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ツボの中から異世界 ~A step towards a new world~  作者: みたよーき


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30/60

30.捕捉

 万友莉とサラは、下層への最短ルートを急ぐ。

 上層十五階層ほどは、セキュア・エリアも多く、大した問題は無い。ただ、そこから先は、セキュアなルートはだいぶ縮小した。最深到達階層はアウツウェルス・ダンジョンの方が二十階層ほど深いそうだが、セキュア・エリアの確立はクェズラント・ダンジョンの方が進んでいるようだ。

 これは、ダンジョンの管理方針は国ごとそれぞれに決定しているからで、国を跨ぐユニオンも、求められれば助言はしても、その決定に関わることは無い。ユニオンはあくまでもエクスプローラたち個々を守るために存在している、ということだ。

 そういった方針の違いの他にも、ダンジョン内は国ごとで生態系や植生などにも違いがあり、それがダンジョンごとの特色と言える――サラから聞いたそんな話を、万友莉は思い出す。ぱっと見の雰囲気や構造などには、クェズラント・ダンジョンとの大きな差異が感じられないせいだ。

 万友莉はそんなダンジョンのあり方に、まず現実的な土台があって、その中にファンタジィが紛れ込んでいるような印象を受ける。地上でもそうだ。魔法で水を用立てる人もいるが、上下水道はしっかりある。手元を魔法で照らす人もいるが、街中の灯りは電気に頼っている。汽車は魔法も利用して作られた石炭を主な燃料とするが、駆動のプロセスは工学的に完結して魔法は関わらない。神器(万友莉の『ツボ』は特に)が関わるとその印象は一変するのだが、逆に言えば、神器の特異性がこの世界の“現実味”の面を際立たせている。

 もしかしたら、ユーマという少年は、そういった現実的なものをまだ何も実感できていないのかも知れない、と万友莉は思う。

 マシュウの話を聞いた限りでは、ユーマは自分を庇ってくれたトーマスを、あくまでも助けるために、下層へ向かったのだろう。そこには、日本で言うところの『ディスコミュニケーション』もあったようだが、もしユーマがこの世界の魔法をゲームなどに見られるような万能なものと考えているのであれば、この世界の人から見て突飛な行動を取ったことも、一応は理解できる。

 そんなユーマを責めるのは、酷なのだろう、と万友莉は思う。彼はまだ十代半ばだと聞いた。サラが召喚されたのが十四歳の時だったというから、それと同じくらいだ。万友莉は自分と比較してみようとするが、自分は(精神的にそうだとは思えなくとも)一応は二十歳を過ぎた“大人”だし、マイもいたし、サラにも出会えた。そもそもマスタとして祭り上げられることも無かったから、状況が違いすぎて単純な比較はできない、と結論する。

 自分が彼と同じ立場だったらどうか? ――万友莉はそう考えてみようとするが、その頃の自分を上手く思い出せなかった。

 中学生の頃の自分と言えば、周りと上手く馴染めなくて、自分の何気ない言動が誰かの癪に障ったのではないか、誰かを傷つけたのではないか、いつだってそんな怯えと自己嫌悪の中で過ごしていた気がする――思い起こされるはそんなことばかりで、万友莉は、思考がまたダメな方へ向かいそうになっている、と自覚して、中学時代を思い出すことを諦めた。

 何にせよ、この世界での自分はむしろ運に恵まれていたのだ、万友莉はそう思う。最初に受けた仕打ちこそ、この上ない絶望に思えたが、今ここに至ってみれば、それすらも幸運だった。もちろん、それは結果論だし、されたことに納得ができるわけでもない。だけど、ずっと悲観的にばかり物事を考えて部屋に閉じこもっていた自分が、こうやって前向きなものの見方をすることができている、それだけでも、この世界で目を覚ましてからのおよそ二ヶ月は、有意義だった、万友莉はそう思えた。今、自分がそう思うことができることを、嬉しいと思えた。

 願わくば少年にも、この世界に現れたことを、少しでも、良かった、と言えるものにしてほしい。

 自分の身代わりになって人が死ぬ、それは多感な少年にとって大きな心の傷になるかも知れない。それでも、現実を受け容れて、乗り越えていってほしい。

 万友莉は、自分がその力になれるなんて思えない。ユーマに追いついたところで、何をどうすれば良いのか、皆目見当も付かない。だから、きっと大したことはできないのだろう、と思う。でも、大したことじゃなくても、何かしらできることがあるかも知れない。

 だからどうか、ささやかな何かしらすらできないような最悪の事態にはなっていませんように、万友莉はそう祈りながら、急いだ。


 万友莉とサラは、急ぎながらも、冷静に行動した。上るのと下るのでは訳が違うのだから、マシュウのような無理をして追いついても、二次被害に繋がってしまえば意味が無い。

 食事はしっかり摂ったし、睡眠も六時間を確保した。二人とも気が急く思いもあったが、成長期の少年が成人男性を背負っての行軍が、そうそう捗るものではない、必ず追いつける、と信じた。

 それでも、三日目早々には二十階層を超えることができた。気持ちの影響もあるかも知れないが、万友莉の体感ではクェズラントよりも一階層あたり下層までの道のりは長く感じたから、一日平均で十階層はかなり速めのペースだ。二人は、思っているよりも焦ってしまっているのかも知れない、と話し合った。

 ただ、セキュア・エリアが更に減る二十階層以降は、自然とペースは落ちていった。三日目の進行は六階層で、それでも十分速いのだが、二人の体調に問題は無かった。

 不安があるとすれば、慎重にユーマを追うと言っていたはずのダニエルたち一行と遭遇できていないことだった。地図は持っているらしいとはいえ、スカウト抜きに魔物を警戒しながら進んでいる彼らには、もう追いついていてもおかしくない。途中、いくつかのエクスプローラたちと思われる反応はマップにあった。それがダニエルたちなのか元より潜っていた別チームなのかの判別まではつかないが、無事であることを信じて万友莉たちは引き続き最短距離を進むことにした。神器を頼りに、より下層を目指しているだろうユーマに追いつくには、それが一番確実なはずだ、そう判断した。

 そして四日目、ついに階層は三十に到達した。アウツウェルス・ダンジョンの最深到達階層はおよそ五十ほどらしいが、それは深く潜ることを目的として、そのための準備を十全にした複合パーティによる記録だ。だから、普段なら、この辺りまで来れば、まず他のエクスプローラたちに出会うことは無い。そして、現在、深層到達を目的とした計画で潜っているパーティが無いことはディオゴから聞いている。

 だからそれは、最も望む形ではなかったが、二人が求める反応には違いなかった。

「……ッ! サラ! マップに通路を……一人で移動する反応! 二キロくらい先!」

「一人……。オゥカイ、急ごう! でも、これまで通り油断せずにね」

「もちろん」

 ようやく捉えたユーマらしき一つの反応に追いつくべく、二人は駆け出した。


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