第4話 いざ、夫のもとへ!
私はブツブツと呟きながら、幅広で長い廊下を歩いていた。
周囲には人影はない。
窓から差し込む太陽の日差しが、真っ白な大理石をサンサンと照らしている。
……眩し過ぎる。
「やっぱり私って、相当嫌われているのね。誰も案内してくれないんだから」
眩しさに目を細め、手元のメモをギュッと握りしめる。
このメモには、自室から夫の書斎までの案内図が描かれていた。
あの後。
使用人たちの誰もが私を夫の元へ案内するのを拒んだのだ。
拒絶の理由は、「奥様を案内したことで、旦那様から逆恨みされたくないから」
「まぁ、雇用主の機嫌を損ねるわけにいかないというのは分かるけど……私のことも少し配慮してくれればいいのに」
だけど、そこまで言われてしまうとは……。
多分私は顔も見たくないほど嫌われているのだろう。
なのに、なぜ私がわざわざ夫の元へ向かうのか。
それは、未だに自分の記憶がまったく戻る気配がなかったからだ。
名前も年齢も。
これまでの記憶すらさっぱりと抜け落ちている。
でも今更『私、誰?』なんて聞けないし。
だから私は質問するのを一切やめて、直接夫に会いに行くことにしたのだ。
(たとえ邪魔者扱いされたっていいわ。どうせ元から嫌われている身だしね)
「ん?」
ふと、廊下に飾られた大きな姿見に気付いて立ち止まる。
今の私は襟元にフリルたっぷりの白いブラウス。
足首まで届く水色の長いスカートを身にまとっていた。
このスカートは、お尻の部分に何重ものフリルが重ねられている。
裾に向かっては細身のシルエットになるという、ちょっと変わったデザインで妙に目を引く代物だった。
「ふふ。まるでどこかの貴婦人にでもなったみたい。我ながらよく似合ってるじゃない」
鏡に映る姿が到底自分だとは思えなかったけれど、とりあえずクルリと一回転してみる。
うん、やっぱり素敵なデザインだ。
ちなみに私がこの服を選んだのには、ちゃんと理由がある。
他のドレスは一人で着替える自信がなかったからだ。
「まさか、着替えまで拒否されるとは思わなかったけどさ……」
鏡の前に両手をついて、少し前の出来事を思い出してみる――
****
いまを遡ること、一時間程前――
『ねぇ、誰か着替えを手伝ってくれる?』
メイドたちにそう頼んだ途端、全員から鼻であしらわれてしまった。
ふくよかなメイド――確か名前はハンナだったかな?
彼女は意地悪そうに言い放った。
『奥様の世話を焼きたがるメイドは、一人もいないのですよ。理由は胸に手を当てればよく分かることでしょうけどね』
そう言って、使用人たちは去って行ってしまった――
****
「まぁ、自力で着替えられたからいいけどね。さて。夫なる人物は私を見て、いったいどんな反応をするのかな?」
気を取り直すと、ヒールをカツカツと鳴らしながら夫の書斎を目指して歩き出した。
慣れない靴に足元をふらつかせながら――
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