第12章:契約
森は静まり返っていた。
聞こえるのは風に揺れる葉と、湿った大地を踏みしめるアレンの足音だけ。
目的は明確だった。
契約の指輪で結べるほど強い獣を見つけること。
ただの生き物では足りない。
エレナと、これから生まれる子を守るため――強大な獣が必要だった。
数時間歩いた後、空気が変わった。
匂い。
圧力。
アレンは立ち止まった。
――「……いる。」
重い気配。
低い唸り声。
木々の間から現れたのは巨大なベンガルトラだった。
筋肉質な体。
鋭い爪。
重い呼吸。
アレンは書物の記述を思い出した。
――「ベンガルトラ……ランク7。」
最初は静かだったが、アレンを認識すると牙を剥き、爪を地に突き立てた。
狩りが始まった。
アレンは深く息を吸い、指輪の説明を思い出す。
まず獣を傷つけ、弱らせる。
十分に疲弊した時、契約の指輪を使う。
トラが先に飛びかかった。
だがアレンは風の変化を感じ、身をかわした。
剣を振るい、攻撃と回避を繰り返す。
戦いは激しく続いた。
トラは強かった。
だがアレンは気づいた。
――「……戦える。」
数か月前なら不可能だった。
だが今は違う。
戦いが激化する中、アレンは決断した。
新しい技を使う。
呼吸を整え、剣に力を集中させる。
――炎の第一章「見えざる波」。
剣が空を切る。
だが斬撃は刃ではない。
目に見えぬ波が空間を走り、トラを切り裂いた。
深い傷。
トラは倒れた。
アレンは疲れていたが、今が契約の時だと理解した。
指輪を取り出し、獣に近づける。
光が溢れ、紋章が浮かび上がる。
トラの体は光に変わり、指輪へと吸い込まれた。
――「……成功した。」
巨大な獣が小さな指輪に収まったことに驚きながらも、アレンは呟いた。
――「古代の神器は……不思議だ。」
日暮れ前に家へ戻ると、エレナが迎えた。
――「アレン。うまくいった?」
アレンは指輪を掲げた。
――「たぶんな。」
そして指輪に呼びかけた。
――「出てこい。」
光が現れ、トラが姿を現した。
エレナは驚いたが、獣は穏やかだった。
攻撃的ではなく、守護者のように振る舞った。
契約が忠誠を生んだのだ。
アレンはエレナの手を取り、指輪を彼女の指にはめた。
エレナは頬を赤らめた。
――「アレン……何を?」
――「この指輪の中にトラがいる。もし僕がいない時は……呼べば君を守る。」
エレナは静かに微笑んだ。
初めて、本当の安心を感じた。
その夜、風が家を包む中、アレンは外で考えていた。
今の彼には――
家。
家族。
そして獣の仲間。
だが理解していた。
強さへの道は……まだ始まったばかりだ。




