表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
関係性オタクによる短編集  作者: 森ノ宮はくと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/2

1.二度と呼んではならない名前

「おい、フォル」


名前を呼ばれたスカイブルーの髪の男が、振り返る。


「あれ、何か用事?」

「ああ、次のダンジョン攻略の会議をする。フォルも来い」

「了解~」


ファイアレッドの髪の男について行き、宿屋の階段を降りる。

一階は酒場になっていて、そこには既に、パーティーメンバーが揃っていた。


「フォル、アルバーン、遅いよ」

「カルネ、ダオギス、待たせてすまない。早速始めようか」


メンバーのカルネに急かされて、会議が始まる。

次に行くダンジョンは、踏破率が13%。

入念な準備をしなければ、とても危険な、そんな場所だ。


「フォル」

「はぁい」

「ポーションとマナポーションは、どれくらい必要だ?」

「そうだね、僕の回復魔法が、どこまで追い付くかわからないから……」


さらさらと、リストに必要数を書いていく。

その数で、タンクのダオギスもアーチャーのカルネも、異論は無いみたいだった。


「よし、では、物資はこの数を持っていこう」


リーダーでセイバーのアルバーンも、納得したようだった。


*


「よし、お前たち、気を抜くなよ」

「はーい、リーダー!」


緊張感を打ち破る、カルネの明るい声が返った。

フォルは、思わずくすりと笑う。

アルバーンは、不服そうな顔をした。


「気を抜くなと、言ってるんだが」

「もちろん、わかってるよ」


ぽんぽんと、肩を叩く。


「でも、固くなりすぎても、余計な疲労を溜めるだけだよ」

「それは、そうだな。フォルの言う通りだ」

「それじゃあ、行こう」


タンク役を先頭に、ダンジョンへ入る。


*


10階層まで、難なく潜っていく。

いつものメンバーだ。

戦闘陣形も慣れたもので、魔物を次々と倒していく。


「そろそろ休憩にしようか?」

「そうだな、あの開けた場所で、一時休憩といこう」


フォルの提案に、アルバーンが頷く。

アルバーンの指定した場所に、メンバーが腰を下ろした。


「順調だな」

「ああ、でも、油断はできない」

「踏破率13%だしな」

「ダオギス、疲労回復のお茶だよ」

「おお、助かるぞ、フォル」

「カルネは、右足首を治そうか」

「え、気付かれてたの!?」


捻ったが、まだ見た目には何も現れていない。

それを見抜かれたことに、驚きを隠せない。


「さすが、フォルね」

「そんなことないさ」


はい、もう大丈夫だよ。

カルネの怪我を治したフォルは立ち上がり、アルバーンの横に座った。


「君は、まだ元気そうだね」

「メンバーに恵まれたからな」


普通のお茶を飲みながら、アルバーンが笑った。


「フォルの分も用意しておいた」

「わ、ありがとう」


温かいお茶を受け取り、口をつける。

ほっと、落ち着く温度だ。


「俺たちなら、きっと踏破できる」


アルバーンが、フォルにだけ聞こえる声で言う。


「優秀なウィザードがついているからな。そうだろ、フォル」


その言葉に、フォルは肩を竦めた。


「持ち上げすぎだよ」


でも、と続ける。


「きっと踏破できるさ。君が、そう言うならば」


*


「撤退、撤退だ!!!」


20層目のボス。

その強さは、今までの各層のボスとは、一線を画していた。


巨大な体躯が動くだけで、衝撃波が生まれる。

尻尾を振れば、それは人間への致命傷だ。


「魔法陣、描けた! 入って!」


フォルが描いたダンジョン脱出用の魔法陣に、最初にカルネが飛び込んだ。


「早く!」

「先にいけ、アルバーン」

「メンバーを置いて行けるわけないだろ、ダオギス」

「二人とも、早く!」


フォルの声を聞いても、どちらも動かない。

タンクである誇りと、リーダーである誇りが、そうさせていた。


「二人同時でいいから、早く……!」


「むっ……!」


20層目ボスの爪が、降り掛かる。

ダオギスが盾で受け止める。


「う、ぐ……!」


爪による直撃は、防いだ。

しかし、巨大な前脚の重みを、受け止めきれない。

潰される。

そう頭を掠めた時だった。


「こっちだ!」


アルバーンが、ボスの前に飛び出す。

ダオギスに伸し掛る前脚を、剣で切り付けた。


「おい!」

「俺が引き付けてる間に、撤退しろ!」

「ダオギス、早く!」

「致し方あるまい!」


アルバーンとフォルの声に背中を押され、ダオギスも魔法陣へ飛び込む。


「次は君だよ、早く!」


アルバーンは、ボスの攻撃を避けるので精一杯だ。

今背中を向けたら、あっという間に捕まる。


「ああ、もう!」


魔法陣を展開するには、相当の魔力量を要する。

更に、それを維持することは、並大抵のことではない。

おまけに、魔法陣を一度閉じると、再起動にはかなりの時間が必要になる。

人によっては、再起動が不可能なレベルの話だ。


しかし、フォルは、魔法陣を展開しつつ、アルバーンの方へ手のひらを向ける。


「アイスアロー!」


アルバーンの横を掠め、ボスの表皮に氷の礫が刺さる。

ボスが、鬱陶しそうに脚を振った。


「君も、今のうちに!」


フォルの声に、今度こそアルバーンが、魔法陣の方向へ駆け出す。

しかし、それに気がついたボスも、こちらへやって来た。


「ダートウォール!」


地面が盛り上がり、壁の役割をする。

しかし、ボスはいとも簡単にそれを破壊した。


「うっ……」


魔法陣を維持しながらの魔法展開は、かなりの負荷だ。

フォルの息があがる。


だから、気が付かなかった。


ボスの標的が、変わっていたことに。


「フォル!」


アルバーンの悲鳴のような声に、顔をあげた。

その瞬間、ぴしゃんと、ぬるい温度の液体が頬に飛んでくる。


「え……?」


目の前には、アルバーンの背中があった。

頬に触れれば、ずるりと湿度を持った何かが付着している。

手を見れば、それは赤く濡れていた。


「なん……で……」


ゆっくりと、アルバーンの体が傾く。

フォルが慌てて、それを受け止めた。


呼吸を確かめる。

大丈夫。

まだ、息はある。


「今、ハイヒールをかけるから……」


傷の上に手を翳せば、その手首を握られた。


「俺は、いいから……」


アルバーンが、掠れた声で言う。


「フォルは、生きろ……」


そう残して、アルバーンの手が地面に落ちる。


「待って……」


アルバーンの体を揺さぶる。


「待ってよ……」


アルバーンからの反応はない。


「置いていかないでよ、ねぇ!」


アルバーンの体から、温度が消えていく。


「ねぇ……」


フォルが、項垂れた。


20層のボスは、二人に興味を失ったのか、欠伸をしている。


「君は、いつもそうだ」


フォルの声に、怒りが滲む。


「他の誰かを優先して、自分が傷付いても、気にもしない」


フォルが、ゆっくりと立ち上がった。


「その結果が、こんな死だなんて」


絶対に、許さない。


フォルが、魔法陣を描く。


脱出用ではない、新たな魔法陣。


「不死鳥の涙」


魔法陣を描きながら、フォルが詠唱を始める。


「サラマンダーの息吹」


からんっと、杖を捨てる。


「灰に落ちし命に、再びを」


魔法陣が、光り輝く。


「レイズ」


蘇生の呪文を唱えた時、フォルの前に門が現れた。

真っ黒な門だ。

門の出現により、辺りの光がなくなる。


なのに、門だけはハッキリと見える。


その存在は、明らかに異質だ。


しかし、フォルは、表情を変えずに、その門を見ていた。


門が、ゆっくりと開く。

その先には、底知れぬ闇が広がっていた。


「汝、誰の命を欲する」


その問いかけに、フォルは、深く息を吐き出した。


怖いとは、思っていない。

それでも、少しだけ、ほんの少しだけ、哀愁の気持ちが過ぎった。


しかし、ほんの一瞬だ。


フォルは覚悟を決めて、しっかりと門を見据え、蘇生したい者の名を告げる。


「アルバーン」


そう、フォルが言う。

すると、闇がくつくつと笑った。


「汝、その名を呼んだな」


「うん、呼んだよ」

「その名は、二度と呼んではならぬ契約」

「うん、覚えてる」


フォルが、蘇生魔法を使うのは、二度目だ。


「いいよ。連れていきたいなら、僕を連れていけばいい」


フォルの目が、怒りの色を宿していた。


「でも、彼は返してもらう。絶対に、連れていかせない」


一度目の時も、そうだった。

アルバーンは、フォルを庇って命を落とした。

その時に、蘇生魔法を使ったのだ。


「一度、蘇生魔法を使った対象の名は、二度と呼んではならない」


呼んだ時に、死の門番が迎えに来る。


「もちろん、分かっていて呼んだよ」


「だって、そうだろ?」


「その程度の制約で、彼の命を諦めろと?」


「有り得ない」


「そんなこと、許さない」


「誰にも、彼を奪わせない」


「あいつにだって、あいつを奪わせない」


「あいつは、少しでも多く生きるべきなんだ」


街の人々に慕われているアルバーンの姿を、思い出す。

彼は、太陽の下に、いるべきなのだ。


「早く、蘇生しろ」

「くくっ、いいだろう」


その代わり。


「汝を、連れて行くぞ」

「ああ、そのつも……」


「それは、困るな」


グイッと、フォルの体が後ろに引っ張られる。


闇の扉に、剣を突き立てる者がいた。


「なん、で……」


アルバーンが、そこにいた。


「悪いが、フォルを渡すことはできない」


至極真面目な顔で、そう言った。


「く、くはははははははっ!」


門の奥から、笑い声が木霊する。


「面白い。良いだろう。二度目をくれてやろう」


ギィっと、門が閉まっていく。


「しかし、三度はないぞ」


そうして、門は消えていった。


「え、な、なに……?」

「フォル、脱出用魔法陣を描け」

「え、ちょっと待って……」

「帰ったら、説教だ」


そう言って、ファイアレッドの髪の男が、振り返った。


地下なのに、何故かその色が眩しくて。


「ああ、もう、本当に」


フォルは、目を細める。


「君には、敵わないな」


フォルの言いように、アルバーンが、ため息をついた。


「あー、今すぐに色々言ってやりたいが、ここはまだボス部屋だ」

「ふふ、そうなんだよねぇ」

「だから、早く脱出しろ、させろ」

「僕がいま、結構疲れてるの、わかる?」

「特大魔法、二連続なのは、わかる」

「脱出陣を二回以上、作れる人が少ないのは?」

「理解している」

「君、人使いが荒くない?」


アルバーンをそのように言うのは、世界でただ一人、フォルだけだろう。


「じゃあ、あそこのボス倒してからゆっくり話すか?」


「さっきでも苦戦したのに、半分で勝てるわけないでしょ……」


既に、パーティーメンバーの半分は脱出済みだ。

ダンジョンの前で、ヤキモキしている頃だろう。


「だから、早く魔法陣を描けって言ってるだろ」

「休ませてよー」


フォルが、空を仰ぐ。

ここは地下なので、岩しか見えないのだが。


「何を寝ぼけたことを言っている」


アルバーンが、不敵に笑った。


「うちの最強ウィザードが、その程度できないわけがないだろ」


その信頼が、フォルには少し、くすぐったかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ