006 邂逅
「――あら、思ったよりも早く来たわね」
1001層、ボス部屋。
おそるおそる扉を開けると――そこには、褐色の肌をした女性がボスと思わしき蛇の上にたたずんでいた。
...え?どういうこと?
誰?てか僕以外の人間がダンジョンここまでの層に来れてたってこと?
疑問が脳をめぐる。
これまで、誰か人に会うことなんてなかったから。
じゃあ、この人は魔物? いやいや、それはないと思いたい。
人型の魔物なんて殺すのに抵抗感が...いや、そこまでないかも?
いや別に、僕が社不とかいうわけじゃないんだけど。もう長くダンジョンにこもってるせいでそこら辺の倫理観がこう...壊れてる自覚というかなんというか。たぶん、今僕が地上に戻っても社会不適合者として引きこもるか何か事件を起こして隔離されるかの二択な気がする。
とまぁ、そんな悲しい結論に至った事実はともかく。
頭を振りながら拳を構え、相手を観察する。
「あら?もしかしてあなた、私を殺ろうとしているのかしら?それは...無謀が過ぎるわよ?」
女が、僕を一瞥。
その瞬間――すさまじい殺気が僕を襲う。
「んなっ?!」
ただの殺気ではない。頑張って踏ん張っているけれど、少しでも気を抜いた瞬間――僕は飛ばされる。
普通、殺気というのは物理的攻撃力を持たない。なのに、今にも僕はこの場所から飛ばされてしまいそうで――なんか、とってもわくわくする。
戦えないことはない。たぶん、やりあうことはできる。
でも、勝てないことは確実だ。
「ふっ、面白いわね。勝てないと理解しているのに、あなたは私と戦いたそうな顔をしている。どう?殺さないで上げるから一回やりあうかしら?」
正直、興奮が止まらない。
久しく感じていなかった自身が絶対に勝てないという敵との邂逅。
こんなの、イエスという以外の選択肢があるだろうか。
「...お願いするよッ!」
出会って数十秒。相手は僕では絶対に勝てないほどの強者。
だけど――自身の欲に逆らうことはできず、一歩踏み出した。
...
......
.........
まるで触手のような黒い腕が僕に迫る。
どうやら名前の知らない女さんは僕に手加減してくれているようで、余裕をもってその触手は避けることができた。
といっても、それだけで相手の攻撃が終わるはずもなく。
いつの間にか女の背中から生えていた触手が「ビュン」というよりかはむしろ「チュン」のような甲高い音を立てながら僕に迫る。
――《抜刀》
腰にかけた刀を一閃。全てを切り裂くことはできなかったけど、半分くらいの触手は切り刻むことができた。
「あはっ?!それでこそ私のお気に入りというものよ!」
テンションを上げながら迫る女。どうやら触手の遠距離攻撃から肉弾戦にチェンジしたようで、ものすごい速度で飛んでくる。
――けれど、見えないことはない。
さっき見た夢のおかげなのかは知らないけれど、あの賢者さんの経験が僕の身に沁みついたのか、次にどのように動けばいいかよくわかる。
たとえ、相手が僕が対処できないような速度で動いていたとしても、その経験は生かされるようで――魔力を身にまとう。
動体視力は強化されないけれど、筋力速度共に倍以上には強化されてるかな。試しに、僕の周りを飛び回っている女が来るである場所に拳を置く。
「――グフ...ッ!」
どうやら予想はあっていたようで、女のみぞおちに僕の拳はクリーンヒット。 クの字に折れ曲がった女に拳を叩き込む。まだまだ手加減しているようだし、そこに容赦は必要ない。
頭、みぞおち、右肩、左肩――
すべてに拳を叩き込んでも、女は特に苦しげのなさそうな顔をしていた。
「うーん、及第点といったところかしら?」
微笑を浮かべながらバックステップ。
僕から距離を取り――指パッチン。
その瞬間、女の後ろでうずくまっていたボスと思わしき蛇が顔を上げた。
「私とのステゴロはこれでいったん終わり。次はこの、1001層のボスと私相手に戦ってもらうわよ」
笑いながら、女が突っ込んでくる。
2対1かぁ。まずはボスから対処するとしようかな。
踏み込むように見せかけて、魔術行使。
【不可視】――その名の通り自分の存在を一時的に不可視にする魔術で、どっちかというと空間転移魔術に近い。
イメージで言うなら、動画編集ソフトとかでのレイヤー移動といったところだろうか。 たぶん、あの女が本気を出せばこの魔術だって容易に破れるんだろうけど、今は手加減状態。
破られる心配性はないので、僕をどこかとあたりを見渡している女にあっかんべーした後ボスに向けてゆっくりと歩きだす。
攻撃をしない限りはこの魔術が破れることはない。まぁ、逆に言うとこの魔術を使いながら攻撃することはできないということなんだけども。
とにかく、ボスの前まで来たので飛び上がり――魔術解除。
だれも、すでに確認した上から攻撃されるとは思わないだろう?
刀は使わない。あれは遠距離攻撃に向かないし――ほら、すでに僕に気づいた女が僕に向けて走り出している。
ならば使うのは一つ、なるべく貯めがすくなく、強力な技。
――《蒼骸迴廻》
今、この時にも僕は死に近づいている。この魔術は、そう――滅びゆく生命の流転を己の魔力へと還流させる。僕の〝魂〟の色は――蒼。故に、【蒼骸迴廻】。
廻りゆく魔力が、やさしく――されどまるで「戦え」とささやくように僕を包み込む。
ふわりと大蛇の背中に舞い降りる。あぁ、まるで世界がスローモーションのように見える。
握りしめた拳を開き――掌を大蛇に押し当て、一発。
掌底と共に包み込む魔力を放出すると――大蛇が「ポンッ」と、軽い音を立てて消失した。
――だけど、その瞬間。
僕の頭に猛烈な衝撃が走り――僕は、その意識を閉ざすのだった。
...
......
.........
「...ん?」
本日何度目だろうか。たぶん二回目かな?とにかく、何度目かの気絶から目を覚まし――体を起こす。
「あら?起きたのね」
目の前には、どこからか取り出したお手玉とバットで一人野球してる女が一人。たぶん用途間違ってるんじゃないかなと言おうと思ったけど、どうやらコメント欄を覗いてみるとすでに同じような文言が飛び交っていたためいうのはやめた。二番煎じは嫌だからね。
「僕、負けたのか...」
痛む頭痛がそのことをよく表している。
見てみると、どうやら頭から血も出ているようだし、それだけの力で殴られたんだろうということがよくわかる。
「どれくらい寝てたんだろ?」
体を起こしながら、コメントの流れる端末を見る。
:30分くらいは寝てたんじゃない?
:見事な負けっぷりだったな
:人の言葉を話す魔物が?!ってニュースになってるぞ
:気持ちいいくらいかっこいい戦いだった
:お前が負けるのなんて何年ぶりだ?
――称賛するコメント。
――ニュースになってるのを伝えてくれるコメント。
――負けを驚くコメント。
様々なコメントがスクリーンを埋める。
「そうか...僕30分も寝てたんだ」
自動治癒、動いてなかったのかな。
いや、いまもなお治っていっている感じはするし多分働いているのにまだ傷が残っていたということなのだろう。どれだけ強い力で攻撃されたんだか...頭が爆発しなかったのがまるで奇跡みたいに思えてきたよ。
30分経っても完治しない傷なんて、たぶんダンジョンに潜ってきた中でも数回しかないと思うもの。
「それで、寝ている間も僕を殺そうとすることはなかったみたいだし...君のことは信用していいのかな?」
敬語を使った方がいいのかな?と一瞬逡巡はしたものの、どうせ僕とこの女には絶対的な力の差がある。僕が負けたというのにあれでも手加減をしていたくらいだし、本気を出されたら僕じゃ手に負えないくらいには強いだろう。
だったら、もうご機嫌を取ろうとしなくたっていいかなって。
何かの拍子で機嫌を損ねさせたらどうせ死ぬんだし、へこへこするほうがめんどくさいしね。
「えぇ、これからどうなるかはわからないけど、少なくとも今はあなたを害すつもりはないわよ」
寒気を感じさせるような笑みを浮かべながら、女が僕に言う。
うーん、やっぱり得たいが知れない。
強さ的にも、使う技的にもたぶん人ではないことは確実だろうし――
「――じゃあさ、結局君って何なの?」
ボスを軽くあしらって見せた力。たぶん人間の中では一番強いであろう僕を手加減した状態でなお簡単に気絶させたその力。
とっくに、僕の興味は限界を超えようとしている。
故に、僕はそう尋ねるのだった――
あとがき――――
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新作投稿しました!
二話までは予約投稿してますが、それ以降は評価次第で連載するか決める予定なのでぜひとも読んでいただければうれしいです!
【人類最後の生存者】https://kakuyomu.jp/works/822139836852506610




