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「本当に申し訳ありません」


「いくら結婚が決まっているからといえ、婚前の娘を無理矢理自分のものにするなど、非道です!」


「返す言葉もありません」


「父上、考え直すべきです!ドロシーがカーティスを避けていたのも、仕方のない事だったのです!」


「申し訳ありません。しかし、腹の子がいます。どうか責任を取らせてください」


「腹の子なら我々で育てればいいのです。こんな男に可愛いドロシーと子を預けるなどとっ」


「大切に致します。本当にこれからは大切に致します。どうか私からドロシーを取り上げないでください」


「どの口が言うか!」


「貴方、止めてください!身籠って気を失っている娘の前でする話しではありません」


「どうか……どうか、ドロシーと添わせてください」
















ドロシーは結局それから丁度七日後に流産してしまった。

それと共にウルズとの記憶を失ってしまっていた。

カーティスの必死の説得に、父と兄達は折れた。


心身共に限界を迎えていたドロシーは、籍だけを入れ、カーティスの屋敷に迎えられた。

当初、カーティスの屋敷には世話役の女中や下男も居たが、ドロシーがカーティス以外を酷く怯えるような仕草をした為、いとまを出した。

カーティスは甲斐甲斐しくドロシーの世話を焼き、一年が過ぎた頃にはドロシーも自我を取り戻すまでに回復したのだった。





「ウルズを、殺してしまったの?」


熱い湯に浸かっている筈なのに、凍える程身体の内側が寒かった。


「ああ」


カーティスは短く答えた。


「貴方、なんの咎めも無かったの?」


ドロシーは声が震える。


「樽に入れて石膏で固めた。貿易で海を渡る際に、沈めてしまった。勿論、腹心の部下以外人払いをしたから問題は無かった。身寄りの無い男だったから楽団の長に金を握らせて始末を付けた」


カーティスが、無機質な暗い眸でぼんやりとドロシーの頰を撫でる。

余りの冷たさに、ドロシーはカーティスに縋り付いた。


「ああ、なんて事を……」


「ドロシー、すまない」


「貴方の快活さを、陽の光のように暖かな貴方を奪ってしまったのは私だったのね」


ドロシーはカーティスの手のひらに顔を埋めた。


「ドロシーに奪われるなら構わない」


カーティスは、暗い眸のまま、ドロシーの頭を抱き締めた。


「すまない、君の愛する男を奪ってしまった。君を総て手に入れなければ気が済まなかった」


「貴方のものよ、もう総て。残らず貴方のものだわ」


ドロシーは総てを思い出し、カーティスに総てを差し出した。






★★★







ドロシーとカーティスは、一つの罪を共有する。

二人は仲睦まじい夫婦ではあったが、流産の影響か、二度と子に恵まれる事は無かった。

後にドロシーの二番目の兄から養子を迎える事になる。

養子は、ヴェルダと名付けられ、赤子の内に二人に引き取られた。

ヴェルダは後に語る。

———養父と養母は仲睦まじい夫婦であった。

しかし、養父の養母に対する愛情の示し方は、偏愛的であった。

ドロシーを愛する余りに、人をも殺しかねないぐらいだ。


冗談混じりに一度そのような旨の発言をカーティスにヴェルダがした事があるそうだ。


すると、カーティスは暗い双眸を細め、端正な口端を持ち上げた。


「それくらい、たわいも無い」


ヴェルダは戦慄した。


カーティスのドロシーに対する底知れない愛情は、この上も無く深い、底なし沼のようであったからだ。










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