身勝手な正義論
院内発砲事件まで…3時間
紾は、皐月と警察署へと戻る途中で、先ほどまでの話と推理を、電話越しに曳汐へと説明していた
曳汐 煇羽
「つまり、穢佇さんを含めた四人組は少年犯罪を強引にでっち上げ、その逮捕を捜査一課長が行っていた。という事ですね」
あまりにも包み隠さない彼女の言葉に、紾は何度か咳き込んだあと、慌てて言葉を付け足す
蔡茌 紾
『いや、そうかもしれないが、そこが重要なんじゃなくて…穢佇君がそうした理由は、きっと施設の子を守りたかったんじゃないかと思うんだ。それだけじゃなくて、同じクラスの一課長の娘さんの事故にも、心を痛ませていたかもしれない」
元はと言えば穢佇は、不良達をずっと暴力により抑制していた。その事を踏まえて考えると、自分が抑制しておけばと、思ったとしても不思議じゃなかった
それに蜂笑が言っていた、穢佇の様子が何となく変わった時期とも当てはまり、紾と皐月はそう結論付けた
蔡茌 紾
「確かに、暴力で解決するのはいけない事だ。だからと言って、穢佇君達だけが罪をきせられるのは、どう考えても間違っている」
曳汐 煇羽
「捜査一課も、同罪に処すべきと仰りたいんですね」
蔡茌 紾
「処すって、また物騒な…いやそうじゃなくて、ちゃんと真実を明るみに出すべきだ」
紾の言うように、穢佇と隅田が繋がっていて、少年犯罪を強引にでっち上げているのなら、裁かれなければいけないのは双方だろう
協力をさせるだけさせておいて、都合が悪くなったら切り捨てるような真似、黙って見過ごせない
曳汐 煇羽
「いずれにせよ、証拠がないと立証できません」
"証拠"言われると分かっていたその言葉に、紾は意を決して口を開いた
蔡茌 紾
「穢佇君に証明して貰おうと考えてる」
紾から出た、意外な言葉に曳汐は、少しだけ驚く
曳汐 煇羽
「……と言う事は、取り調べでですか?」
蔡茌 紾
「あぁ。皐月君とも話して、それが一番だと思ったんだ…穢佇君にちゃんと向き合って、間違っているんだと言ってあげるべきだと」
穢佇風十は、大人達の勝手で人生を振り回された。幼少期から親の温もりを失い、虐められ濡れ衣をきせられ、誰の事も信用しなくなった
そんな彼の唯一の居場所であり、大切な存在は施設の子供達で、自分と同じような目に合わせない為に守ろうと誓ったのだろう
だから、間違っていると分かっていながらも、暴力で人を従える方法を選ぶしかなかった
蔡茌 紾
「まだ間に合う筈だ。穢佇君や送検された子達に、正しい道を歩いて欲しい」
電話越しの熱い思いに、曳汐は困った。紾の話はまるで、穢佇が大切な人を守るために、仕方なく手を汚したのだと前提しているからだ
きっかけはそうにしても、人間と言うのはそう単純ではないと、マジックミラー越しに穢佇を見た曳汐は感じていた
曳汐 煇羽
(上手くは言えないけど、あの目は違う)
けれど、今ならまだ間に合う。その意見には頷けた。何が正しくて間違っているのか…物事の善悪を理解しなければ、きっと彼はこの先も同じような事を繰り返すだろう
蔡茌 紾
「ひ、ひきしお?聞いてるか?」
返事がない事で焦っている紾に、曳汐は前もって、黎ヰから言われていた言葉を思い出す
黎ヰ
『もし紾ちゃんから連絡があって、全然見当違いの事言われたら、俺の代わりに伝えといてくんねぇ?ーー』
曳汐 煇羽
(ピンポイントで伝言を残すなんて、なんとなく黎ヰさんには蔡茌さん達の行動とか、言おうとしている事が分かっていたのかも)
そんな風に思いながら、曳汐は口を開いた
曳汐 煇羽
「単純過ぎ却下。以上です」
蔡茌 紾
「えっーー」
返答を待たずに切られた電話にしばらく紾は、呆然とするしかなかった。話を聞いた皐月が怒ったのは、そのすぐ後だった
ーーー ーーー ーーー
取調室にて
黎ヰ
「クックック…随分と苦戦してるようで」
パソコンを見て、眉間に皺を寄せている穢佇に対して、取調室の椅子をガタガタと揺らして遊んでいる黎ヰは、余裕の笑みでそんな言葉を投げかけた
穢佇
「うっっっざ」
視線をパソコンから黎ヰへと移し、睨みながら返す言葉は、取り調べ開始の時よりも短く荒いものだった
黎ヰ
「余裕ないとモテねぇよ?」
穢佇
(何コイツ、本当マジでうざいし面倒いし嫌なんだけどっ)
穢佇が思っている事を、皐月達のように言わないのは、それが無駄だと知っているからだった
どうして、自分がこんなにも黎ヰにペースを乱されてしまっているのか…穢佇は、頭の中で時間を少し遡らせた
皐月達が取調室を出て行った後、穢佇は取調室での騒がしいやり取りに関して、心底下らない目を黎ヰへと向けた
穢佇
「身内のいざこざなら、勝手にやってくんない?本当にうざったい」
黎ヰ
「ん?あぁ、悪かったな。それに関しちゃ同感だぁ、関係も興味もない話は、お子様には不快だろうからなぁ」
穢佇
「何?挑発のつもり?そんな安い挑発乗るわけないじゃん」
刺々しい態度に、黎ヰは心の中で笑う
黎ヰ
(クックック…言うわりには、ちゃんと反論してくれてんだよなぁ〜)
本当に挑発に乗らない奴なら、まず話題すら出さないし、こっちのペースに乗せられないよう、会話をリードしようとするだろう
黎ヰ
「全体的な意味も含めて、まだまだ爪が甘いねぇ」
ニヤニヤしながら向けられた、含みのある言葉に穢佇は苛立つ感情を抑える
穢佇
(絶対、馬鹿にされてる)
穢佇の反応を楽しみつつ、椅子に座ると黎ヰは、持って来ていたパソコンを開いて、ハサミ越しに操作していく
穢佇
(…何してんだコイツ。はさみ?遠回しな脅しとか?てか、よく見れば頭とか格好とかなんな訳?)
目の前に座った事で、黎ヰをはっきりと見た穢佇は、彼の警察離れした格好とふざけたヘアスタイルに目を見開いた
薄暗い取調室でも分かるほどに、前髪の一部は黄緑で左右にでている横髪は赤…全体の色は藍色だが、頭のてっぺんに折り返すように括られているせいで、飛び跳ねた毛先が無造作に分かれている
穢佇
(頭のカラーどうなってんの?てか、どう見てもパイナップルじゃん)
それだけならまだしも、服装まで奇抜で嫌でも気になってしまう。紫色のシャツには白の模様が入っており、真ん中にはピンクのネクタイ
チラリと足元を見れば、ピンク色のスニーカーが目に入った
穢佇
(私服警察?いや、でもめっちゃピンクじゃん…流石にあり得ない…よな)
気づけば、まじまじとみてしまっていて、穢佇の興味は知らず知らず、黎ヰへと移っていた
黎ヰ
「♪」
穢佇
「?!」
不覚にも目が合ってしまい、意味ありげにニヤリと黎ヰが笑みを浮かべる。穢佇は我にかえると、思考を落ち着かせるべく息をゆっくりと吐き出した
穢佇
(落ち着け落ち着け、絶対わざとに決まってる。そうやって取り乱させる為だろ。いかにもこすい奴がやりそうな事じゃん)
黎ヰの奇抜な格好はわざとだと決めつけた穢佇だったが、実際はいつも通りだと言うことを今の彼は知るよしもない
黎ヰ
「まじまじと見つめられると照れるねぇ〜、俺に興味あんなら趣味特技その他色々と教えるぜ?」
穢佇
「興味ないんで。さっさと取り調べしてくれます」
こういうタイプは、まともに相手をすればこっちのペースが崩れると悟り、穢佇は冷静に対応をしていく
黎ヰ
「んじゃ、お望み通りに始めるか。とは言え、話すのは飽き飽きしてきたろ」
言いながら、黎ヰはパソコンの画面を穢佇へと向けた
穢佇
「は?」
差し出されたパソコンの画面には…
【Self-centered theories of justice】と、真ん中に表示された文字があるだけだった
穢佇
「…自分本位?いや、自立?次は…理論と正義…だよな。オブって事は…合わせると…正義論?」
ブツブツと呟く穢佇に、黎ヰは余計な事を言わず、彼が答えを出すまで待っていた。しばらくして、自分が見られている事に気づいた穢佇は、気分を害したように鼻を鳴らす
穢佇
「なに?そんなに見つめて、俺に興味あるなら、趣味特技その他色々と教えてやろうか」
先程のお返しと言わんばかりに、嫌味を言う穢佇は、少しでも目の前の余裕のニヤケ面が変わればいいと思った
が、予想に反して返された言葉に穢佇の表情が引きつる事になってしまう
黎ヰ
「穢佇風十。趣味は子供が大好きな、飴細工にバルーン。特技は水泳で支援さえあれば、そっち方面の高校を希望する程の実力の持ち主。まっ水泳を始めたのも、子供がプールで溺れないように身に付けた…って所か?」
穢佇
「……なに、前持って情報収集してました。って事?悪趣味にも程があるね」
黎ヰ
「情報ってのは、あくまでも偏ったもんだ。にも関わらず、それ本位で考えちまうのは、まさに愚者だねぇ〜」
自分で調べた不良達の"情報"により、軽犯罪を素知らぬ顔で犯し、罪を償わない奴らを、多少の偽証工作も含め逮捕させていた
だが、そいつらはどれも犯罪者には変わりない
明らかに、自分の行いに対して向けられている言葉に、穢佇はいまいましく舌打ちをした
穢佇
「俺に言ってるわけ?っち、いちいちムカつく奴。そう言うお前も、俺様の趣味やら特技を悠々と語ってたけどね」
黎ヰ
「否定しなかったろ。ならこの情報は正解って事だぁ」
穢佇
「うっざ」
ふざけた格好とは裏腹に、上手く踊らされてしまっている事に気づき、感情のままに軽く机を蹴る
黎ヰ
「情報収集の次は確認が必要だって思わねぇ?それをすっ飛ばしちまうのは、情報の持ち腐れでしかない」
穢佇
「だろうね。でも常に偏った情報でしか動けない警察らには、苦言ってやつだろ」
黎ヰ
「どうだろうなぁ〜。ちゃんと見て聞けば別だと思うぜ」
穢佇
「どうだか」
黎ヰ
「例えば、俺自身が穢佇風十に触れ合った情報を挙げるとするなら…一人称は俺様だろ」
穢佇
「っ?!」
不意をつかれ、穢佇は分かりやすく反応をしてしまう
黎ヰ
「普段は滅多に出さないんだろうが、さっき一瞬使ってたぜ?あまりに自然だったから、素なんだろうなぁ〜って思ったが、当たったみたいで何より」
穢佇
(っち、俺様とした事が…完全にこいつペースにのまれてる。他の雑魚とは違う…厄介だな)
皐月達の取り調べとは違い、心の内を見透かされているような、気味の悪い感覚に陥る
穢佇
(全部、分かったような顔しやがって)
黎ヰ
「クククク、遊んで悪かった。反応が紾ちゃんみたく素直だったからなぁ」
今までのやり取りは、黎ヰからすれば遊んでいる程度の事で、揺さぶるつもりは一切なかったらしい
穢佇
「……」
先程とは違い、硬い表情で口を紡ぐ穢佇の姿に黎ヰは、成る程。と言葉を続けた
黎ヰ
「黙秘か、確かに俺みたいなタイプ相手にするなら、そっちの方が賢明だな。でも、安心しなちょっと遊んだだけで、こっからはそっちが遊ぶ番だ」
言いながら黎ヰは、パソコンを上から覗き込み、迷いなくハサミでエンターキーを押した。すると、海の音と共にゲームスタートと言う文字が現れた
穢佇
「……は?」
まさか、取り調べ中にゲームを勧められるとは思わず、訳が分からないまま穢佇はパソコン画面を呆然と眺めた
黎ヰ
「このゲームをクリアできれば、取り調べ終了って事で♪」
そんな調子で、いきなり始まったゲームをする事、数時間……穢佇はクリア出来ず、パソコンのメモ機能まで使い画面を睨んでいた
穢佇
「…これなら、どうだ」
画面に映る黒い色の棒人間と白い色の棒人間、五人を船に乗せ、残りの五人を浜へと置く…そして完了のエンターキーを押した
画面が切り替わり、船が海を出る…しばらくして船は沈み暗転と共に【ゲームオーバー】の文字が出た
穢佇
「クッソ」
何度も見慣れた光景に、穢佇は苛立ち背中を椅子の背もたれの部分にぶつけた
穢佇
「クソゲー過ぎ」
画面はまたスタートに戻っている。長々とゲームの説明文が勝手にスクロールされていくのを睨みながらも、ヒントがあるかもと思い読み直す
【島には十人の人間が居ます。五人は罪人、五人は一般人。その中の五人だけ帰りの船へ乗せる事が出来ます。全ての決定権は貴方にあります。どうしますか?】
…
最初にゲームをした時、穢佇はやや呆れつつ、当然の感覚で罪人五人を島に置き、一般人を船へと乗せた。だが、結果は先程と同じく船が沈みゲームオーバー
それを見た穢佇は、船が沈むものなんだと考え、罪人五人を乗せた…すると船は沈まず街へと着き、また犯罪を繰り返してゲームオーバー
穢佇
(そうか!罪人が一人でも乗れば、船が沈む仕組みなのか)
ならばと、罪人一人と一般人四人を船へと乗せる。結果は、罪人一人が船をジャックしゲームオーバー
その後も、罪人と一般人の数を変えて船へと乗せたが、バッドエンドの文字は消える事なく続いた。他にも隠し要素で島や船には、いくつか道具があって持たせたりできるが、どれも手応えがなかった
なんとか道具の組み合わせをメモに取り、何度も挑戦するが結果が変わる事はなく、苛つきは増すばかりだ
そろそろ、穢佇の集中力が切れて来た頃だと思い、黎ヰは頬杖をつきながら衝撃の一言を言い放った
黎ヰ
「ヒントそのいち〜道具はまったく関係ありません〜」
穢佇
「やっぱりか!マジでムカつく!!」
意地悪に言われた事よりも、この何時間の努力が無駄だと分かり、悔しそうに拳を机へと叩きつけた
黎ヰ
「俺は楽しいからいいけど、キャラブレてね?」
隠す…と言うよりは、黎ヰの前で取り繕う必要がないのか、今の穢佇は完全に素の状態だった
もちろん、本人は途中から気づいてはいたがゲームをするだけなら、変に考えて惑わして…なんて馬鹿らしくてする気になれない
穢佇
「うっさい、てか…これ本当にクリア出来んの」
黎ヰ
「♪」
穢佇
「……」
無言のニヤケ面に穢佇は、嫌な感覚を覚えた
穢佇
「嘘だろ、まさか…いや、落ち着け。単なる時間稼ぎとか、俺様にとって都合の良い結果にしかなんないし…」
タイムリミットが来て、何の情報も得られず困るのは警察側だ。それを分かっていて、わざと時間を消費させるような事する訳がない。絶対に何か意図がある
そう考えた穢佇は、そろそろ殴りたくなるニヤケ面を見ながら、黎ヰが話していた内容を頭の中で駆け巡らせた
『情報ってのは、あくまでも偏ったもんだ。にも関わらず、それ本位で考えちまうのは、まさに愚者だねぇ〜』
『情報収集の次は確認が必要だって思わねぇ?それをすっ飛ばしちまうのは、情報の持ち腐れでしかない』
穢佇
(…こう言う、ふざけたタイプって"最初にヒントを与えてましたー"とか後で得意気に語り出すんだよな)
そう考えれば、恐らくゲーム事態が囮で本来の目的はやっぱり別にある。と考えた方がしっくりくる
穢佇
「だとすれば、俺様に素を出させて情報を引き出す…いや、元ある情報の確認がしたい訳か。遠回しすぎてウケるんだけど」
どこまでも、狡猾で底意地の悪いやり方に穢佇は、やっぱり大人なんて所詮はそんなもんなんだと思ったーーのも束の間…
黎ヰ
「それじゃ、面白みに欠ける所か底意地悪すぎて、逆にウケねぇな」
穢佇
「は?」
頬杖をつきながら、つまらなさそうな視線を向けられてしまえば、もう何が正解なのかいい加減分からなくなってくる
冷めた黎ヰの態度に、穢佇は不完全燃焼な消失感に襲われる
黎ヰ
「安心しな。クククク…ゲームは必ずクリア出来る。まぁでも、本当の意味での善悪を理解してなきゃ、到底不可能だがなぁ」
どうやら、本当にゲームをクリアさせるのが目的らしい
穢佇
(意味分かんなさ過ぎて、どうでも良くなってきた。てか良く考えれば、このままゲームクリア出来なかったとしても、時間稼ぎになるし別に俺様が苛立つ必要ないじゃん)
そう思うと、さっきまでの自分の熱意が馬鹿らしくなってくる
黎ヰ
「あぁ。勿論、ゲームクリア出来ず敗北したって構わない。その時は俺が清々しい気分で帰るだけだからなぁ〜」
この時、穢佇は思った。余裕のニヤケ面の鼻っぱしを叩き折ってやりたいとーー
穢佇
(絶対、クリアしてやる)
黎ヰに焚き付けられた穢佇は、再びパソコン画面と向き合う
穢佇
(癪だけど、あいつのヒントは嘘じゃない……嘘つく意味ないし、あのニヤケ面は本気で俺様を観察して楽しんでやがる)
仕方なく、今までの出されたヒントをもう一度思い出す
穢佇
(道具は関係ない。なら最初から意味のない要素入れるなよっ!…もう一つは…本当の善悪を理解か…)
大事なのはどう考えても、後者の方で穢佇はエンターキーを押し何度目かのゲームを開始する。一番最初に目に付いたのは、黒と白の棒人間の色だった
穢佇
(そう言えば、勝手に黒は罪人で白は一般人って思い込んでたけど…まさか!)
はっ、と閃いた穢佇は身を乗り出し、今までの凝り固まった考えを逆転させた。そう言えば、最初から罪人と一般人の色はきめられてなかった
穢佇
「もし、白色が罪人なら…真逆じゃん」
最初のように一般人を五人、船へと乗せる…だが今度は黒色の棒人間だ。出発する船をドキドキしながら見る
そして…結果はいくつか見たゲームオーバーの一つと同じ結末だった
穢佇
「クッソ!」
良く考えてみたら、白五人も黒五人も既に試している。感情だけが先走り気づけなかった自分に、疲れを感じた
そんな穢佇に黎ヰは、そろそろ頃合いだと、持っていたタブレットをハサミで操作しだした
黎ヰ
「そんじゃ、最後の大ヒント」
そう言って、遠隔操作により穢佇が見ていたパソコンの画面に変化が現れ、白と黒だった棒人間に顔写真がついた
穢佇
「ただ、写真付けただけーーは?これって…」
見覚えのある顔写真に、穢佇の顔はサッと青ざめた。かと思えば、雰囲気が一変し怒りを露わにした顔を黎ヰへと向ける
穢佇
「…何の冗談だよ。遠回しに人質だって脅してるつもりかよ。言っとくけど、子供達を巻き込んだら許さないから」
貼られた顔写真は、すべて施設の人間だった
黎ヰ
「普段から人質とか脅しとか使って考えてるからこその、悲しい発想だな〜。俺はそんな気毛頭ねぇーよ」
黎ヰが指摘した通り、穢佇は不良を黙らせるのに、暴力以外の方法も使っていた。同じ施設の雨野と西川に影上も、脅し文句により従がわせていた
穢佇
「いちいち嫌味な奴。どうだか警察は上辺だけは、取り繕うのが得意だし」
黎ヰ
「それも同感。警察ってのは常にお上からの目と市民からの目が光ってるからなぁ〜、毎日毎日ご機嫌伺いが大変なもんで♪」
ふざけた黎ヰの冗談に反応したのは、取調室を見ていた曳汐で、ご機嫌伺いのごの字も持たないのに、何を言ってるのだろうと心の片隅に疑問を抱く
黎ヰ
「冗談に決まってんだろ」
曳汐 煇羽
(どうでもいい時でも、黎ヰさんの勘は妙に鋭い)
何故か、マジックミラーに向けて放たれた言葉の意味を知らない穢佇は、先程までとは打って変わり、奇怪な行動にすら興味を示す余裕がなかった
黎ヰ
「脱線したな。じゃ、ゲーム再開をどーぞ」
穢佇
「……」
わだかまりを持ちつつも、視線をパソコンの画面へと落とす
よく見てみると、白色には施設の見知った子供達の写真で、黒色には雨野・西川・影上と、施設で働いてる自分の保身しか考えてないクズの先生二名の写真が貼られている
それを見た穢佇は、ピッタリな配役に鼻で笑った
穢佇
(この子達は何の罪も犯してない…一般人。対してこいつらは、罪の塊でしかないようなクズ)
本来なら、帰りの船に乗るのは子供達であるべきだ。でもこれはゲームであり、クリアするには条件が存在する。無意識に子供達を船に乗せようとする手を止める
穢佇
(さっきと同じなら、雨野達と子供達を船に乗せれば沈む…かと言って、島に子供達を残せない…)
未だに、船が沈む条件が分からない穢佇は、子供達を救う為、必死に思考をフル回転させる
黎ヰ
「身近な人物で考えると、また違って見えるだろ」
穢佇
「誰かさんが、悪趣味に子供達を使わないでいてくれたら、簡単に解決出来たけどね」
嫌味の一つでも言わないとやってられず、憎まれ口を叩いた穢佇に、黎ヰはその言葉を待っていたのか、目を細め口元を緩めた
黎ヰ
「ふ〜ん。大切な人間以外はどうなってもいいと?」
穢佇
「説教なら他当たってくれる?誰も犠牲にせず、お手手繋いで仲良くしましょう…なんて所詮は綺麗事じゃんか。生憎、そんな生ぬるい世界で生きてこれなかったもんで」
黎ヰ
「それは失礼。んじゃ、特別に今回だけ船は沈まないよう、設定しといてやるよ」
穢佇
「は?そんなんありなわけ」
黎ヰ
「ありあり」
穢佇
「うっざ」
何の気まぐれか、と言うか…今までもわざとクリア出来ないようにしてたんじゃ、と疑念を抱きつつもチャンスに変わりはないので、穢佇はようやくゲームが終わると、胸を撫で下ろした
穢佇
(船が沈まないなら楽勝じゃん)
素早くカーソルを子供達へ合わせ、一人ずつ船へと乗せる
五人とも乗せた所で、画面には"本当にこれでいいですか?"と初めての表示に、驚きのあまり口に出して答えてしまう
穢佇
「いいに決まってんじゃん」
黎ヰ
「なぁ。一つ聞きたいんだが、お前の大切にする子供達ってのは、自分の身可愛さに他人を見捨てるのか?」
ポツリと放たれた言葉は、まるで取調室中に響き渡ったようだった
穢佇
「なに、言ってんだよ…写真見れば分かんじゃん、皆んな小学校の低中学年だろ、分別つく年じゃないし…」
黎ヰ
「何年後に真実に気付いても、平気な顔して過ごせんのか?ましてや、大事な風十お兄ちゃんが自分達の為に手を汚してるって知ってもか?」
穢佇
「は?ただの…ゲームだろ…」
何かが心に刺さったような、そんな感覚を誤魔化すように穢佇は、パソコン画面を見てカーソルをYESに合わせる
あとは、クリックするだけなのに、押そうとする人差し指がとても重く感じた
穢佇
「……だからっ、ただの、ゲームだって……分かってるのに…」
雨野達は、穢佇からすればクズのような奴らでも、施設の子供達からすれば、同じ環境で育ったかけがえのない家族だ
誰かが怪我をして帰って来ただけでも、泣いて手当てしてくれる優しい子達で、ご飯だって皆んなが揃うまで食べない
子供達が大切な家族だって言うから…だから、雨野達だけは警察に引き渡さずに、駒として使った
穢佇
(雨野達を島に残せば、間違いなく子供達は悲しむ…)
よぎった考えを振り払うように、穢佇は首を左右へと振った
穢佇
「お前が、変な事言うから…ただのゲームなんだから、そんな事いちいち考えなくていいんだって!クソっ!」
一度、考えを整理しようとNoをクリックし、イチからやり直す
だが、島にいる十人の顔写真は今の穢佇を動揺させるには充分だった。誰を船に乗せるべきか…沈まないと分かってるなら簡単な筈…だったのに、穢佇の手は震えたままだった
……
……
そして何も出来ずにいた結果、急にパソコン画面が暗転し【ゲームクリア】の文字が表示された
穢佇
「……」
念願のクリアにも関わらず、穢佇は力無く唸れる
黎ヰ
「で?ゲームクリアの感想は」
黎ヰの言葉に、ようやく穢佇はこのゲームをさせた目的を理解した
今にして思えば、ゲームの内容事態が悪趣味極まりなかった【島には十人の人間が居ます。五人は罪人、五人は一般人。その中の五人だけ帰りの船へ乗せる事が出来ます。全ての決定権は貴方にあります。どうしますか?】
何処にも、絶対に五人だけを乗せろなんて書いてない…それはつまり、乗せないと言う選択肢が存在するからで、ゲーム内での罪人や一般人が正しく明記されず、あえて色分けだけにしていたのは、その必要がないって事だ
そろそも、クリア条件すら書いてなかった。これらをつなげて考えれば、答えは簡単だ
そう…つまりは…
穢佇
「…最初っから、俺様に権利なんて無いって事だろ」
やっと出てきた声音は、自分でも驚くくらい小さく震えていた
黎ヰ
「正解。問題文のように、人は当たり前に与えられた権利を疑う事なく使う。そこにある人の気持ちを無視してなぁ〜。だが、一人身近な人物を置けば感情に左右され、判断が鈍る…つまりは、そんな曖昧な判断基準で人をどうこうする権利なんて誰にも無い。故に身勝手な正義論ってやつだ」
重いその言葉は、やはり自分が今までしてきた事に向けて言われているのだと、穢佇は瞬時に悟ったのだった




