遠距離恋愛のはじまり
今話から新章に入りました。
9月1日。
いよいよ龍也くんが千葉県に旅立つ日だ。
新幹線のホームまで見送りに行く。
龍也くんは荷物もあるので、今年の新入社員で仲良しの後輩、和田浩一さん、そう、新入社員歓迎ボーリング大会で、私と同じレーンだったあのイケメンくんの浩ちゃんの車で送ってもらうことに。もちろん私も一緒に。
途中昼食を摂り、駅の駐車場に車を止め、3人でホームまで歩く。
ホームに着くと人気者の龍也くんの見送りにと、数名が待ち構えていた。
ひとりひとりと挨拶を交わし、雑談をしていると青いラインの入ったN700系が姿を現した。
13時30分発ののぞみ228号だ。東京着は16時03分。この駅始発ということで、ドアが開くと乗り込むだけだ。
新幹線はゆっくりと停車し、アナウンスとともにドアが開く。
みんなに元気よく「行ってきます」と挨拶をする彼。
それぞれ口々に「行ってらっしゃい」「頑張れよ」など、贈る言葉を述べている。
龍也くんは最後に私の所に来て、少し会話をすることができた。
「じゃあ、行ってくるよ」
満面の笑みで言う彼。
「うん、気を付けてね」
私もありったけの笑顔で答える。
「ああ」
「がんばって!」
「ありがとう。着いたら電話するよ」
「うん」
引っ越しの荷物が届くのは明日なので、今日は東京のホテルに泊まるらしい。
そうこうしているうちに発車のベルが鳴り響く。ドクンと心臓が音を立てた。
誰が始めたのか、「ばんざ~い」って。いつの時代?
でも、おかげでおセンチな別れではなく、笑いのある楽しい別れ……というか、出発になった。
ゆっくりと走り出す車両。座席の窓から手を振る龍也くん。
彼は終始笑顔で。みんなとも私とも。
初めは小さく振っていた手も、動き出すとだんだん大きな身振りになり、あっという間に見えなくなる。
新幹線は残酷だ。速い。速すぎる。
『遠距離恋愛の始まり』だ。
見送りの人たちが帰った後も、私は少しホームに佇んでいた。
もう見えなくなった彼の笑顔を想い出すと、心が零れてきて、次から次から溢れてきて。
辺りが霞んできて。拭っても拭っても止まらない。
浩ちゃんはただそんな私を静かに見守っていてくれる。
「しょうがないな」
目尻を下げたその優しい言葉に、また涙する。
「ごめんね。こんなに泣いてたら、浩ちゃんが泣かせてるって思われちゃうね」
浩ちゃんは私の頭をなでながら、ニコッと微笑むだけで。
暫く泣き続けて少し落ちついてきた。気持ちを切り替えて、大きくひと息ついた。
「ありがとう。もう大丈夫」
「そう?」
「うん。ごめんね」
「じゃ、送って行くね」
「え、でも悪いから」
「村上さんの彼女だから、それくらいはさせてもらいます」
そう言って笑う彼は本当にいい人なんだな、そう思えた。
今の心理状態で1人で帰るのは、やっぱりしんどい。浩ちゃんと話しながら帰る方が、少しは気が紛れるだろう。
「じゃ、遠慮なく」
いよいよ『遠距離恋愛』が始まりました。
これからのふたりはどのように過ごしていくのでしょうか。
周りの人たちとはどのように関わっていくのでしょうか。
お読み下さりありがとうございました。
次話「日常」もよろしくお願いします!




