イベント四日目 朝
一年四ヵ月くらいぶりですね
そろそろ日が昇るか?そう思って空を見上げようとした時、鼻先に何かが当たった。触ってみればそれは水のようで、見上げれば木々の隙間から黒い雲が空に広がっているのがうっすら見えた。つまりは、
「雨か…」
ポッポッポッ、ポツポツポツポツ、ザー……。
結構強いな…。今日いっぱい降り続けるかな?そうなると今日の捜索はめんど、難航しそうだな…。
…、濡れないように鎧の形状変えておくか。この際外套みたくしておくのもいいな。…こんな感じでいいか。
さて、もう少ししたらみんなも起き始めるかな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
雨が降る森の中、朽ち果てる以前は人々が集う場所だったであろう広場に鈍く光る魔法陣が現れる。
そしてその魔法陣が光を強め辺りを照らし出し、光が収まるとそこには、濡れ羽色の髪に二十四色の宝石が環状に連なった冠をのせ黒に白のラインが入ったローブをまとった少女が現れていた。
「遂に来てしまった…。もう早速帰りたいのだ…」
いつの間にか少女の周りには四つの影が現れており、少女はそれを一瞥するとため息を一つはいて言った。
「はぁ…。各自散開、事前に行った作戦会議通りに動くように。くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も!ルールを破らないように。あいつらに目を付けられるのはかなわないからの…」
その言葉を聞き終えると、集まっていた影達は姿を消し、少女だけがその場に残った。
「…あいつらが言う通り、本当にいるのだろうか。あの四人は…」
少女が見上げた空には、雷鳴の轟く雨雲が広がっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「!!!」
なんだ?今の感覚は……ん?なんか、妙な魔力があるような…?
《ピコン!》
「ん?」
《イベントクエスト・魔王軍との邂逅が発生しました。情報を開示しますか? YES or NO》
クエスト?さっきのやつが原因かな?
「…YESだ」
《イベントクエスト・魔王軍との邂逅の情報を開示します。
イベントフィールド【忘れられた孤島】内に魔王軍の一部が出現しました。
出現した【魔王補佐】【四天の裏一】【四天の裏二】【四天の裏三】【四天の裏四】を撃退・討伐して島内での安全を確保してください。
現在【魔王補佐】 HP100%
【四天の裏一】HP100%
【四天の裏二】HP100%
【四天の裏三】HP100%
【四天の裏四】HP100%
クエスト達成条件は『イベント七日目を迎える』『全ての魔王軍の撃退・討伐』『魔王軍の島内占領』です。
クエスト達成時の残りHPが一定の値に到達するとイベント参加プレイヤー全員へ報酬が贈られます。また、魔王軍を撃退・討伐したプレイヤーへは別枠で報酬が贈られます》
魔王軍か…。四天っていうのは四天王と同じ感じかな?だとするとめっちゃ大変じゃないか、このクエスト?
《ピコン!》
《アナザーワールドクエスト・魂の由縁が発生しました。情報を開示しますか? YES or NO》
「え?」
アナザーワールド…?…とりあえず、YESだ。
《アナザーワールドクエスト・魂の由縁の情報を開示します。
イベントフィールド【忘れられた孤島】内にて前提世界でのアバターを確認しました。
【四天の裏一】と再会し存在の証明をしてください。
クエスト達成条件は『存在の証明』です。
無事証明が終了した場合【四天の裏一】【四天の一】は魔王の保護下から解放され、あなたの下へ返還されます》
「……は?」
前提世界のアバター…?前提世界って、確かPROだよな。え、てことは…も、もしかしてあいつか?あいつがいるのか?今、ここに…?ッ!さっきの妙な感覚はコレが原因か?
「…おい、おいサルマン」
「……何用だ、主」
「急用が出来た。しばらくここを離れる。ボマーゼ達を任せるが、ここが危険だと判断したら別の場所へ移動しろ。いいな?」
「主がそこまで警戒しているのなら余程のことなのだろう。承った」
警戒?そうか、警戒してるのか。こんなにもせかされるような感覚は初めてだ。怖いんだな、あいつに会うのが。
「ふぅーーー……。よし、後は任せた」
「うむ。心置きなく用を済ませてくるといい主よ」
先程感じた妙な魔力の発生源と思われるところまで一気に駆け抜ける。そこに行けば間違いなく魔力を発した誰かがいる。目的の人物とは別人だろうが、近くにいるはずだ。だってあいつはそういうやつなんだから…。
開けた場所に出た。おそらくここが発生源だろう。テント付近で感じたものより濃い魔力が漂っている。
「…いるんだろう。出て来いよ」
言って、気づく。自然と黒剣の柄を握っている。完全にくっついていない右腕を無理やり動かすくらい警戒していて、緊張している。
「まさか、お前の方から来てくれるとはな。探す手間が省けた」
「ッ!」
ゆらりと虚空から現れたのは黒い鎧を纏った青年。そしてその後ろには宝石の冠を頭に乗せた少女。
かつての自分がそこにいる。その事実で柄を握る力がより強くなる。今すぐ切りかかってしまいそうだ。
「まあ待て。オレも話したいことがあるが、その前にこいつの話を聞いてほしい。その後斬り合いでもなんでもしよう」
「……ふぅー…。わかった」
そうだ。こいつと戦ったところで何か得られるものがあるわけじゃない。やるなら話し合いだ。だから、少女の話とやらを聞こう。まずはそれからだ。
「久しいな。我を封印してすぐに姿を消したそうじゃないか。こやつを見つけるのに随分と時間がかかってしまったぞ」
「なんのことだ?」
「む。貴様我のことを忘れたわけではあるまいな?貴様らに敗れ、封印された魔王であるぞ?」
「魔王…魔王だって?PROの?あの?」
いや、おかしい。PROで魔王を撃破した後、魔王は消滅していた。なんちゃってではあったがストーリーだってあった。そこでも魔王が封印されているなんて描写はなかったはずだ。
「そう。その魔王じゃな。まぁ貴様らには我を封印した自覚はないのだろうが…」
「おい」
「ん、そうじゃな。グラン・ハーフいや、グレス・ハーフよ。まず謝罪を」
「え…?」
「貴様の従者が扱った魔法剣術を我が封印の巻き添えにし、一時的に世界から消滅させたことで貴様の心に傷を残したそうじゃな」
「…」
心の傷?………PROでチートだなんだと騒がれて、相棒のキャラを、ネロを傷つけられたあれのことか?まあ、あれのせいでオンラインゲームしばらくやらなくなったし、心の傷といえば心の傷か。でも…
「あまり、気にしなくていい…。確かにあの一軒でいろいろあったけど、今はもう気にしてない」
「そうか。それはなによりじゃ」
「…ここに来た理由はなんだ?」
「そんなもの貴様らに会いに来たに決まっているだろう。管理者どもが我をだまそうとしてついた嘘だと思っていたが…、ふむ。三人ともいるようじゃな」
「三人…。あの時の、魔王討伐の即席パーティーの三人がいるのか?」
「いる」
「そうなのか…」
魔王討伐時以外で関わりはなかったけど、ネロが使った魔法剣術をチートじゃないと言ってくれてたんだよな…。
「…ん?…ほぉ?」
「どうした」
「他の三人から面白い話を聞いた」
「「面白い話?」」
「貴様、妙なクエストを受注しているな?」
「妙?ああ、魂の由縁てやつかな。…そういえば存在の証明をしろってあったけど…」
こいつの、グランの存在を証明するって、どうすればいいんだ?今ここにいるっていうのに。
「グラン、お前の存在をこやつが証明しないとならんらしい」
「何?」
「それができれば、お前は我から解放され、ついでとばかりにあの抜け殻も解放されるとのことだ」
「…そう、か…」
「抜け殻?」
「お前は気にしなくていい。それより、オレの存在を証明するんだろう?どうするつもりだ?」
「どうって言われても…」
今ここに存在しているじゃないか。………ああ、もしかしてこの世界に、生きていないのか…?
「お前は、この新しい世界で生きているか?」
「…」
「あの頃俺の分身として、あの世界を生きていた頃みたいに、この世界で暮らしているか?」
「…そんなわけないだろう。お前がいなくなって、あいつも消えて。一人だけのオレがあの頃のように生きることは不可能だ」
「そうだよな…。ごめん」
「謝るな。お前の選択が間違っていたとは言わせん。それに、一人でいる時間のおかげでオレはもっと強くなれた。そこには感謝している」
俺はお前を、お前たちをおいていったのに。…変わらず優しいな。
「優しいな。…そうだ。やりたいこととか、あるか?」
「………」
「なんじゃ。こっちを見るでない。我のことを気にするな。そもそも、お前と再会したのはつい最近であろう。何を躊躇っておる」
「…また、お前と一緒に世界を見たい。そうすれば、あいつも戻ってきてくれるかもしれないしな」
「そうか…」
こいつは、あの頃の俺なんだよな。あー、てことはあれか?証明って。
「また、俺と一緒にいてくれるのか?」
「ああ」
「…ありがとう、グラン・ハーフ。これから俺たちは『また』家族だ。よろしくな」
「…また家族、か」
「え…い、嫌か?」
「はぁ…」
「な、なんだよ」
「…妙な感じだと思っただけだ。また…よろしく頼む」
「!おう…!」
これで、こいつは俺の家族になった。この世界でどういう存在なのか、はっきりしたはずだ。
《アナザーワールドクエスト・魂の由縁の達成条件『存在の証明』を確認しました》
《アナザーワールドクエスト・魂の由縁がクリアされました。クリア報酬をお送りします》
《クリア報酬 【四天の裏一】グラン・ハーフ及び【四天の一】ネロが魔王の保護下から貴方の保護下に変更されます》
《個体名:グラン・ハーフ 種族:真人族 個体名:ネロ 種族:真人族が配下に加わりました》
《個体名:グラン・ハーフ 個体名:ネロとの間に繋がりが発生及び強度が増しました》
《個体名:グラン・ハーフとの間に血の繋がり及び魂の繋がりを確認しました。個体名:グラン・ハーフを同等の格へと進化させますか? YES or NO》
…え?
はい。前書きでも書いた通り一年四ヵ月くらいぶりですね。作者です。こんなに遅くなったのにはいろいろ訳があるんですが、端的に言ってしまえば他小説サイトに浮気してました。なろうだとこれ書く以外ではほぼ訪れないくらいにはそっちにどっぷりです。これからもこの小説を書き続けるつもりですが、以前以上の不定期になると思います。
あ、誤字脱字があった場合は報告してくれると助かります。では。




