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世界人口・8589934592


高校を受験する時って普通、将来を考えて選ぶのかな。


俺はろくに考えなかった。担任から受かりそうな候補を聞いて……

歩いて通える学校を選んだ。


どうでもいい事だな。川っぺりの土手を歩く。

桜も散って、景色は緑色になってきてる。

2年生になって間もないけど、もう飽きてきた。


学校に着く。教室に入る。窓際の席にすわる。

アイトが声をかけてくる。


「面白いゲーム見つけたんだよ」

「なんだよいきなり」


「ああ、おはよう皆の衆~」

「皆の衆じゃねーよ。俺しか相手いないじゃん」

「ナヲキだって僕しか相手いないだろ」

「まあね」


「だから学校終わったら、僕んちに来なよ」

「ああゲームね。はいはい」



登校して早々、放課後の話をしちゃったよ。

アイトは地味で小柄で、アライグマみたいな顔に丸眼鏡をしてる。


このクラスで、まあ唯一の友人がアイトだ。

トモダチなんて、1人いれば多いくらいだ。


他人の事に無関心な、孤独な男。

ってほどでもない。実はクラスメイトの動向も少しは気になる。



例えば、ミラノっていう女子。

何でもファッション雑誌の読者モデルをしてるらしい。お洒落な子だ。

ミラノの隣にくっついてる莉々(りり)っていう子も、可愛い。


「……だからさ、秀治クンが来たら頼んじゃえばいいんだって」

「うんうん」



ミラノは目立つ。そして社交的。

喋ってる声が、いやでも耳に入ってくる。


「あっ秀治く~んハロ~!」

「やあミラノ。その口ぶりから推測するに、英語の相談かな?」

「すっご~いわかるんだ!あのねあのね、ここの翻訳が……」


秀治が教室に来るなり、一気に話を進めてる。

要するにミラノは、宿題やってないから秀治に頼んで丸写しする気だ。

隣の莉々ちゃんも、あやかろうとしてる。可愛いなあ。


俺も、英語の宿題なんてやってない。

でも授業は、堂々と受ける。それが男の潔さだ。



その日、英語の授業はしっかり受けた。

俺は授業中、3回も発言した。


「わかりません」


「忘れました」


「やってません」



だいたい、日々の授業はこうやって過ごしてる。



___________________________




今日も退屈だった。

これほど刺激の無い学校生活、俺くらいだろ。


……いや、退屈そうなのが、もう1人いた。

教室の最後列でふんぞり返ってる男。ツトムンガーだ。


ツトムンガーは、さすがに本名じゃない。通称だ。

でかい図体で立ち上がり、あくびをして教室を出ていく。

あまり近寄りたくない風貌だ。話した事もない。


他にも、足早に教室を出ていく男子たち・女子たち。

俺から話しかけたりしない。だから誰とも接点がない。


スポーツバッグを持って出ていく、女子の横顔、ポニーテール。

たしかムツミだったかな。時々名前を思い出さないと、忘れそうだ。

目がキラキラしてる。部活に打ち込んでるんだろう。


「ナヲキ、女子が気になるの?」

「は?」


「いま、見てただろう」

「見てねーし。ほら帰ってゲームだろ、行こうぜ」



アイトと連れだって下校する。

俺は帰宅部で、アイトはたしか囲碁部らしい。でも実質的に帰宅部だ。



アイトの家は、俺の家とは反対方向。でも歩いていける。

途中のコンビニに寄って、ジュースを買う。

ふと、隣の棚のカップ麺が目に入る。


[アライグマ印の黄色いカレーうどん]



面白いな。フタに描かれた絵がアイトに似てる。

買っておこう、後でアイトに見せて怒らせよう。


で、アイトの家についた。


「このゲーム、なかなかの傑作なんだよ」



部屋に入るなり、アイトはノートPCを立ち上げる。

室内は、特に変わった所はない。普通にオタクの部屋だ。

普通に散らかってて、普通にフィギュアとかポスターが飾ってある。


「ナヲキがやってみて」

「えっ俺?いいのかよ、最後までクリアしちゃうよ?」

「構わないよ?出来るもんならやってみなよ」



そんな風に煽られると、俺も少し乗り気になる。

ノートPCを渡され、画面を覗きこむ。


”勇者が野生動物に勝てないRPG”



「……おい、これダメなやつだろ」

「いや傑作だから、これ傑作だから」



タイトルだけで、もう駄目だと予感してる。

とりあえず新規ゲームをスタートしてみる。



勇者が、ぽつんと草原に放り出されてる。

不親切なゲームだ。ひと目でわかる。


「剣とか装備してるのか?どこに行けばいいんだ?」

「大丈夫、好きなように進んでいこう」



1歩あるいたら敵に遭遇した。


◆ポメラニアンが現れた!



「犬じゃねーか」

「ああ、犬だね」

「なんか攻撃するの、気が引けるんだけど……」



◆勇者の攻撃!ハズレ!

◆ポメラニアンはひらりと回避した!

◆勇者の攻撃!ハズレ!

◆ポメラニアンはひらりと回避した!



「攻撃が当たらねえええ」

「犬ってかなり俊敏だからね、剣を振り回してもほぼ回避されるよ」

「ゲームバランスも駄目じゃないか」



◆ポメラニアンの攻撃!

◆勇者は3ポイントのダメージを受けた!

◆感染症が心配だ!

◆ポメラニアンは逃げ出した



「なにか心配されたぞ?」

「野犬に噛まれたらやっぱり心配だよね、この辺りがリアルだよね」



ひどいゲームだ。

俺は勇者をさらに前進させてみる。


◆イタリアングレイハウンドが現れた!



「また犬じゃねーか」

「ポメラニアンより強そうだね」



◆勇者の攻撃!

◆イタリアングレイハウンドに3ポイントのダメージ!



おっ、攻撃が当たった。


◆イタリアングレイハウンド怒りの攻撃!

◆勇者は7ポイントのダメージを受けた!

◆感染症が心配だ!

 


「心配されてるけど、これ何かペナルティあるの?」

「無いよ。しいて言えば心理的な圧迫感?」



なんてくだらないゲームなんだ。

でも馬鹿馬鹿しくて、むしろ楽しい。


イタリアングレイハウンドから逃げた。

勇者をどんどん歩かせる。


「おっ、村が見えてきた」

「村に入れば、犬は出現しなくなるよ」

「まあ、普通のRPGはそんなルールだよな」

「もうちょいで村に入れるよ」



◆土佐犬が現れた!



「……勝ち目ないだろこれ」

「ああ、これは相手が悪いね。いわゆるデスエンカだね」



◆勇者は逃げ出した!

◆土佐犬は追いかけてきた!

◆土佐犬の攻撃!25ポイントのダメージで勇者は力尽きた……

◆感染症が心配だ!



「めちゃくちゃハードな難易度だなこれ」

「どう?歯ごたえのあるRPGでしょ」

「そうだな、犬しか出てこなかったけどな」



俺は、大体このゲームが判ったのでギブアップした。

アイトは交代して、データロードしてる。

やり込んでるみたいだ。こいつは変人だ。



「……そういえばアイト、部活は行ってないのか?」

「全部オンラインだよ。部室の方には久しく行ってないね」


「たしか囲碁部なんだろ?」

「うん、ネット経由でたまに対局してる」



コロナ禍があってから、こんな部活も増えてるらしい。

アイトは”勇者が野生動物に勝てないRPG”をプレイしながら、ぽつぽつ喋る。


「でも最近は、ぜ~んぜん対局する気が起きないんだよね」

「囲碁、飽きちゃった?」

「そうじゃないんだ、囲碁は素晴らしいよ。でも僕としては」



アイトは右手をノートPCから離してみせる。

何か石を持ってる手付きになって、板床をパシーンと叩く。


「やっぱりこう、差し向かいで石を握ってないとダメなんだ」

「オンラインじゃ物足りないのか」

「そうそう、判ってるじゃないのナヲキ」



アイトは急に顔を上げ、本棚の方を向く。

何か閃いたような表情だ。アライグマが餌を発見したみたいな顔だ。


「そこに入門書があるから、ナヲキ読んでみてよ」

「いや、それは」



俺に、囲碁を覚えさせようとしてるのか?

無理いうんじゃない。俺はバカだし覚えたくない。

思考力が要求されるゲームなんかで、アイトに勝てるわけない。


「おっと、急用を思い出したぞ」

「なんだよナヲキ、まだ来たばっかりじゃないか」



適当にあしらって、今日は帰ろう。

俺はアイト宅から脱出した。



まだ夜にもなってない。家に帰る。

誰もいない。両親は共働きで、帰りが遅い日も多い。


着替えたり、晩めし済ませたりシャワーを浴びたり。

あとは自室で動画を観たりして、ごろごろと過ごす。いつも通りの生活だ。


ネットで観る動画はできるだけ、くだらないのを探す。

アイトの所で遊んだ”野生動物に勝てない”みたいなのが、丁度いい。


流行には(うと)いし、ニュースとか時事ネタは見たくない。

なんでかと言えば、世の中が嫌いになりそうだから。


知れば知るほど、世の中がイヤになりそうだから。


ちょっとアクビが出た。

今日も退屈だった。寝よう。



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