リンリルにて
「そ、そのハチミツっていくら位なんだ?」
「えっと、確か一瓶二万G位した気がするぞ?」
終わった…。
「ああ、でも、自分で取れるならほぼ金はかからないな」
「え、マジで?!」
「お、おう、でもなぁ、そのハチミツを作ってるモンスターがメチャメチャ強いんだよ」
「大丈夫!俺こう見えて結構強いから!」
「そ、そうか?でも、一応店には行っといた方がいいんじゃないか?その友人は安値で買えるからって少ない金額を兄ちゃんに渡したんだろ?」
た、確かに……、あのベルが理由もなく金を少なくするはずがない…!
「一応行ってみるよおっちゃん」
「そうするといい、っと見えて来たな」
「え?」
「あれが、リンリルだ」
飛空船の行く先には、深い森の中にある、周囲から少し隔離されたようなところにツリーハウスが建っているのが見えていた。
ついでに言うとなんか薄い膜が張ってあるのも見える。
「おおお!なあなあ、あの木の家ってなんだ?!」
「あれはツリーハウスつって、木の上や中に家を作って暮らしてんだ。エルフは大体どこも同じ感じさ」
「へぇ…!」
「…おっちゃん詳しいな?」
「そりゃあ、何回も行ってれば自然と身に付くってもんよ。まあ、少しは調べたりしたんだけどな!」
「そうか」
おっちゃんは何回もリンリルに行ってんだな。
「にしても、なんで今日は結界なんて張ってんだ?」
「結界?」
「ああ、普通のやつには見えないんだったな。すまん。結界ってのはリンリルを囲う魔力の膜なんだ。いつもはないんだけど、今日はあるんだよ」
あの薄い膜が結界なのか。で、いつもはない。………まかさな。うん。ないない。俺達が来たからってそんなことないよ。…………ないよな?
「ま、はぐれのワイバーンでも出たんだろ。気にしなくても大丈夫さ」
「ワイバーンってどういう…」
「リンリルの張る結界は龍/竜から国を守るためのもんで、ついでにモンスターを寄せ付けないってもんなんだよ」
「な、なるほど…」
完全に俺達が原因じゃねえか!龍だってばれてんのはたぶん俺じゃなくてグリスだろうけど、どうなるかわかんねぇなぁ…、最悪ハチミツは諦めるか?
「どうした?急に顔色が悪くなったように見えるが?」
「え?マジで?」
「おう、また酔い始めたか?薬、飲むか?」
「い、いや、大丈夫だ。気にしなくていい」
「そうか?まあ、もうすぐ着くしな。それまでの辛抱さ」
「そう、だな」
顔色が悪くって、俺、あんまり顔に出るタイプじゃない気がするんだけど、すげえな、このおっちゃん。
「あー、なんかあると困るし、一緒に降りねえか?」
「ああ。別にいいけど、なんかってなんだ?」
「んー、結界が張ってある時ってピリピリしてんだよ。そこが少しな」
「はぁ…」
ピリピリ、そりゃなるか。龍だもんな。
そしてしばらくして、リンリルの港に着いた。結界を通った時に何かを通り抜ける感覚はあったが、特に何かがあるわけではなかった。あ、でも、グリスはちょっと嫌そうだったな。
「さ!到着だ!」
「そうだな」
「あ、そうだ。俺がリンリルを案内してやろうか?」
「なんだよ突然」
「リンリルだと俺、ちょっとした有名人なんだよ。だからさ、俺がいた方が色々楽だと思ってよ」
「なるほど」
本当に有名人なら多少割引とかして貰えるかもしれん。が、
「おっちゃんも用があって来てるんだろ?そっちを優先しろよ。俺達は大丈夫だからさ」
「でもよぉ」
「がう!大丈夫だ!」
「…そうか?……じゃあ、そうするよ。じゃあな!また会おうぜ!」
「おう。またな」
「またな!」
行ったか。
「俺達も行くぞ」
「がう!」
「…あ”あ”、やっと喋れるぜ!」
「お前は喋ってもいいけどもう少し声を抑えろ」
「おう!」
さて、ベルからお金と一緒に貰った地図に載ってる店はどこだ?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
…………。道を歩いていると、必ず二度見されるんだが?なんだこれ?俺になんかついてんのか?何も見えないんだが、ああ、でも、いつもより魔力の光が強いような…。でもそれは関係ないだろ?なんなんだこれは…。
「がう、グレス、こっちじゃないか?」
「お?おう。そっちだな」
「早く行こう!」
「そうだな」
まあ、二度見される位リアルでもあるし今更か。そんなことより今はハチミツの方をどうにかしないとな。
《マスター》
ん?ネロか。どうした?
《はぁ、そろそろ夕食の時間です。戻ってきてください》
あ、もうそんな時間か。わかった。
《なるべく早く戻ってきてくださいね》
念押しされた…。先に宿を探さないとだな。
「おいグリス、行き先変更だ。宿を探すぞ」
「がう?ハチミツは?」
「今度だな」
「えー!ハチミツ食べたいぞ!」
「なんだと?!ハチミツ食いたかったのか?!」
こいつ、くそ高いって話してただろうが!
「がう!」
「ベルの分買ったら帰るつもりだったんだけど…」
「やだ!食べたい!」
「…なあ、グリス嬢の分も買ってやったらいいじゃねえか」
「高いんだよ!そもそもベルから貰った金じゃ足りないんだ!持ってる金じゃあベルの分買ったら何も買えないんだぞ!……あ、そうなると帰れないじゃん」
行きで一万、帰りもそれくらいかかるとなると帰れない……。それにグリスの身分証も用意しないと。
あー、
「行き先変更だ。組合に行くぞ」
「が?」
「お前の身分証を作る。そこで依頼こなして金稼いどけ、イータもいるし大丈夫だろ?」
「え、おいおいおい、グリス嬢一人にすんのか?」
「そのためのお前だろ。槍での戦い方でも教えとけ」
「いや、グリス嬢じゃ俺様を扱えねぇよ。身長も足りないしさ」
「そこは、ほら、伸縮自在の能力でさ」
「……はぁ、しょうがないか?」
「おう任せた。とりあえず三日位な」
「……わかったよ」
これでとりあえずいいか。自分の食費もこれで稼げるだろ。
組合は回りの木に比べて、一回り程大きい木に作られていた。
見た目は木を囲むように建物が建っていた。
中は中心に木の幹があり、その回りに受付カウンターがあった。二階があり、そこは酒場になっているようだった。
「ほぇー、すごいなこりゃ」
「確かになぁ…」
「がう?すごいのか?」
「ああ、まあな。それよりも早く登録だ」
「がう」
目立つからわかったけど、以外とここに来るまで時間かかったから早くしないとな。
「すいません」
「は………はい、なんでしょうか?」
受付の人はエルフで、俺を見ると数秒固まった。なんだ?なんか変だったか?
「どうかしましたか?」
「い、いえ、なんでもありません。ご用件はなんですか?」
「そうですか。実はこいつの冒険者登録をしたくてですね」
「こいつ?」
ああ、受付からじゃ見えないか。よっこいせ、っと。
「こいつです」
「がう!」
「あら、そうでしたか。では、こちらに触れてください」
「がう」
受付嬢はカウンターの下から頭位の水晶玉を取りだし、一緒に白いカードも取り出していた。グリスが水晶玉に触れると水晶玉が淡く輝き、受付嬢が持っているカードに光が集まった。
「はい、これで登録は完了です。組合についての説明は…」
「それはいいです。俺がやるんで。それで聞きたいことがあるんですけど」
「なんですか?」
「宿ってどこにありますか?」
「宿ですか?でしたら、隣の木がいいですよ。安いですし」
「ありがとうございます。あ、明日位からこいつ来ると思うんでよろしくお願いします」
「は、はぁ、わかりました」
「それでは」
「またな!」
ふう、これでログアウトできるな。……ネロに怒られないといいな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「っと、言う訳で、遅れた」
「なるほど、わかりました。この件はもういいです。夕食にしましょう」
「そうだな」
怒られなくてよかった。
「……結城様、先程の話なのですが」
「ん?なに?」
「エルフに見られて驚かれた、いつもより魔力が多いと言うことでしたが」
「ああ、そうそう。受付嬢は俺を見て二秒位固まったんだよ。それ以外にも道行く人達に二度見されたりしてさ、そんなに他種族って珍しいのか?」
「たぶんそれは…いえ、なんでもありません」
「え?なになに、気になるんだけど、何を言おうとしたの?」
「気にしないでください」
「教えてよ」
「……」
「ネロー?」
「……」
「ん?あれ?おーい、あ、逃げられた」
ネットに逃げられた……。諦めるか…。
早く飯食って風呂はいろ。
誤字脱字があった場合、報告してくれるとうれしいです。




