Epilogue 修行
「はぁ...」
:どうした
:起きた瞬間ため息...デジャブ?
:《《かれこれ一週間は起きてため息生活が続いてるよね》》
ニャルラトホテプ:ほら、早く攻略しないと旧支配者きちゃうわよー
:↑お前のせいじゃい
:休ませろ
:この悪魔(邪神)
:不思議な話だよなぁ。自分たちの世界に理解の及ばないくらいの化け物が向かってきてるっていうのに、俺らはまったく危機感なんて抱いていない
――僕が〝外なる神〟になるための修行を初めて、すでに1ヵ月が経った。
あれからというものの、僕はいつも通りのペースでダンジョンの攻略を進めている。
おかげで、この一ヶ月ですでに10層を攻略することができた。なかなかのハイペースなのだけど...うん。ちょっと最近きついなって思い始めたんだよね。
「敵、強いってぇ...」
:それはそう
:今まで以上に苦戦してるもんね
:一層一層の敵の強さの上がり方が半端ない
:それに対応できてるお前は化け物
コメントをチラ見しつつ、考える。
僕の体感だと、これまで――1000層まで――の魔物は一個前の層のボスの半分くらいの強さをしていた。
だけど、最近は違う。ニャルラトホテプが敵の強さの上がり方がこれまでとは比べ物にならないと言っていた通り、そこらへんにスポーンする敵の強さは体感その前の層のボスと同等だ。
うーん化け物。それに対応しながら攻略している僕もそれなりに化け物なんだろうけど、そんなことはゴミ箱にでも放っておいて。寝て食べれば肉体的疲労は全快する〝不老〟の恩恵を受けているとはいえ、正直精神的疲労がひどい。
これまでよりも身近に〝死の気配〟を感じるせいか、いまにも叫びだしたい気分なのだ。叫んでも別に問題はないけど魔物が集まるから叫べないしさぁ...はぁ。
「とりあえず、進むかぁ」
どうやらニャルさんに聞いたところ、ダンジョンの異変というのは探索者――つまりはダンジョン攻略している僕たち侵入者――を撃退するためのものという。その異変を起こしていた〝旧支配者〟たちは地上へ干渉できるようにするのに必死なようで、どうやらこれから異変が起きる可能性は限りなく低いらしい。
ということで、僕は異変の心配をする必要はないってことなのだ。
「...それだけが、唯一の救いかなぁ」
あと、モチベの一つといえばニャルさんからもらったレベル測定腕時計。
これのおかげで現在時刻が見れるようになり、ついでに自分のレベルがわかるようになったので結構な心のよりどころとなっている。もちろん配信のコメントが一番の精神安定剤に変わりはないけれど、それでなくとも疲労の大きい最近は結構助かっている。
―――そんなことを考えていると、目の前に魔物が現れる
:あ、敵だ
:触手ブンブンだ
:悍ましいなぁ(小並感)
:映像越しに見てるから「気持ち悪い」で済むんだろうけど実際に視たら発狂するんだろうなってことが容易に想像できる
「同じような敵ばっかりだなぁ...最近」
無限にはなってくる触手を刀で切り落としながら考える。
――最近出てくる敵は、全てがガスか触手で構成されたまさに〝邪神〟といった敵ばかりだ。
もちろん、その見た目通りガスの敵には物理攻撃は効かないので魔術で攻撃するしかない。
まぁ、今回の敵は触手生命体の方だからそこまで倒すの大変じゃないんだけどね。
:すごいよなぁ
:触手が悠に近づいた瞬間消えるんだもの
:見えない速度で刀振ってるんでしょ?
:もういっそ魔術で防いでますって言われた方が信じれる
「はは、残念ながら魔術で防いでるわけではないね」
コメントに返しながらも刀を振るう。うーん、厄介。
刀で触手が切れるから攻撃が当たることはないけど、近づきにくいんだよなぁ。
:魔術使えば?
:刀だけじゃさすがに無理だろ
:さすがにこの階層の敵に魔術無しはハンデすぎるだろ
:触手全部燃やしちゃえ
「...じゃあ今回は、ちょっとだけ趣向を変えてみようかな」
普通の魔術を使って倒すのは《《面白くない》》。
いやここまで来て面白くないとか何考えてんだよ、と思うことなかれ。ただただ単純作業で倒してもそんなの面白くないし疲れるだけなのだ。
「そういえば今まで忘れてたけど、一応これって神剣なんだよね」
――魔力を刃になじませる。
この刀は、神剣だ。名を――草薙剣。
スサノオがヤマタノオロチを討伐したときに出てきた剣。
ならば、少しくらい乱暴に扱っても壊れることはないだろう。
創作とかではよく〝不壊属性持ち〟といわれるくらいだし、これの耐久力もなかなかに高いだろうしね。
:おぉ...
:刀が揺らいでる
:ナニコレ綺麗
:神秘的だなぁ
草薙剣から白いオーラが渦巻き、空気を震わせる。
「だけど、これで終わりじゃあないんだよね」
これだけでも剣の強化としては十分だ。
強度も、切れ味も。どちらも最大限に強化されるし、たぶんこの状態なら魔術的生命体だって斬ることができる。
――だけど、それだけじゃあ面白くないじゃん?
僕が求めているのは、もっと派手でかっこいい術だ。
刀だけで倒すのは難しいけど、そこに魔術を組み込んだら難易度が一気に下がってしまう。
その中間点で、なおかつかっこいい物を僕は求めているんだ。
「今、僕が思いつきで作った技――」
草薙剣の名前の由来は、いたって単純。それは、持ち主が草を薙いだことからといわれている。
周りの草が燃えているときに、神から与えられたこの剣で燃えた草を薙ぎ、持ち主の命を助けたからと。
だから、僕もその伝承にのっとってみようと思う。
――《浄焔草薙》
草薙剣に焔が宿る。
自身以外の輝きの存在を許さない。まるでそう思わせるような勢いで焔が燃え盛り――僕にせまる触手はすべて灰に還った。
:うおおおおお!
:燃えてる!燃えてる!!
:熱そう
:触手が全部燃えてる!
「この状態なら、何もしないでも近づけるね」
草薙剣を右手に持ちながら敵に歩み寄る。
再生させた触手を放ってくるが、そのすべてを草薙剣の焔が燃やし尽くすため僕が何かする必要は皆無だ。
「ほらほら、もっと手数増やして頑張らないとただただ近づかれるだけだよ?」
:うわぁ
:悪人顔してるわぁ
:これは悪い
:後ろ姿しか見えんけどニヤニヤしてるところが容易に思い浮かぶ
ニヤニヤしながら近づくも、魔物くんは僕に対抗することができずに押されていく。
「これでおわりかぁ、意外とあっけなかったね?」
この【浄焔草薙】が強すぎたのか、それともただ単にこの魔物くんとこの技の相性が壊滅的だったのかはわからないけど、簡単に間合いに入ることができた。
そして――一閃。
焔が横に広がった瞬間、僕の目の前で暴れる触手の魔物君は一刀両断されてしまうのだった。
「うーん、弱くはないけど強くもない」
さすがにこの技をガス生命体君に使ったら爆発するかもだし使うことはできないけど、触手君には結構な有効打を見つけてしまったのかもしれない。
これを使えば、攻略速度はもっと上がりそうだね。精神的苦痛を感じる時間が少なくなるなら僕は大歓迎だ。
:うわぁ...
:俺らじゃ手も足も出ないどころか認識した瞬間ゲームオーバーのはずの魔物が...
:こんないとも簡単にやられてしまうとは...
:グリッチ技みたいなもんだろこれ
「これからの層は相性とか、それが重要になるのかな?」
【浄焔草薙】を作る前はそれなりに触手君を倒すのは大変だったけど、この技を作った瞬間これだ。
一応この【浄焔草薙】は火属性魔術的なところあるし、もしかしたら敵には有利属性的なあれがあるのかもしれない。
「もしかしたら、ガス君にも有利な攻撃方法があるのかな?」
試さない事にはよくわからない。
だけど、触手君をこんなに簡単に倒せたんだし多分ガス君にも有利な技とかがあるんだろう。なんだろう、これを知った瞬間今まで正正堂堂魔術と剣術で倒してたのが馬鹿らしく感じてきた。
:どうなんだろうなぁ
:ガスだし炎?
:↑爆発するわww
:爆発してもどうせ無傷だろ
:パーマにはなってるかもね
:ちょっとぱーまな悠みてみたいかも
...はぁ。相変わらず適当なことで。
――そんなことを考えながら、僕は層を進むのだった。
〝外なる神〟になることを目指して――
あとがき――――
はい、一章終了です
二章は新作の一章が完結すれば再開する予定なので気長に待ってもらえれば幸いです
カクコンにはこれ出さないし多分再開は結構後になると思います
許してちょ☆
体調悪くてやけくそになってる味ありますが許してくれたらうれしいです




