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異常調査部〜院内発砲事件〜【2】  作者: 月ノ羽ルナ


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13/24

見ていた者

杉野千(すぎのせ)は、冬葵(ふゆき)について生徒達から話を聞くと、約束してくれた


それと同時に、闇雲に聞き回ったりは出来ないとも言った。三年一組の生徒とは数人顔見知りなので、機会が出来れば聞く程度で、収穫は見込めないし、時間も掛かってしまう…


そう説明して紾(めぐる)達を見送ったが、杉野千(すぎのせ)は、薄々だが生徒達が冬葵(ふゆき)について、何か知っていると確信していた



それが必ず事件に関わっているかまでは分からないが、教師が知らない面は必ずあるだろう


本来なら、生徒達の不安を煽ったりしたくないし、危ない事から護るのが教師の務めの一貫だと思っていたが、紾(めぐる)の話を聞いて、自分が護るべき生徒の中には、冬葵(ふゆき)も居るのだと気づいた


だからこそ、学校側と相反する行動と分かっていながらも、協力すると決めたのだった

そんな杉野千(すぎのせ)を見て、紾(めぐる)は改めて6年前の彼女ではないのだと思った


協力してもらう事により、変な事に巻き込んでしまうかもしれないと躊躇ったが、杉野千(すぎのせ)はちゃんと自分の意志と、協力する意味を持っていた


そこに彼女の気持ちがあるのだと知ると、紾(めぐる)が杉野千(すぎのせ)の協力を拒む事は出来なかった


皐月(さつき) 周(しゅう)

「杉野千先生の協力を得られましたが、現状は手詰まり状態です」


校門に向かって歩く、皐月(さつき)の表情は暗かった


そうなるのも無理はない。冬葵(ふゆき)の交通事故については、新たな可能性が見つかりはしたが、だからと言って父親の隅田(すみだ)が、穢佇(えだち)と手を組んでいる理由と結びつけるのは難しい


皐月(さつき) 周(しゅう)

「隅田さんの娘さんについて知るには、事故当時について知っている方に、話を聞いた方がいいかもしれません……奥さんの事を考えると、避けたかったのですが…」


隅田(すみだ)の奥さんは、とても繊細で気弱な人なのを、皐月(さつき)は知っていた。だから、できれば事故当時の事を思い出させたくはなかった


それに、夫である隅田(すみだ)が悪に手を染めているかもしれない今、どんな顔をして話せばいいのか分からない


皐月(さつき) 周(しゅう)

「他に、お話を聞ける方がいれば良いんですけど…」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「事故当時の関係者か」


他に思い当たる人物がいないかと、二人が頭を悩ませながら、校門をくぐると死角から人影が飛び出てくる


蜂笑(はちえ)

「やっと出て来た!杏果っちの先輩さん」


突然の事に驚いた二人は、一瞬思考を停止させたが、目の前に現れたのが先程、職員室の前で何かしていた子だと気がつくのに、そう時間は掛からなかった


二人とも遠目だったが、蜂笑(はちえ)は長身で明るい赤髪なので、印象に残るには十分な見た目だろう


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「杏果っちって…まさか杉野千の事か?えぇーと、君は学生じゃ、授業は…」


どう反応して良いか分からず、困る紾(めぐる)を見て蜂笑(はちえ)は笑った


蜂笑(はちえ)

「あはは、マジメ〜。俺早退したからその辺は、大丈夫大丈夫〜」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「そ、そうか?」


若干、彼から感じ取れる若者感に気圧されてしまう


蜂笑(はちえ)

「それよか、杏果っちの先輩さんって警察なんじゃん?」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「なん…じゃん…?」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「多分、彼は蔡茌さんに"警察ですか"と、聞いてるんじゃないでしょうか」


隣で皐月(さつき)がフォローを入れ、紾(めぐる)はようやく蜂笑(はちえ)が、自分に質問しているのだと理解できた


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「確かに警察だけど、どうかしたのかい?」


蜂笑(はちえ)

「やっぱしか!待った甲斐があった」


無邪気に笑う蜂笑(はちえ)に対し、紾(めぐる)と皐月(さつき)は驚きながらも顔を見合わせた


この状況で警察に会いに来た理由…もしかすると、事件に関わる事かも知れない


蜂笑(はちえ)

「俺さ、三年一組の蜂笑。昨日捕まった穢佇達と同級生なの、どーしても言いたい事があってさ、散歩がてら聞いてくんない」


皐月(さつき)&蔡茌(さいし)

「?!」


予想が的中し、二人は目を見開いた


蜂笑(はちえ)

「ぷっ、あはは驚き過ぎじゃん」

 

どうして、蜂笑(はちえ)が笑っているかは分からなかったが、彼の登場のお陰で風向きが変わった様な気がした


蜂笑(はちえ)

「俺さ、案内したい場所があんだよね。歩きながら、昔話聞いてよ」


マイペースな蜂笑(はちえ)だったが、真剣めいた表情と雰囲気から、悪ふざけではないと思った


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「皐月君、付いて行ってみよう」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「はい」


こうして、ゆっくりな歩幅で歩く蜂笑(はちえ)に二人は付いていく事に…

彼が口を開いたのは、学校から少し離れてからだった


蜂笑(はちえ)

「でさ、なんで穢佇とか捕まったの?もしかして、冬葵っちと関係あったり?」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「それを、いま調査している所なんだ。詳しくは言えないけれど、何か知っているなら教えてくれないかな」


こっちから、質問したい事はあったが、皐月(さつき)は彼が最初に言った"話したい事"が引っかかっていた


学校を早退し、待ち伏せをしてまで彼が"話したい事"とは何か…それを聞いてからでも、質問はできるだろう


蜂笑(はちえ)

「あちゃー、やっぱし事件について教えてくんないか…興味あったんだけどな」


少し残念そうにした後、蜂笑(はちえ)は頭の後ろで腕を組んだ


蜂笑(はちえ)

「まぁ、いいか。どっちの話もしたかったし」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「ど(・)っ(・)ち(・)の(・)と、言うのは?」


蜂笑(はちえ)

「冬葵っちと穢佇。なんとなく話しといた方がいいって、思ってさ」


まさに、知りたい二人の名前が出てきて皐月(さつき)は、目を見開いた。そんな反応に気づかない蜂笑(はちえ)は、そのまま喋り出す


蜂笑(はちえ)

「冬葵っちの交通事故があった次の日さ、クラスの全員がスッゲー驚いたし悲しんでた」


昨日まで、仲良く喋っていた同級生が次の日に植物状態となり、会えなくなってしまった。クラス中は大騒ぎで、誰とでも優しく接してた冬葵(ふゆき)の事故を、当然のように悲しんだ


蜂笑(はちえ)

「本当はさ、クラスの誰もが冬葵っちの交通事故について協力できるなら、したいって思ってる。でも…」


捜査一課長…つまり、冬葵(ふゆき)の父である隅田(すみだ)が交通事故の後、学校へと乗り込み生徒達に無理な調査をしようとした


学校側はなんとか止めたが、生徒達は隅田(すみだ)の剣幕に気圧されてしまい、誰もが怖くなり口を閉ざしてしまった


もちろん、その話を聞いた保護者からも学校側へ苦情が入り、結局生徒達はそういった大人の事情により、事件に関わる事を禁止されてしまったのだ


蜂笑(はちえ)

「特に同じクラスの俺たちは、絶対ぜーたい何も言うなって、釘刺されてさー。まっ、大人に言われて傍観者決め込んだこっちも、こっちなんだけどさ」


それくらいで黙ってしまったのなら、きっと自分達の中ではそ(・)の(・)程(・)度(・)の事だったのかもしれないと、話しながら蜂笑(はちえ)は思った


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「色んな事が重なってしまっただけだ。事件に巻き込みたくないと言う、大人達の判断は当たり前だし、君達が不安や恐怖で口を閉ざしてしまうのも、むりはないし何も悪い事じゃないよ」


なんとなく、蜂笑(はちえ)が自分を責めているような気がした紾(めぐる)は、思わず言葉を掛けた


蜂笑(はちえ)

「杏果っちの先輩さん、優しすぎじゃん。多分だけど冬葵っちも似たような事言ってくれる気がする」


冬葵(ふゆき)は、父親の肩書きなど関係なく誰にでも手を差し伸べる子だった


蜂笑(はちえ)

「テレビ見てさ、冬葵っちが不良と車に乗ってたって知った時、相手は分かんねーけど状況自体は、まったく不自然って思んなかったんだよね」


むしろ、自然だとすら思ってしまった。それは隅田(すみだ)冬葵(ふゆき)をよく知る人物なら、全員同じ事を思っただろう


皐月(さつき) 周(しゅう)

「それは…どうして?」


蜂笑(はちえ)

「だって、冬葵っち不良とか気にしないしさ、実際うちの学校に居る影上とも、めっちゃ仲良いし」


世間から見た隅田(すみだ)冬葵(ふゆき)は、真面目で優等生…そんな子が深夜に元とは言え、不良と扱われる男と車に乗っているなんて、まさにあり得ない事だ


それだけで世間は、非があるのは彼女ではなく、同乗していた男の方だと思うだろう


対して、冬葵(ふゆき)と共に学校生活を送っている者達からしたら、彼女ならあり得る事だと受け入れてしまえる。その理由は彼女をよく知っているからだ


蜂笑(はちえ)の話を聞いて、紾(めぐる)と皐月(さつき)は、やはり冬葵(ふゆき)自身、車に乗る理由があった可能性が高いと思った


蜂笑(はちえ)

「とは言ってもさ、穢佇だけはブレなかったんだけど」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「風十君が?もしかして、冬葵さんとトラブルがあったのかい」


急に穢佇(えだち)の名前が出てきた事で、皐月(さつき)は不安を覚えた。だが、蜂笑(はちえ)はそれとは対照的に笑った


蜂笑(はちえ)

「あはは、違う違う。トラブルとかじゃないって!なんつーかさ冬葵っちと穢佇って、似て非なる存在…的な?誰にでも優しい冬葵っちに対して、穢佇は誰にでもツンケンな態度って感じ。でも、どっちも大人は信用してなくて、そう言う所は一緒なんじゃん?」


"大人は信用してない"蜂笑(はちえ)から放たれたその言葉に、取り調べの時に接した穢佇(えだち)の冷たい表情が二人の頭に浮かんだ


蜂笑(はちえ)

「冬葵っちは、父ちゃんの肩書きがスッゲー窮屈だってボヤいてた。家でも学校でも不良とは付き合うなって、何度も言われたって」


皐月(さつき) 周(しゅう)

(だとすると、あの日…不良と車に乗っていたのは、隅田さんに対する反発から)


あえて駄目だと言われる事を、していたのかもしれない。それはいわゆる思春期にはよくある事だった


数々の少年犯罪と向き合ってきた皐月(さつき)は、ふとそんな風に考えた


蜂笑(はちえ)

「冬葵っちは、その人をちゃんと見てた。キッカケは多分…反抗心からだったかもだけど、自分の判断で不良達と真っ直ぐに接してた。でも、それは娘を大事にする親からすれば、スッゲー怖い事だったのかも…」


隅田(すみだ)が、学校に乗り込んで来た時の事を思い出し、あの時の彼の目は捜査一課長と言うよりも、事故に巻き込まれた娘を心配する、父親の目に蜂笑(はちえ)は思えた


皐月(さつき) 周(しゅう)

「人を見るのに、不良とか育ちなんかは、関係ない筈なのに」


勝手な大人達の振り分けのせいで、冬葵(ふゆき)や穢佇(えだち)は心を閉ざしてしまったのだと、改めて二人は思った


かと言って、子を思う親の気持ちが理解出来ない訳でもなく、視点が違うだけでこうも見方が変わってしまうのかと、皐月(さつき)も紾(めぐる)も居た堪れない気持ちになった


蜂笑(はちえ)

「俺さ思うんだよねー。さっき、杏果っちの先輩さんが言ってたようにさ、どっちも悪くないんじゃん。冬葵っちも冬葵っちの父ちゃんも、自分の大事なモンを守りたかった…冬葵っちは自分の信じた人を、父ちゃんは冬葵っちを…なんで、すれ違っちまうんだろうなー」


真っ直ぐに放たれた蜂笑(はちえ)の疑問に、二人はどう答えればいいのか迷い、言葉を詰まらせた後、先に沈黙を破ったのは紾(めぐる)だった


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「…きっと、分かり合える筈だ。今はすれ違っていても親子なんだから」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「隅田さんは、そう言う人です。娘さんが目を覚ましてくれれば…きっと、そうなります」


二人から掛けられた言葉は、まるで二人自身に言い聞かせているように蜂笑(はちえ)は思えた。だが、そこを突っ込むのも違う気がして、悩んだ末に結局は、曖昧に頷いたのだった


蜂笑(はちえ)

「…そっか」


風がそっと三人の髪をゆらした時、賑やかな子供達の声が聞こえてきた


紾(めぐる)が声のする方を見ると、草で作られた塀の隙間から、子供達が走り回ったり、砂遊びをしているのが見えた


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「ここは?」


蜂笑(はちえ)

「俺が案内したかった場所!」


そう言いながら、蜂笑(はちえ)は両手を広げ笑った。その真上には、ちょうどアーチ状に作られた看板があり"児童施設おひさま"と書かれていた


皐月(さつき) 周(しゅう)

「児童施設…まさか、風十君達の!」


いち早く察した、皐月(さつき)が声を上げる


蜂笑(はちえ)

「そっ!二人とも話分かる感じだし、直接見てもらおうって思ってさ」


ニッカリと笑い、蜂笑(はちえ)は軽い足取りで施設の中へと入って行った


ー


ーー


ーーー


「あっ、ハチお兄ちゃんだぁ!」


施設の中に入るなり、砂場で遊んでいた女の子が走りながら、蜂笑(はちえ)に飛びつく


蜂笑(はちえ)

「おっ、元気そーで良かった。今日は何してんの?」


「えへへーせんせいがね、遊んでいいって、だからーおしろ作ってたの」


蜂笑(はちえ)

「そっかそっか」


小さな女の子と話す蜂笑(はちえ)を見て、彼は何度もここへ足を運んでいるようだった


蜂笑(はちえ)

「俺の母ちゃんの前の勤め先、つっても一回潰れてっけどね」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「立て直されてるのかい?」


蜂笑(はちえ)

「母ちゃん曰くちょーブラックでさ、市の調査で経営困難ってなったらしいよ。母ちゃんはその前にすぐ辞めてたけどね。俺もよく母ちゃんの仕事が終わんの待っててさ、立て直された後もたまに寄ってんの」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「それなら、風十君達とも仲が良かったんだね」


児童施設に居る穢佇(えだち)達とも、学校内以上に付き合いがあるのだろうか…そう思った皐月(さつき)だったが、蜂笑(はちえ)は首を横に振る


蜂笑(はちえ)

「そーでもないかも、俺が来てるのも知らないっぽいし」


言いながら蜂笑(はちえ)は、施設の奥へと入っていく


皐月(さつき) 周(しゅう)

「職員の方に、風十君達の事を聞けるかもしれませんね」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「もし、隅田さんと関わりがあるなら目撃情報もあるかもしれない」


てっきり、職員の居る場所へと案内されるかと思っていた二人は、そんな話をする


だが、蜂笑(はちえ)が足を止めた場所は、施設の車がある小さな駐車場だった。唯一、施設内でコンクリートがあるその場所で、蜂笑(はちえ)はしゃがんだ


皐月(さつき) 周(しゅう)

「えっと、ここは…」


蜂笑(はちえ)

「いーからいーから、ほらっ!この落書き見て見て」


蜂笑(はちえ)が指を指した方…地面を見ると、子供達の落書きが沢山書いてあった


最初は、どうしてこれを見せたいのか理解出来なかった二人だったが、よく見てみると見知った文字を発見する


皐月(さつき) 周(しゅう)

「これは…かざ、と…くんの…」


よくある子供の落書きだったが、マントをつけた穢佇(えだち)らしき人物の横に、でかでかと"かざとお兄ちゃんヒーロー"と文字が書かれていた


その絵をじっくり見てみると、ヒーロー風十の前には敵が倒れている。他の場所を見てみると、同じくヒーロー風十がお姫様を助けていたり、敵を倒していたりと色んな場面が描かれていた


それだけで充分、穢佇(えだち)風十(かざと)が施設の子達に慕われているのが分かった


蜂笑(はちえ)

「この絵の中のヒーロー風十ってさ、めっちゃ笑ってんじゃん」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「確かに、すごく笑顔だ」


蜂笑(はちえ)

「一回だけだけど、俺も見たことあんだよね。もう想像できねーってくらい、穏やに笑ってる穢佇をさ…あん時はマジで、誰か分かんなかった」


大袈裟に言う蜂笑(はちえ)だったが、確かに取り調べをした段階では、こんなに笑う穢佇(えだち)を想像していなかった。どちらかと言うと、嘲笑う様なイメージが強い


紾(めぐる)も皐月(さつき)も頭の中で必死に笑う穢佇(えだち)を想像してみたが、やはり上手くはいかなかった


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「施設では、こうなのか…?」


数刻前、杉野千(すぎのせ)が生徒達は学校と家とでは見せる顔が違う。と話していたのを思い出す


蜂笑(はちえ)

「つーよりは、子供の前だとすっげぇお兄ちゃんしてんの。そん時さ…俺、思ったんだよね」


不意に蜂笑(はちえ)は、真剣な声音で続けた


蜂笑(はちえ)

「穢佇の幸せは子供達の側なんだって。学校でも浮いてっし、大人も信用してなくて、友達も作らない…そんな穢佇の守りたい大切な人が、子供達なんだ!って思ったんだ」


そこから蜂笑(はちえ)は、少しだけ語り出した


お互いに小学校にも通っていない頃、小さなボロアパートで穢佇(えだち)と蜂笑(はちえ)は、家が隣りどおしだったのだと


穢佇(えだち)の両親が特(・)殊(・)だった事もあり、付き合い自体はなかったが、後から蜂笑(はちえ)は母親から、穢佇(えだち)は幼稚園や保育園にも通わせていなかったと聞いた


蜂笑(はちえ)が、よく一人で家にいる時、隣の部屋からドカドカと物音が聞こえたり、奇声が聞こえたりしていた


小さい時の彼は、それが何なのか分からず、楽しそうにしているなっと、今にして思えば全く見当違いの事を思っていた


そんなある日、母親と出掛け先から帰った時…アパートの前に人だかりが出来ており、その中心には手に何かを持っていた、小さい穢佇(えだち)が佇んでいた。大人達はその手にある物を見て取ると、直ぐに警察を呼んだ


駆けつけた警察はそのまま、穢佇(えだち)の両親を覚醒剤所持と使用で逮捕したのだと、理解したのは蜂笑(はちえ)が、何年後かに母親と会話をしていた時だった


それから、クラスが一緒になり、なんとなく穢佇(えだち)の事を気にかけていたが、その頃かは既に彼は誰も信じず、常に一人で過ごしていた


蜂笑(はちえ)

「最初は、友達になろうかなーとか思ってたんだけどさ…」


施設の子供達と接する穢佇(えだち)を見ると、何となく蜂笑(はちえ)は、その必要はないように感じたのだった


皐月(さつき) 周(しゅう)

「昔から彼を知っていた…だから風十君を、気にかけてくれたんだね」


蜂笑(はちえ)

「俺の存在なんて、きっと穢佇は知らないんだろうけどさ……そー言えば、穢佇を名前呼びしてる人、初めてかも」


興味ありげな視線を向けられた、皐月(さつき)は苦笑いを返す


皐月(さつき) 周(しゅう)

「本人からは拒否されたけどね」


蜂笑(はちえ)

「しそー。でも、名前で呼んでくれてんだ、いつか響くかもね」


決して嫌味などではなく、今の穢佇(えだち)の心を揺らすものは、施設の子達しか居ないのだと、蜂笑(はちえ)は思っていた


皐月(さつき) 周(しゅう)

「だと良いんだけど」


蜂笑(はちえ)

「……やっぱし、これも言っとこーかな」


黙っているつもりだった蜂笑(はちえ)だったが、二人なら穢佇(えだち)を変えてくれるかもと思った


自分では出来なかった事を、もしかすると目の前の二人なら出来るかもしれない。だからこそ、蜂笑(はちえ)は意を決して口を開いた


蜂笑(はちえ)

「俺さ、小さい頃から身体弱くて…」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「大丈夫かい?どこか座れる場所を探そうか」


突然そんな風に話を切り出され、勘違いした紾(めぐる)が慌てて声を掛けるが、対照的に蜂笑(はちえ)は笑う


蜂笑(はちえ)

「あはは、大丈夫大丈夫。何回か手術して、今はだいぶマシになってるから、マジメ過ぎじゃん?あっ、これは嫌味とかじゃないから」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「そ、そうか…」


蜂笑(はちえ)

「高一の時、入退院繰り返したせいもあって留年してさ、そしたら噂が広まって、色んな奴から絡まれて、馬鹿にされてたんだよね。何かある度に、身体の事いじられて、過剰に心配されたりもした」


クラスで"心配する"生徒に、教師は何も言わないし、むしろ褒めた。でも、実際は蜂笑(はちえ)が、言われたくない事や気にして欲しくない事を、生徒たちは分かっていて面白おかしく、からかっていた


蜂笑(はちえ)

「まっ、いわゆる虐めってやつじゃん?」


自分の事なのに、どこか他人事のように話す蜂笑(はちえ)に、二人はどう言っていいものか困った


蜂笑(はちえ)

「俺ん家さ、父ちゃん居ねーから母ちゃんが、入院費の為に毎日必死に働いてくれてっから、虐められてますーなんて言えなかったし、その頃は友達とかも居ないつーか、巻き込みたくないから、むしろ一人で居るようにしてたかなー」


虐められているのに、それを隠し平気なフリを続けて、誰にも頼れない…そんな事、大人でも辛いだろう


蜂笑(はちえ)の、年齢の割にはどこか達観している感じは、きっとこういった出来事を体験したからかもしれない


皐月(さつき) 周(しゅう)

「そんなに辛い事が……」


少年課として、皐月(さつき)は助けを求めている子供達を、自分は救えていないのだと、改めて思い知る


蜂笑(はちえ)

「どうして良いか分かんなくてさー、本当に虐めなのかな?とか思ったりもしたけど、体の事言われんのは、やっぱ嫌だったし辛かった。そんな時さ…噂で不良をシメてる奴が居るって聞いてさ……その時ぐらいからかな、ピタリと虐めがなくなったんだ」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「それって、まさか」


蜂笑(はちえ)

「そっ、穢佇グループ!グループって言って良いかは分んねーけど、穢佇と西川と雨野と影上の4人だった。虐めとかしてる奴を片っ端から、やっつけて黙らせてた」


まるで見た事があるかのような言い方に、紾(めぐる)と皐月(さつき)は引っかかりを覚えた。それが表情から伝わったのか、蜂笑(はちえ)は聞くよりも早く言葉にする


蜂笑(はちえ)

「何度か目撃した奴らも居るし、俺も実際見た事あんだよね。流石にドラマとかアニメで観るような、フルボッコって感じじゃなかったけど…あいつらは二、三発殴って言葉で脅してた」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「…それは、風十君以外の子が力で押さえ込み、脅していたのは風十君だったんじゃないかな」


蜂笑(はちえ)

「当たり!すげぇ、この話だけでそこまで分かんだ」


関心する蜂笑(はちえ)に対し、皐月(さつき)と紾(めぐる)はそのやり方に納得していた


穢佇(えだち)の見た目は、明らかに体育会系ではないし、体にも喧嘩などの怪我の跡は見当たらなかった。それに、取り調べ中の態度からしても、穢佇(えだち)らしいやり方と言えば、頷けてしまう


蜂笑(はちえ)

「でもさ、俺も含めて止めようとする奴は居なかった。なんつーか、直接関わりなければむしろ助かってたし、影では悪を裁くヒーローだって思ったんだ」


言いながら、蜂笑(はちえ)はコンクリートに落書きされている"かざとお兄ちゃんヒーロー"を見た


実際に虐められていた蜂笑(はちえ)からすれば、穢佇(えだち)達のお陰で助かったのは事実で、その気持ちが分かった二人は、安易に彼を責めるような事は言えなかった


だとしても、どんな理由であれ穢佇(えだち)達のしている事は、暴力で解決している事に変わりはない


だが、蜂笑(はちえ)のように救われたと思う子もたくさん居て、そういった存在が余計に穢佇(えだち)達を、奮い立たせてしまったのかもしれない


蜂笑(はちえ)

「でもさ、なーんか最近…それこそ冬葵っちの事件があってから、雰囲気が変わった気がすんだよねー」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「一課長の娘さんの事件…つまり、二ヶ月前からかい」


蜂笑(はちえ)

「んーと、確かに日付で言っちゃえば、そのぐらいからかも?」


感覚でしか分からない蜂笑(はちえ)は、どう説明しようかと悩んだ


蜂笑(はちえ)

「上手く言えないつーかさ、なんか…怖いって言うか、歪みに輪がかかった…みたいな?」


結局、曖昧な返答しかできなかった蜂笑(はちえ)。二人はそこまで話を聞くと、少し離れた場所で話をまとめる事に…


蜂笑(はちえ)は先程の女の子と、仲良く砂遊びをしている。次々と彼の周りには子供達が集まり、楽しそうな笑い声が響いていた


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「娘さんの交通事故に不良が絡んでいた。それが理由で隅田一課長は、少年犯罪にこだわり逮捕していった…娘さんを植物状態にした不良と、世の中の不良を重ね合わせたんだろう」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「そして、風十君も不良…と括っていいのかは分かりませんが、そう言った人間によって、人生を狂わされています。隅田さんとはそう言った理由で、繋がったんでしょう」


茂望が言っていた、協力者はおそらく穢佇(えだち)達だろう


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「…穢佇君は、きっと施設の子を守りたかったのかもしれない」


それは、不良と言うよりは自分が今までに受けた、世の中の理不尽からだろう。だから、その根を根絶しようとした


皐月(さつき) 周(しゅう)

「風十君は、優しい子です。だからこそ暴力で解決して欲しくなかった…どうして、周りの大人は彼を助けなかったんでしょう」


もし、誰かが穢佇(えだち)に寄り添えていたら、また違ったのかもしれない


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「……」


皐月(さつき)の悔しげな言葉に紾(めぐる)は、6年前の出来事を思い出してしまう


あの時も、周りの誰かが彼らに寄り添えていれば、きっと何かが変わっていたのかもしれなかった


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

(それは、俺にも言える事だ)


今考えても仕方ないと思いながらも、そんな後悔のような懺悔のような気持ちが、紾(めぐる)の心に重くのしかかった


皐月(さつき) 周(しゅう)

「蔡茌さん。もう一度、風十君と話してみましょう」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「あぁ。そうだな」


その場を動いた二人に、子供達と遊んでいた蜂笑(はちえ)は、慌てて走り寄った


蜂笑(はちえ)

「もう、いくの?」


急に走ったせいで、顔色が真っ青になっていく


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「大丈夫か、直ぐに木陰に入ろう」


すぐさま紾(めぐる)が、ふらふらな蜂笑(はちえ)を支えて、彼を木で影ができていた場所へと連れて行く


ちょうど、窓が開いている施設の壁へと、蜂笑(はちえ)はもたれかかった。窓のさんへ肘をのせ、楽な体制をとる


蜂笑(はちえ)

「あはは、ごめんごめん」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「水はいるかい?薬とかは?」


心配する、紾(めぐる)に蜂笑(はちえ)は力無く笑う


蜂笑(はちえ)

「大丈夫大丈夫。最悪、ここで休ませてもらうからさ」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「親子さんに電話をしようか」


蜂笑(はちえ)

「流石に、警察からじゃ…母ちゃん心臓発作起こすって、もし必要でも施設から掛けてもらうって」


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「そ、そうか」


蜂笑(はちえ)の言ってる事も、もっともで施設の人とも知らない仲ではないのなら、判断はそっちに任せたほうがいいと紾(めぐる)は頷いた


蜂笑(はちえ)

「そういや冬葵っちも、先輩さんみたく毎日身体の心配してくれてた、入院した時はお見舞いに来てくれたし……あっ、そー言えば…」


何かを思い出した蜂笑(はちえ)は、どうして今まで忘れてたのかと、一瞬時が止まったような感覚に陥った


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「どうしたんだい?」


蜂笑(はちえ)

「俺、事故の少し前…冬葵っちが揉めてるの見たかも。あの時は、検査の日だったんだけど、その帰りに冬葵っちが看護師のねーちゃんと喧嘩してたの見た…」


ガタン


蔡茌(さいし) 紾(めぐる)

「?!」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「誰か居るんですか」


急に開いた窓から、物音がして皐月(さつき)が呼びかけるが返答はなく、きっと施設の中で何かが倒れたのだろうと決めつけた


蜂笑(はちえ)

「冬葵っちに聞いても答えてくんなかったから、気にしてなかったんだけど…多分、なんか取ってた気がする、薬…かな?」


皐月(さつき) 周(しゅう)

「薬?」


蜂笑(はちえ)

「あんまし見ちゃ駄目って思ったから、わっかんない…ごめん。俺の勘…かも…」


蜂笑(はちえ)は、自信なさげに言った。体調がすぐれないのか、だんだんと吐く息が重くなって行く


心配した二人は、このままにしておけず、彼を施設の人に託す事にした。蜂笑(はちえ)は施設の職員とも顔見知りだったようで、職員は彼を見るなり直ぐに状況を理解してくれた



ーーー ーーー ーーー



次に蜂笑(はちえ)が目を覚ましたのは、施設の慣用ベッドの上だった。紾(めぐる)達の姿はなく、彼は自分が数分だけ気を失っていたのだと気づいた


横になりながら、自分の体が落ち着くのを待った。心の中で少しはしゃぎすぎたと、反省する


蜂笑(はちえ)

(車椅子か杖、使えば良かった)


こんなにも長く話したのは久々で、同時に長距離を足だけで移動したのも久々だった。それでも、蜂笑(はちえ)は後悔していなかった


蜂笑(はちえ)

(俺は…傍観してただけだったし、未だに穢佇達が捕まった理由もしんねーし、冬葵っちの件だって何も言えなかった)


同じ学校に通い、同じクラスになった。それは病弱で留年した蜂笑(はちえ)からすると、特別な事に違いなく、今になって常に傍観者でいた自分を責めた


蜂笑(はちえ)

(ほんと、流されてばっか…また会いたいな…)


彼の頭の中で順番に、冬葵(ふゆき)や影上(かげうえ)…雨野(あめの)と西川(さいかわ)の顔が浮かぶ。もちろん、穢佇(えだち)の顔も浮かんだ


蜂笑(はちえ)

(……誰か穢佇に気づかせてやってくんねーかな)


穢佇(えだち)の中には、絶対的な善悪がある。だからこそ悪と決めた相手には、とことん非情でいられる…それは自分の行いに正義があると思っているからだ


蜂笑(はちえ)

「あの二人じゃ、無理っぽいよな」


今の穢佇(えだち)に必要なのは、肯定や否定じゃない。もちろん寄り添う事でもないのを蜂笑(はちえ)は、なんとなく分かっていた。何もそれは穢佇(えだち)に限った事じゃない


蜂笑(はちえ)

(思春期(おれたち)は、好きな人に否定されるのを嫌う、嫌いな人に肯定されるのを嫌う。やりたくない事はハッキリしてるのに、したい事はあやふやなガキだ)


つまりは、人を導く教師や警察の言葉は、今の穢佇(えだち)には響かない


蜂笑(はちえ)

「それこそ、常識に捉われない人じゃないと…」


逮捕された今だと、そんな奴に出会える確率はかなり少ないかもしれない。だって今から穢佇(えだち)が会う人は、自分の正義しか持たない、大人達だからだ


だんだんと眠くなって来た蜂笑(はちえ)は、薄れゆく記憶の中で思った。もし、今の穢佇(えだち)と対等に話せる奴がいるのだとすれば、それはきっと…


蜂笑(はちえ)

(異常な奴しかいなさそー)

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