↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/5

うまい、の向こう側

これは、ひとりの主婦が料理を通して見つけた、小さな喜びと、少しだけ危うい心の揺らぎの物語です。


「お母さん、このドレッシング、お店の味みたい」


木曜の夕食の席で、中学二年の真央が箸を止めて言った。


「最近、全部おいしいよね。レパートリーも増えたし」


「ごま油をね、少しだけ焦がしてあるの」


「へえー。ねえ、これもっとかけていい?」


向かいで、隆がワイングラスを揺らしながらうなずいた。

目はつけっぱなしのテレビ、野球中継に向いたままだ。


「うん、うまい。美由紀、お前ほんとに腕を上げたよなあ。

昔は肉を焦がしたり、味が濃すぎたりしたもんだが。

小料理屋の親父でも憑依したか」


「そうかもね」


美由紀は笑って、白磁の皿に残ったバルサミコのソースを、パンの端でぬぐった。


うまい。隆は結婚して十五年、その一言しか言わない。焦がした肉にも、うまい。

塩を入れ忘れた味噌汁にも、うまい。

今夜、四十分かけて炒めた飴色玉ねぎのソースにも、

まったく同じ声で、うまい。


——ええ。おいしくなったでしょう。


胸の中でだけ答えた。その言葉の宛先が、

この食卓のどこにもないことを、美由紀は知っていた。



続




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。