第九話 日常の衝撃
あれから俺たちは一緒に帰路に就いた。といっても、転移魔法が使えるからノリで適当に歩いた後、人目につかないところから自宅に帰ってきたのだが。
自宅に帰るまで、というか転移をするまでだが、いろいろ怜と話した。
この世界で自分は何をしたのかとか、家族構成とか、この世界と前世での違いは何かとか、女の子のタイプとか、途中途中に男子がしそうな会話などを含めて話した。
この世界は、怜曰く前世とはほとんど変わりがなかったそうだ。確かに建物や地形などが変わっていたりするが、それ以外は俺たちが知る限り、何ら変わっていることはなかった。
いや、まぁ、魔物という化け物がいたり、知らない島があったりして、変わっていると言えば変わっているけど、全体的に見ればあんまり変わりはないと思うということだった。たぶんらしいけど……。
話していてわかったことなのだが、怜にも俺や沙耶と同じく使い魔が存在するらしい。怜は自分が使い魔を召喚できるということが最近わかって、入学する前に召喚したそうだ。
いったい何を召喚したのか気になり、聞いてみたのだが、後でゆっくり話せるところで召喚して見せてくれるというので、今は教えてはくれなかった。
怜の家族は四人構成で、俺は妹がいるのに対して怜は姉がいるそうなのだ。女の兄妹というものは素晴らしいだろうと、共感を得ようとしたのだが、怜は姉とはしょっちゅう喧嘩ばかりしているというので、共感は得られなかった。
怜が喧嘩というのは想像が出来なかったが、詳しく聞いてみると喧嘩というよりは姉がかなり横暴なのだそうだ。……なぜだろう、喧嘩と聞いたときは全然想像できなかったのに、姉が横暴と聞いた途端にその場面が想像できてしまう。
ついでに言っておくと、俺の妹は魔法の実技で分からないことがあると聞いてきたり、一緒に魔法の練習をしたりするくらいには仲がいい。たまに沙耶がいないときに俺がわからないことがあると、世話を焼いてくれるいい子でもあるのだ!そういうところ俺は結構好きです!
あと、話していくうちに女の子のタイプの話になったのだが、怜はあまりそういうのにこだわる人ではないらしい。好きになった人がタイプになるそうだ。
なんだか、中身がイケメンでムカついて殴りたくなった。……ん?俺か?俺は沙耶のような人と言っておいたぞ!
帰るときに、転移魔法を使えるということは家にいる人たちにもバレちゃいけないことだと思った。なので、絶対にバレないだろうというところに転移しようと思い、自宅の丁度上空に転移した。
自宅の上空は、魔法の練習ということで何度か沙耶と一緒に飛んだことがあったので、転移することが出来た。それからは風魔法を巧みに操って、自宅前に綺麗に着地した。
家に帰ってからは、いつも通りに宮本さんの料理を食べながら、家族と他愛のない会話をした。こちらに来てから毎日食べているのだが、何度食べてもとても美味しいよ。
それと、今日は入学式だったからだろうか、気疲れをしていたので一番に風呂に入り、そのまま明日のことは何も考えずにベッドに飛び込んで熟睡した。
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そして翌日、俺は前日とは違い、しっかり寝ることが出来て快調だった。普段だったら、カーテンの間から差し込んでくる光がとても鬱陶しく感じるのだが、今は自らカーテンを開けて日の光を浴びようとするくらい、俺は目が覚めていた。
「なんだろう、すんごい眠くないぞ?それよりも早く学校に行きたくてウズウズしているようだ」
そういえば今何時かと思い、部屋に立てかけてある時計を見た。早く起きてしまったら時間が暇だなと思いながら時間を確認した。
「えっと、九時少し前か……」
ん?九時少し前?
あれ、確か授業が始まるのって八時半くらいだったよな?
「はぁ?」
いやいやいや、俺がそんな遅い時間に俺が起きるわけないじゃないか。そうだ、きっと何かの勘違いだ。そう思ってもう一度時計を見た。
「九時少し前……」
時間はどこからどう見ても九時少し前だった。正確には、八時五十七分四十秒なのだが。
「いやいやいや」
どうしてもこの現実を受け入れられないでいた。
そうだ、今日が休日という可能性がある。だから宮本さんが起こしに来てくれなかったんだ。それに沙耶も来ていないから今日は学校は休みだな。きっとそうだ。
そう思って一縷の望みをかけて、部屋に立てかけてあるカレンダーを見た。
「火曜日……」
今日は火曜日だった。どこからどう見ても火曜日だった。ここで、一縷の望みは朽ち果ててしまった。
いったいどうしてこうなったんだ!?なんで誰も起こしてくれなかったんだ!?
そう自分で起きなかったことを棚に上げて、自分に問いかけた。
あれ、でも確か……。
そういえば、昨日の食卓で両親が朝が早いって言っていたな。妹も朝練があるから早いって言っていたっけ。宮本さんは急用が出来たから、今日は休むって言っていたな。ということは、今この家には俺しかいないということになるわけだ。
はっはっは!
「俺の馬っ鹿野郎!なんで昨日のことをしっかり覚えていないんだよ!起きなかったら誰かに起こしてもらえるから安心だ、とか思って気か緩んでんじゃねぇよ!」
もう授業が始まっているはずだ!急いで準備をして学校に行かないと!
やばい、今日は何をするのか全く覚えていない。いったい何を用意しろと?一応教科書とかノートの類は空間魔法で異次元に収納している。インベントリというやつだな。
だから、忘れるということはないが、それ以外のもので必要なものとかあったっけ?
全然覚えていないや……。というか俺、寝ていたからいったい何が必要かとか何をするとか聞いていなかったわ。
「はっはっは!」
……笑ってないで急いで学校に行こう。
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はい、というわけで、あれから最低限の準備をして、かなり急いで来ました。といっても、用意してあった朝食をしっかり食べてきたし、教室の前に転移してきただけだからあまり急いではいないんだけどね。
いやまぁ、転移した先の周りに人がいなくてよかったぁ。見られていたら言い訳とか思いつかないもん。
今更なんだけど、パンとか咥えて登校したほうがよかったかなって思うんだ。宮本さんが用意してくれていた朝食はご飯だったから、そんなことをしなくて済んだんだけど。まぁ、そんなことしても全然需要はないんだけどさ……。
そして今、教室に入るのを躊躇っています。
なんですぐに入らないかって?いやだって、入学式の次の日に遅刻とか印象悪いじゃん。ただでさえ見た目が怖いんだからさ、これはより一層印象が悪くなるぞ?
とはいっても、いつまでも教室に入らないわけにはいかない。印象が悪くなってもこれから挽回していけばいいしな!というわけで、意を決して教室に入った。
「すみません、遅れましたー。……あれ?」
もう怒られることを覚悟して入ったのだが、教室には誰もいなかった。
「これは、新たないじめか!?」
俺の中にはいじめという言葉しか思い浮かばなかった。だって今日平日だし、時間も間違っていないし、俺初日での印象悪かったし。これがいじめだったら流石に泣くぞ?
なんでいないんだ?
「とりあえず、『千里眼』を使って探してみよう」
千里眼は、俺が勝手にそう呼んでいるわけじゃなくて、そういう魔法が実際にあるのだ。空間魔法の派生したものらしいのだが、俺はなんとなくで使っているのでしっかりは理解していない。
それに転移魔法ほどではないにしろ、使用者も限られているから、そうそう人前では使えないものなのだ。
因みに、沙耶と両親は使えるそうだ。使用者が限られているって知らなかったら、俺はこれが普通だと思って人前で使ってしまっていただろうな。
瞳に魔法陣が宿り、自身の脳内に学校のいたるところが映し出された。これって自分の魔力量によって見える範囲が決まるから、魔力のない人にとっては使い勝手が悪い。魔法師でこの千里眼を使っている人は、おおよそ半径五十メートルが限界だそうだ。
俺の魔力量は異様に多いようなので、日本列島なら最北端にいようとも、最南端が見えてしまうほどに多いのだ。実際に未桜と一緒に、散歩ついでに行ったから間違いない。流石神の使徒、チートだがぶっちゃけ無駄としか思っていないぜ。
この能力を使えば、建物内だろうと見ることが出来るのだが、俺はとんでもないことを思い浮かべてしまった。
それは、女性の風呂場とかを覗くことが出来るのではないかということだ!いやね、俺も前に一度、覗こうと思ってしたわけじゃなくてね、魔法の実験として女風呂を覗こうとしたんだよ。
でもな、見れなかったんだよ……。覗き対策なのだろうが、すんごい防御結界が張ってあっていたんだよ。いや、本気を出せば見ることは出来るよ?神の使徒だし。だけど、結界壊したら流石にばれると思って、女風呂を覗くことは泣く泣くあきらめることにしたんだ……。いや、泣く泣くではなく仕方なくだな!
まぁ話は逸れてしまったが、そういうわけがあって、俺は千里眼に込める魔力量を調整して、この学校に範囲を狭めて発動した。もしかしたら他の場所にいるかもしれないし、ちゃんと探さないとな。
「あれ、ここ広いな……。どこにいるんだろう」
予想以上にこの高校が広くて、見えない範囲があったために魔力を注ぎ足しながら校舎内を見た。というか、千里眼と転移魔法を組み合わせれば、俺に行けない場所なんてないんじゃないか?おぉ、我ながらすごいことを思いついてしまったな!
前世とかでは電車賃とかガソリン代とかいろいろ気にしていたが、こっちに来たらもう移動費がタダじゃん!魔法様様だな。
「お、いたいた!」
みんなが制服姿で闘技場らしき場所にいるのが見えた。それに、制服を着ていないいい感じの優男顔がいた。生徒ではないだろうし、恐らく教師なのだろうか。
みんなに何か話しているのだが、千里眼では話している声などは聞き取れない。そういうところが千里眼の難点だな。たぶん俺の勘だが、あの先生は怒らない類の先生だと思う!よし、遠慮せず行こう!
なんか、出来は近代的なのに、コロッセオを思い浮かべるな、構造的に。
「あそこの上空に転移すればいいか」
そう言って今度は周りに人がいないことを確認して、転移魔法を発動した。
一々周りを気にして発動するのは面倒だな。ゲームみたいにマップに人が配置されるような機能が使えれば便利なのにな~。