22.友情
屋上に立った優奈と私は、まだ夏の名残りか、暖かい中にも秋の透き通った空気を感じ、心が洗われる気持ちで、思いっきり胸に吸い込んだ。
「ふぅ!!」
しばらく新鮮な空気を吸い込んだ余韻に浸っていたが、背後からどこか薄暗い影を感じ振り返る。
「……実花……」
優菜が心配そうに声をかける。
「優奈……、心配かけてホントごめんね」
心配してくれる優菜に早く本当のことを話したい……そんな思いで背中を押されるように、夏祭りの日から今日までの出来事を、順を追って話し始めた。
優奈はくるくる表情を変えながら一生懸命頷いている。
「なんか……ドラマを見てるような展開の速さだね……」
予想をはるかに超える進展に、口をあんぐり開けて驚いている。
かと思えば、翔太の囲いに怪我をさせられたことを耳にした瞬間、
「ほんっと、ムカツク!! なんで実花がそんな目に遭わなきゃなんないのよ!」
と鬼のような形相で怒りをむき出しにしてくれた。
「でも、実花……、よかったね……。翔太くんと両想いになれて……」
最後には自分のことのように泣き出す優菜。
そんな彼女を見て、私は自然とクスクス笑って居られた。
「えっ? 何??」
笑っている私を見て、優奈がキョトンとしている。
「優奈……! いいなぁ〜っておもってさ! 優奈は自分の気持ちにいつも素直で、正直に相手に伝えることできるでしょ?」
一呼吸置いて、続けた。
「私もそんな風に……優奈みたいに、みんなに気持ち、素直にさらけ出せたらさ……こんなにややこしいことにならなかったのにな……」
なんでも素直に感情を表に出せる優菜のことが今は心底羨ましい。
「実花……そこが実花のいいところなんだよ? 慎ましくて、いつも自分のことより周りの気持ち先に考えるでしょ? 実花といると、いつも気持ちがあったかくなる。たまにおっちょこちょいでヒヤッとするけどね」
優菜は笑いながら私の頭をなでなでする。
「翔太くんはそんな実花のことが、好きなんだと思うよ?」
私を瞳の奥をしっかりと捉えて、優奈は言った。
「だから、もっと自信持って!! 実花は自分が思ってるより、ずーっといい女なんだからさ!!」
優奈が私をぎゅっと抱きしめる。
「優奈……、ありがと……」
優菜の優しさに包まれながら、なんて素敵な親友を持ったんだろう……そう神様に感謝した。
私達は微笑み合った。
「……で? 優奈は?」
夏祭りの日の二人の行く末をまだ聞いていなかった私は、今か今かと彼女の報告を待ち侘びる。
「はいはい、祐介とのことね!」
しょうがないなと、 優奈は話し出した。
「実はさ……付き合うことになったの!!」
優菜は頬を真っ赤に染めていた。
「じゃあ、夏祭りの日………、上手くいったんだ……!!」
彼女の幸せをひしひしと感じ取りながら、興味津々に優奈の話に耳を傾ける。
「うん……あの日、初めて祐介とちゃんと話しをしたんだよね。意外と今まで、一度もまともに話したことなくてさ。祐介のこと、私何にも知らなかったんだよね」
優奈はしみじみと話しを続ける。
「なんかさ、クラスではおちゃらけたイメージでしょ? あいつ。でも、二人きりになった途端になんか雰囲気、ガラッと変わってさぁ! 屋台で買った荷物、さりげなく持ってくれたり、髪型褒めてくれたり……。あたし、そんな奴だって全く思ってなかったからさ、ギャップ萌えってやつ??」
テヘヘと、恥ずかしそうに笑う優奈はとっても可愛くみえた。
「話もさ……、面白くって、すっごくあの日楽しかったの。最初はあんなに嫌々だったのにさぁ。一気に心持ってかれちゃった……」
「帰り際に凄く真剣な顔でさ、この前の遊園地キス事件の事、突然真剣に謝り出してきて。あたし、あんなに怒ってたのに、なんで謝るの……? って。あの時のキスを、もう消そうとしないでよっ! て悲しくなっちゃって、祐介が顔あげた瞬間、私、キスしちゃってた!!」
耳まで真っ赤にして照れ笑いする優奈。
「え〜!! よかったじゃん!! 優奈が幸せで、私ホント嬉しい!」
心の底から湧き上がる喜びに、またぎゅっと抱きつき、頭をよしよしする。
「次は、実花の番!! 一緒に、絶対、幸せになろ!!!」
女同士の熱い約束を交わし、青空の下、肩を寄せ合いながら今後の作戦会議を練る私達。
優菜と一緒なら……きっとどんなことが待ち受けていたとしても元気でいられるって、本気で思ったんだ。