祠
組合にきた。適当に依頼を受けるつもりだから受付嬢に選んでもらおう。
「えっ……、Sクラス、だったんですか……?」
グリスにトルンと呼ばれていた受付嬢に冒険者カードを渡すと驚かれた。まあ、当然ではあるんだろうけど。
「まあ、一応、それで、何かいい依頼ありませんか?長い間放置されてる依頼とか」
「え、あ、は、はい。少々お待ちください……」
少し驚きすぎじゃないか?そんなに俺がSクラスなのが信じられないのか?
「あの、こちらの依頼をやっていただけないですか?長い間受ける人がいなくて、えっと、一応街からの依頼なんですけど……」
#祠の点検
報酬千二百G
「祠、ってなんですか?」
「えっと、この街の中央にある『世界樹の根』のことです」
世界樹の根って、なんだそれ。まあ、それは後でいいとして。
「……なんで、誰も受けないんですか?」
「受けない、と言うよりかは、受けられない。と言う方が正しいかもしれません」
「どういうことですか?」
「祠には入れる人と入れない人がいるんですよ。普通は族長の直系の人達が点検するんですけど、長い間入れる人が現れてないんです。そのせいですね」
「なるほど、で、なんで俺に?」
「え?だってそんなに精霊が寄る人が入れない訳ないじゃないですか」
入れる入れないは精霊の好みかよ。
「はぁ…。まあ、行ってみますよ。んで、点検って何をすればいいんですか?」
「中の根に異常がないかの確認だそうです」
「そうですか。じゃあ、行ってきます」
「はい、お気をつけください」
んー、本当に入れるかどうかわからないけど、行くだけ行ってみよう。
「グリス」
「ん?なんだ?」
「一緒に行くか?それとも何か依頼を受けるか、どうする?」
「一緒に行くぞ」
「わかった。後、いい加減肩車やめないか?」
「やだっ」
そうかい。はぁ、行くか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここか?」
街の中央、と言うか、中心には小さな祠が建っていた。祠は木造で、人一人入れる位の大きさだ。中に根っこが入ってるのかな?
『おや?見ない顔だね、どこの誰だい?』
「っ!誰だ?」
どこからも気配は感じない。
『ふ~ん、なるほどね~、別にいいよ。君達なら』
「どういうことだ?」
『中に入りたいんだろう?君達ならいいって言ってるんだよ。最近の子達からすれば君達はよっぽど澄んでいる。それに、あの子の友達みたいだし』
「入って、いいのか?」
『いいって言ってるだろ?ま、君の自由だけどね』
なんだこいつは、まあ、入っていいなら入るけど。
『中に何かあるわけじゃないのに、昔の約束を律儀に守るって、結構すごいことだよね?』
「突然なんだ?まあ、確かにそうかもしれないけど」
『やっぱりそうだよね』
「それだけ大事な約束だったんだろ、きっと」
『そんな大層な物じゃないんだけどねぇ~』
人によって重さは違うものだと思うけどな。さて、中に入るか。
『あ、龍の君はダメだよ』
「がう?ダメなのか?」
『一応ね』
「ぶー」
「あはは、まあおとなしく待ってろよ。すぐ戻って来るから」
「がう……」
『じゃ、行くよー』
「へ?」
急に祠の扉が開き、すごい勢いで中に引き込また。
「━━━っふべ!?」
地面に頭から突っ込んだ。衝撃が、痛い……。
「………!」
「あーごめーん。久しぶりだから調整ミスっちゃった」
「…だれ、だ?」
「さっきも話してただろ?」
いや、そうじゃなくてな、何者何だってことを…。
「ああ!ボクはここの守護精霊だよ。世界樹は世界に根付いてるからね。守らないといけないんだよ。その守護精霊に異常がないか確認するのが、君の仕事ってわけ」
なるほど。にしても、相変わらず気配は感じないな。ここにいるってのは声の質が違うからわかるけど。
「じゃあ、依頼は完了ってことだな。帰る」
「いやいや、もう少しぐらいゆっくりしていってよ。久しぶりの客人なんだからさ」
「お前が妥協してればもっと多くの客人が来たんじゃないのか?」
「そうなんだけどさー、皆が皆世界樹目的なんだもん。仕方ないよ」
「…なあ、その世界樹ってなんなんだ?」
「ん?あー、そうかそうか。知らないんだったね。じゃあ教えてあげるよ。
世界樹って言うのは、さっきも言った通り世界に根付いてる樹のことだよ。文字通り『世界』に根付いてるんだ。ここにある根は、伸びた根の先端部分で、今も少しずつ成長してるんだよ。別の場所では枝の一部が世界樹としてダンジョン化してるんだ。で、そのちょっと出てきてる世界樹の一部を守るのが精霊の役目ってわけ。その中でもボクみたいな直接世界樹を守る精霊はすごいんだぞ?」
「んー、なるほど…?」
よくわかんね。でも、でっかい樹ってことはわかった。
「ま、そう言うことだね」
「……さっきから心読んでない?」
「どうかな?」
「………そういえば、世界樹が目的ってどういうことだ?」
「あはは。世界樹はいろんな物にできるからね。枝は魔杖や剣とかの柄にできるし、葉はハイポーションの材料になるし、樹液なんかは魔力の塊なんだよ。それを狙ってるんだー。………昔はいっぱいあったからね」
「へぇ…」
それ聞くとすごいってわかるな。
「んー……」
「どうかしたか?」
「君は、龍神と知り合いなんだろう?」
「ああ、まあな。でも一回会っただけだし、殺されてるからね?」
あの場所から俺をこっち側に戻すためだとしても。地味に痛かったし…。
「でも君には龍神からの愛を感じるよ?」
「愛…?」
称号のことか?
「うーん、彼女の友達でもあるし、そうだなぁ…、あ、丁度いいや。これあげるよ」
「え?なにこれ?」
突然目の前に現れたのは、ハンドガンだった。
「昔拾ったんだ。でも、使い道知らないから、お礼としてあげるよ」
「お礼?何かしたか?」
「なにも?でもね、龍神には感謝してるし、ベルにも感謝してるから、君にあげるんだ」
「?ますますわからん。それにベルと知り合いなのか?」
「いいや?ボクの方が一方的に知ってるだけだよ。ま、気にせず受け取ってくれるといいかな。売っちゃってもいいしね」
「えぇ…」
「そんなに悩まなくていいよ。そうだな、祠の中に落ちてた。ってことにすればいいんだよ」
「いや」
そうじゃなくてな…、はぁ、じゃあ貰っとくか?
「……一応受け取っておく」
「うん」
「じゃあ、さすがにそろそろ帰るよ」
「そうだね。君との話は面白かったよ。また来てくれると嬉しいかな。あの龍の子も一緒にさ」
「ああ、うん。そのうち来るよ。じゃあな」
「またね~」
その言葉の後にパチンッ、という音が聞こえると、外に出ていた。
「がうっ!?戻ってきた!おかえり!早かったな?」
「ん?そうか?」
「おう。んで、その手に持ってる物はなんだ?」
「これか?貰ったんだよ」
「へぇ…どんな物なんだ?」
「たぶん武器だと思うけど、あー見てみるか」
鑑定。
破損した魔銃
過去の遺物である銃が破損した物。
このままでは使い物にならない。
【魔結晶】【魔石】
ん?壊れてるのか?これ…。まさか、いらない物を渡されたのか?……お礼って言ってたのに………。
「どんな物だったんだ?」
「壊れてるみたいだけど、銃だ」
「壊れてるのか?」
「おう。で、たぶんなんだけど直すための素材についても書いてあるな」
「何が必要なんだ?」
「魔結晶と魔石。魔石はそこそこの数持ってるけど、魔結晶は聞いたことないな」
「魔結晶か」
「イータ、何か知ってるのか?」
「おう。魔結晶ってのはながーい時間をかけて魔力が結晶化した物で、今は知らんが、俺様が生きてた頃は結構な値段で買い取ってくれる物、だな」
「なるほど」
まあ、こいつに関しては後でいいし。今度ネロに聞いてみよう。
《呼びましたか?》
!いたのか?
《いえ、今来たところですが》
何か用なのか?
《ええ、実は手伝っていただきたいことがあったのですが、先にマスターの用事を済ませましょう》
いや、いいよ。それで手伝って欲しいことって?
《……では、一度戻って来てください》
ああ、わかった。少し待ってな。
《はい。では》
おう。……んじゃ、今日はここまでかな。
「俺はあっちに行くことになった。グリス達はどうする?」
「んー、依頼やる!」
「そうか。じゃ、俺は宿屋に戻るから」
「がう!またな!」
さて、ネロの用事って何かな?
誤字脱字があった場合報告してくれると嬉しいです。




