22 捕縛
「ぎあっ!」
「おごぉぉおおお!」
悪鬼の形相で相手の体をつぶし合っている2人‥‥いや、もはや2匹か?——を眺めながら、ギャラリーたちは少しずつ後ろへ引き始めていた。
これはもう、男同士のプライドを賭けた戦いなんてものじゃない。
2匹の筋肉の化け物が、己れの存在意味を求めてぶつかり合っている。そんな感じだった。
ギャラリーも賞賛も、もはや眼中にない‥‥。
億田が丹馬の袖を引く。
「逃げよう。誰かが警察に通報したみたいだ。ここにいるとヤバい。あいつはもう俺たちが知っている金吾じゃねぇ。」
億田と丹馬がその場を離れて暗い路地に入るのとほぼ入れ替わりに、銃を持った機動隊のような集団がその十字路に入ってきた。
「ヤベぇ! 警察だ!」
誰かが叫んで、ギャラリーが蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
しかし機動隊はそうした観客連中は全く無視した。
入ってきたのはどうやら警察の機動隊ではない。軍隊のような見慣れない装備を持っている。
黒ずくめの戦闘服に身を固めた彼らは、誰もいなくなった路上で相変わらずの激闘を繰り広げている魔沙鬼と金吾を取り囲んだ。
魔沙鬼の目がきらっと光って、黒ずくめの部隊の方を見た。
金吾はそちらには目もくれず、魔沙鬼のそのわずかな隙を突いて襲いかかる。
‥‥が、その金吾の前から魔沙鬼が消えた。
一瞬、金吾も黒ずくめの部隊も何が起こったかわからなかったが、魔沙鬼は逃げに入ったのだ。
このあたり、経験の少ない金吾と違って魔沙鬼は百戦錬磨だった。
黒ずくめの隊員2人がはじき飛ばされ、その包囲の穴から魔沙鬼は路地の暗がりの中へとものすごいスピードで走り込んだ。
「追え!」
という叫びと共に、隊員の半分が銃を構えてその路地に入る。はじき飛ばされた隊員も起き上がってあとを追った。
起こったことを理解できずに一瞬動きの止まった金吾に向けて、残りの半分のうちの4人が発砲した。
撃ち込まれたのは銃弾ではない。ワイヤーの付いた銛のようなものだ。それが金吾の盛り上がった筋肉に突き刺さった。
ワイヤーは銛から銃まで伸びている。
よく見ると銃も軍隊が持っている小銃のようなものではなく、四角っぽい無骨な形をしている。
次の瞬間。
バチッ! と青白い火花が散って、金吾の体を強い電撃が襲った。
「ガッ!」
金吾の筋肉が硬直する。
バチ、バチ、バチッ!
青白い火花が飛び散る。
「うがあぁぁあああ!」
硬直したままの金吾の体に向けて、別の隊員が構えた奇妙な形の大きな銃から白いボールのようなものが立て続けに撃ち出された。
それは金吾の体に当たると、はじけてクリームのようなドロドロの液体になってゆっくりと表面を流れ落ちる。
程なくその液体は発泡して膨れあがり、電撃に硬直している金吾の体をミチミチと締め付けていった。
「うぐぁぁあああっ!」
金吾が身をくねらせて暴れるが、膨れあがった白いゴムのようなものは金吾の力をもってしてもどうにもならない。
体の自由が完全に奪われて、アスファルトに固着されてしまった。
「どうだ、筋肉のバケモノ。おまえたちに特化した捕獲ペーストの味は——。」
部隊の隊長らしい男が、勝ち誇ったようにつぶやく。
それから片手を上げて、手招きのようなしぐさを見せた。
「よし! 護送車を入れろ。」
十字路に白っぽい警備車両ふうの車が2台入ってきた。小型のバスくらいの大きさだが、四角く角張っていて窓がない。見るからに装甲が分厚いのがわかる。
その後部ドアが開き、鋼板の床がスライドして出てきた。2mくらいの長さまで出てくると根元で回転して折れ曲がり、先端が路面に付いてスロープになる。
1台からはキャタピラの付いた運搬用モビルと、その後ろに続いてボンベのようなものを背負った隊員がスロープを通って降りてきた。
もう1台からは清掃要員らしき一団が機材と共に降りてくる。
ボンベを背負った隊員が、叫んでもがき続けている金吾に何かの注射を打った。
麻酔だろうか、10秒ほどで金吾の叫びは収まったが体はもがくことはやめない。
ボンベの隊員が噴霧器のようなもので、何かの液体を足元に撒いてゆく。
するとアスファルトに付着していた白いゴム状のものが溶け出し、がんじがらめになっている金吾の体を路面から引き剥がすことができるようになった。
ゴム状の発泡ペーストで拘束された金吾の体を運搬用モビルのアームがつかんで荷台に載せ、そのままキャタピラを逆回転させて警備車両のスロープを登ってゆく。
億田と丹馬はその一部始終を路地の陰から見ていた。
あいつらは何なんだ?
運搬用モビルが車内に収まると車はスロープを収納し、後部扉を閉めて走り去った。




