成廉が最後の防衛線に兵を配置し、高順はその中央に立って重槍を構えた。背後には、まだ十歳の息子たち、高景と高昭がいる。彼らは父の命じるままに、本陣の奥深くに隠れていた。


高順は一瞬だけ後ろを振り返り、息子たちを見た。高景は唇を噛みしめ、高昭は兄の袖を握りしめている。高順は何も言わず、ただ小さく頷いた。それだけで十分だった。


やがて第二防衛線が完全に破られ、生き残った魏越や呉資たちが本陣に退却してきた。魏越は肩から血を流しながら、それでも大刀を手放さずに高順の傍らに立った。呉資、章誑、氾嶷、趙庶、張弘、高雅の古参たちも、傷つきながらもそれぞれの武器を構えて第三防衛線に加わった。彼らは長年、高順と共に戦場を駆け抜けてきた戦士たちだった。董卓の下で初陣を飾り、呂布と共に長安を駆け、王允の正義を見届け、李傕と郭汜の暴虐を生き延び、并州の地で法と秩序を築き上げてきた。そのすべての戦いを、彼らは高順と共に戦ってきたのである。


そして今、彼らは最後の戦いに臨もうとしていた。


鮮卑と匈奴の精鋭騎兵が、ついに本陣の目前に迫った。扶羅韓と呼廚泉は、高順の姿を認めて獰猛な笑みを浮かべた。


「見つけたぞ、高順!」


扶羅韓の号令一下、一万五千の騎兵が最後の突撃を開始した。大地を揺るがす蹄の轟きが、高順の目前に迫る。弩兵の矢が降り注ぎ、歩兵の槍衾が迎え撃つが、もはや完全に数の差は覆いがたかった。高順は重槍を構え、迫り来る敵騎兵に向けて自ら突撃した。


「我こそは高順なるぞ!」


高順の重槍が唸りを上げ、先頭を駆ける敵騎兵を鎧ごと粉砕した。続いて二騎、三騎と、高順は次々と敵を討ち倒していく。魏越と成廉が左右から援護し、陥陣営の古参たちが一丸となって戦った。しかし多勢に無勢、敵の波状攻撃の前に一人、また一人と兵たちが倒れていく。


ついに高順の周りには、わずかな近衛だけが残った。扶羅韓と呼廚泉が、自ら高順に斬りかかる。高順は二人を同時に相手取り、重槍を縦横無尽に振るった。重槍が扶羅韓の槍を弾き、呼廚泉の剣を受け流す。しかし多勢に無勢、高順の体力も限界に近づいていた。


その時だった。地平線の彼方から、新たな軍勢の旗が翻った。それは并州軍の旗印ではなかった。草原の風に揺れるその旗には、一つの大きな文字が描かれている。「呂」——。


扶羅韓が驚愕の声を上げた。


「呂布だ! 飛将軍が来たぞ!」


高順はその声を聞きながら、重槍を杖代わりに立ち上がった。彼は待っていた。自らが囮となり、敵の全戦力を本陣に引きつけている間に、呂布が草原の民を率いて来援するのを。それは高順が密かに練り上げていた、もう一つの策だった。鮮卑と匈奴の主力が本陣に集中している今、呂布が率いる草原の軍勢は背後から敵を衝く。挟み撃ちである。


地平線から現れた呂布の騎兵隊は、瞬く間に鮮卑と匈奴の背後に迫った。扶羅韓と呼廚泉は慌てて軍を反転させようとしたが、すでに包囲の輪は完成していた。高順は残った近衛と共に反撃に転じ、敵の退路を断った。


本陣を襲った危機は、かろうじて回避された。しかし代償は大きかった。この戦いで、陥陣営の古参たちも多くが傷つき、兵の損耗も計り知れない。高順自身もまた、全身に無数の傷を負いながら、それでも戦場に立ち続けた。彼の目は、まだ戦いの終わりを見据えていた。鮮卑と匈奴の主力は潰えたが、扶羅韓と呼廚泉はまだ生きている。戦いは、続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ