「撃つな!!」
序章
男は拳銃を蹴り上げられる前に、引き金を引いた
ドゥン
暗闇の中、銃声だけが響き渡る
蹴り上げる直前、銃口が天井を向いていた事を確認していた黎ヰは、発砲された事よりも早く男を捉えようとするも、男は空中で拳銃を掴み取り、銃口を真下に居る黎ヰへと向ける
男
「ぐっ、」
だが、先程蹴られた手に激痛が走り、とてもじゃないが二発目は撃てそうにない。おそらく指が何本か折れているのだろう…
冷静に相手の状況を読んだ黎ヰは、すぐさま大勢を立て直した
蔡茌 紾
「黎ヰっ?!」
暗闇の中、紾が唯一分かるのは黎ヰに向けられた銃口が光っている…それだけだった
黎ヰ
(まずい!)
紾は声からも分かるくらい焦っていた。相手が引き金を引けない事を知らないのなら、この反応は当然だろう
だが、悠長に説明している暇はない…今できる最善の策は男を捉える事だと黎ヰは判断するーーその数秒の間だった
せめてもの抵抗か、または抑止力の為か男は黎ヰの額に銃口を当てた
ガチャンと額にまだ生暖かい鉄の感触がする
黎ヰ
「撃つな!!」
咄嗟に叫んだ言葉は、男ではなく紾へと向けたものだったが、皮肉な事にそれが合図となり
ドゥン
もう一発の銃声が鳴った
それは間違いなく、紾の手に握られていた拳銃から放たれた音だった