第7話 あれ? どちら様?
自作の図面を描いたおかげで、迷わず私は自室に辿り着くことが出来た。
「お邪魔しま~す……」
万一のことを考えて、声をかけながら遠慮がちにノブを回して扉を開ける。
「あってた!」
やはりそこは私の部屋。
……でもまったく実感が持てないけどね。
「フッ。私ってやればできるじゃない」
自分で自分を褒めると、とりあえず部屋を見渡す。
「……何から始めよう? 出て行くと言ったからには長居は無用だし……」
旅立つにしても、行く当てもない。
何しろ私は今もって自分の名前すら思い出せずにいるのだ。
「とりあえずは部屋の探求から始めようかな?」
ここは未知の場所。
自分の持ち物も何も把握できていないのだから。
でもその前に……。
私は自分のお腹を右手でぺたりと触り、壁にかけられた時計を見つめた。
時刻は十二時四十五分。
「……お腹、空いたなぁ。私の食事、どうなった?」
もしかして忘れられてる?
それともわざと忘れたふりしてる?
「これは、後者かもしれない……」
どうしよう?
厨房に押しかけて「何かちょうだい」と頼むか。
それとも夫に「お腹が空きました」と訴えるか。
「う~ん……多分、両方ともやめた方が良さそうね……」
ということは、私が取るべき行動はただ一つ。
「お金! お金はないかな!?」
早速金目の物が無いか部屋を物色し始めた。
まずは窓際に置かれた真っ白なライティングデスク。
「こういうところに、お金が入ってるはずなんだよね~」
引き出しを開けてみると、中に入っているのは日記帳と万年筆のセット。
「日記帳……? あ! もしかしてこれを見れば、何か自分に関する手掛かりが得られるかも!」
日記を開こうとして、ピタリと手を止める。
うん、日記を見るのは後にしよう。
今は食を優先するのが先だ。
「お金、お金~」
鼻歌を歌いながら私は部屋中を漁り始めた――
****
「ない……どうして、お金がないの?」
最後のクローゼットの引き出しをパタンと閉じると、ため息をつく。
信じられないことだった。
部屋中を探したのに、お金が一切出てこなかったのだから。
「でも……金目になりそうなものは沢山出てきたからいいかな?」
足元に置いてあるボストンバッグをチラリとみる。
その中にはアクセサリー類がぎっしり詰められていた。
「ふっふっふっ。いざとなればこれらを売り払って……」
グゥ~……。
お腹が盛大になる。
「うぅ……動いたから余計お腹が空いてしまったわ」
ポケットを上からそっと押さえた。
この中には大きな宝石がついた指輪が入っている。
「とりあえずこれを売りに行こうかな」
時計の針は既に午後の一時半を過ぎていた。
さっそく出掛ける準備をしようとしたその矢先。
――コンコン
部屋の扉が叩かれた。
(あ! もしかしてお昼が届けられたとか!?)
「はい、はい。今開けますよ~!」
扉に駆け寄ると勢いよく開け放ち……目を見開いた。
「あれ……どちら様?」
現れたのは、身なりの良い姿の中年の男女だった――
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