第9話 え? 私のために大金を使ったの?
眉間にしわを寄せ、青筋を立てて睨みつける父……らしき人物。
その隣では母らしき人物が優雅に紅茶を飲みながら「あら、この紅茶。美味しいわね」と小さく呟いている。
父らしき人は興奮しているのか私をビシッと指さした。
「お前は何を考えているのだ! さぁ! 言ってみろ!」
そんなこと言われても……。
「え? いや、目の前にある食べ物のことを考えていますけど……?」
正直に答える。
ついでに紅茶を飲もうかとも考えていたけど。
「な、何だと……食べ物だと!? そんなことは聞いていない!
一体何故、嫁ぎ先でも我らに恥をかかせるのだ! ようやくお前を我が家から厄介払い出来たと思っておったのに!」
再び父の怒声が飛んできた。
「厄介払い……」
(なるほど。やっぱり目の前にいるのは私の両親だと。それで母親は私に無関心……てところかな?)
母親をチラリと見ると、我関せずという感じで優雅にクッキーを食べている。
……出来れば私の分も残しておいてもらいたいな。
「どこを見ている! 人の話を聞いているのか!」
再び怒声が飛んでくる。
「はい、聞いています」
一応は。
でもどんなに怒鳴られても、まるで他人事のようで少しも実感がわいてこない。
それよりも白い顔にますます赤みがさしてきている方が心配になってきた。
ちょっと注意してあげようかな。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。あまり興奮すると血管がきれてしまうかも
しれませんよ?」
「な、なんだと! 誰のせいでこんなに興奮していると思っておるのだ!」
拳を振り上げる父。
「はい、すみません。私のせいですね」
あまり興奮させてはいけないと思い、ここは一旦謝っておこう。
「大体お前が、何としても侯爵と結婚させてくれと駄々をこねるから、あの男の恋人に手切れ金を渡して別れさせてやったと言うのに……」
「え?」
思いがけない話に腰が少し浮いてしまった。
そうだったの?
私の夫には恋人がいたと、これは新情報だ。
しかも手切れ金を渡すとは……いくら渡したのかな?
私の脳内に札束の山が出現する。
いいなぁ……私、今所持金0だから少し分けてもらいたいのですけど。
「でも、あなた。あの伯爵令嬢は大枚受け取ると、あっさり身を引いたじゃありませんか。噂によると、今ではもう新しい恋人が出来たという話ですよ?」
母が紅茶をコクンと飲む。
「ええ!?」
それは、また驚きの情報だ。
「うるさい! お前は余計な話をするな!」
(母を黙らせようとしている……。なるほど、ということは事実なのね?)
でも、あの美形の侯爵をお金で振るなんて。
本当は男をたぶらかす悪女だったのかな?
父が再び私に向き直る。
「良いか!? 今の話で分かっただろう! お前は侯爵に疎まれているのだ! だからこれ以上嫌われないように賢く振舞えと以前から言っていたのにメイドにそそのかされて毒を飲むとは……何て愚かなことをしてくれたのだ!!」
「はぁ!?」
私が毒を飲んだのは、メイドにそそのかされたからだったの!?
今までに無い新情報に、食欲が一気に引っ込んでしまった――
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