20 寄生生物
「こちらに来て、樋山クン。」
篠島さんに招かれるままに、光太郎は長森先生と一緒に課長室に入った。
「そこに座って。お茶、出なくてごめんね。」
光太郎は言われたソファに腰を下ろす。
その隣に長森先生が座ると、篠島さんはノートパソコンを持ってきてテーブルの上に置き、長森先生の反対側に光太郎を挟むようにして座った。
篠島さんの柔らかな身体が必要以上に光太郎にくっつくような感じになって、光太郎はちょっとどぎまぎする。
「これから画像データを見せながらこの寄生生物と取り憑かれた患者について説明するから、気持ち悪くなったら言ってね?」
肩が柔らかくて温かい。
だが、すぐにそんなことは忘れてしまうような画像が画面に表示された。
手術台に固定されて体をえびぞらせて暴れる患者の脚を切り開き、寄生筋肉を切除する手術の様子だった。
メスで切り取るのではなく、ペンチのようなもので挟んで引き剥がすといった方が近い。
皮膚を切開された患者は、その状態で体を捻りながら暴れている。
「麻酔‥‥かけないんですか?」
「麻酔はかかってるんだよ、樋山クン。患者の意識はない。暴れているのはPMなんだ。」
次は白っぽい液体だった。
「さっきのような捕り方をしないと、メスで切り取ったりすると死んでしまうんだ。この寄生生物は、死ぬと樋山クンも見たとおり白くなって崩れてしまうんだよ。だから解剖することができず、内部がどういう構造になっているかまるでわからないんだ。」
「X線とかで調べられないんですか?」
光太郎もつい興味をそそられて質問してしまう。
その質問に、篠島さんは得たりという表情で笑顔を見せた。
しまった。引き込まれた——と光太郎は思ったが、ここまできて協力を拒否するような選択肢はたぶんないだろう。
「じっとしててくれないからね。」
篠島さんは説明しながら、画像データを先に進めていく。
そこで先ほどの気功師の動画が出てきた。
ロウソクの動画のあと、人体から取り出されケースの中で動き回るPMに気功師が気を当てておとなしくさせる(気絶させる?)映像が続いた。
「張先生に協力してもらって撮影できたX線画像と外見の写真がこれだ。」
X線画像ではPMの体は細長い紐のようなものが何本も束になっているように見えた。
内臓のようなものがあるようには見えないが、それは同じように紐状の形をしていて見分けがつかないのかもしれない。
外見は人間の筋肉とほとんど変わらないように見えたが、人間の筋肉では腱に当たる部分は何本もの細い紐状のものが束になっていて、その一つひとつの先端が吸盤のような形をしていた。
それがまた集まってひとつの吸盤のようにもなっている。
「これ、1匹じゃないんですか?」
光太郎の質問に篠島さんがにっと笑った。
「いいところに気がついたわね。そう。この1つの筋束みたいに見えるものはどうやら1匹じゃないらしいんだ。先端の吸盤みたいに見えるところは口ではなく、人間の骨や本来の筋肉の腱の部分にくっつくためのものらしい。」
そしてこのあと、長森先生が指でPMを殺す動画があり、それから患者を治療する動画があった。
先生が手技を施してゆくと、縛り付けられて暴れていたマッチョな男性患者は次第におとなしくなってゆき、やがてぶよぶよに浮腫んだ体になった。
目がとろんとして力がない。
「PMが溶けて液体になったものが皮下に溜まっているんだ。もちろん我々はそれを採取して調べたが、主にアミノ酸と水で、20%ほどが脂質だった。遺伝子の検出はできなかったんだよ。」
そう言って篠島さんは、ため息のような息をひとつ吐いた。
「樋山くん。私と一緒にやってほしいのは、この治療だ。治療が間に合う患者は救いたい。」
長森先生が真剣な目で光太郎を見た。
「間に合わなかった患者はどうなるんです?」
「見るか?」
篠島さんがそう言って、別のファイルを開いた。




