夏の終わりに(3)
龍也くんは持っていたカバンから、徐に何かを取り出す。
「お誕生日おめでとう」
そう言って、彼はピンクのリボンがかけられた細長い包みを差し出した。
「わあ、ありがとう! 開けてもいい?」
龍也くんは微笑みながら頷く。
私はそおっと、そおっと綺麗な花柄の包装紙を破かないように慎重に開ける。
「わあ、可愛い! 素敵! でも先月もペアウォッチもらったばっかりだし……」
「それはそれ、これはこれ。お誕生日は特別なんだよ。海彩ちゃんがこの世に生まれてきてくれた日なんだから。そのおかげでオレと出逢えた」
照れくさそうに笑う彼を、本当に愛おしいと思った。
「ありがとう。じゃあ、遠慮なくいただくね」
プラチナの細めのチェーンの中央に、可愛いダイヤのトップがついたネックレス。
さりげなくて上品なデザインなので、TPOを選ばない。
「気に入ってくれた?」
「うん、とっても。龍也くん、意外とセンスいいね」
「意外とってなんだよ」
そう言って笑い合った。
そう、2人で笑い合った。
そして切なくなった。
ああ、もうこんな風に笑い合ったり触れあったりする機会って、これから少なくなっちゃうんだな。
私はつい言ってしまう。
「いよいよ明日だね」
「ああ」
「もう会えなくなるね」
いつもに増して明るく振る舞う彼。私が少し寂しげに俯くと、「すぐ会えるから」と。
500キロも離れているのにすぐ会えるなんて、ウソツキ。
「大型連休は勿論、月に1度は必ず会いに帰って来るから」
「出来ない約束はしない方がいいよ」
「……できるよ」
凄く真剣に、目を見て優しくそう言ってくれる彼のことを、素直に信じられた。
彼の右手が私のあごを少し上に向かせる。
瞳を細めた優しい顔が近づいてくる。
ライトに照らされたその瞳に吸い込まれそうになり、そおっと瞳を閉じた。
甘く切ない幸せな時間が流れてゆく。
少し照れくさそうに笑う彼。
私も恥ずかしくなって俯く。
今日のことは決して忘れない。
そう思えた瞬間。
そしていよいよ明日を迎える。
その後自宅近くの公園まで送ってもらい、「また明日」とそのまま別れた。
足早に家まで歩き門を開けようと……。
あれ? 取っ手になにか大きな袋がかけてある。
なんだろう。
おそるおそるその袋の中をのぞいてみると……。
!
いよいよ龍也くんが千葉県に行ってしまう日が明日に迫った。
遠距離恋愛が始まる。
お読み下さりありがとうございます。
次話「遠距離恋愛のはじまり」から新章になります。
よろしくお願いします!




