再会
「お待たせ、ハヤト君」
「いや、待ってないよ」
サラとハヤトは美術館前で待ち合わせをした。
ボストニアでの待ち合わせの場所として定番なのだそうだ。
「可愛いな、その格好」
サラは、フリルのついた白いスカート、サラの髪の色と同じ、赤く、肩の部分が空いている大胆なシャツ、そして、いつも履いている黒のニーソックスが、スカートとの絶対領域を強調していた。
「そう言うのって、恥ずかしそうに言うもんだよ、ハヤト君」
「そうか?」
「でも、ハヤト君らしいかなって思う」
二人はボストニアの街を歩いた、お洒落なカフェが連なる通りを進むと、甘く香ばしい香りが漂ってきていた。
「こっちの通りもお洒落だな」
「ボストニアは歴史の町だから、色んなお店があるんだよ」
「食べていくかい? 恋よりも甘いクレープだよ」
「クレープ?」
「柔らかい生地で、フルーツとか、チョコレートを包んだお菓子だよ、美味しいんだ」
「じゃあ、2つお願いします」
「すぐに出来るからね」
言葉通り、素早い手際から、クレープの生地を作り、あっという間に、二人の元へ、ほかほかのクレープが差し出された。
甘い香りが食欲をくすぐる。
「美味しいね、ハヤト君」
「そうだな、あっ、ちょい待ち」
「ん?」
ハヤトは顔を近づけ、サラの顔についたクリームを指で掬い舐めとった。 それと同時に、サラの顔が赤面した。
「ん? サラ、顔赤いけど、大丈夫か?」
「・・・・・・・・・ハヤト君、そういうのがズルい」
ブツブツと独り言を口にしながら、サラは熱々のクレープを頬張った。
「なんだか、こういうのって良いよな。 誰かとぶらぶらと歩いて、難しいこと考えないでさ、こうやって美味しいものを食べる。 今までの俺はしてこなったからさ」
「・・・・・・・・ハヤト君」
「ごめん、せっかくの休日にこんなに暗い話をするべきではなかったよな。 今のは忘れてくれ」
「ハヤト君はそうやって、自分のことを話してくれないの?」
「え?」
「ハヤト君は私のことを何度も元気つけてくれたよね、まだあの時のことが怖くなることはあるけど、ハヤト君がいてくれるって思ったら、前よりもずっと・・・・・・・・・・・ずっと、元気が出てくるんだよ、だからね、ハヤト君もちょっとだけ、私のことを頼ってくれないかな」
サラは小さい子供を安心させる母親のように、慈愛満ちた瞳で、ハヤトのことを見つめた。
「・・・・・・・・俺はな、人を守れなかったことがある」
「・・・・・・・・・・・それは、ハヤト君の大切な人?」
「恋人とかじゃないよ、どちらかというと、幼なじみだった感じかな。 俺とあいつの家は代々続いていたアサシンの家系だ。 俺たちはお互いに将来の当主になると義務付けられてた」
「そんなハヤト君が、どうしてボストニアに?」
「俺はさ、力が欲しかった。 誰よりも強くなりたかった。 だから、強い精霊と契約できれば、さらに強くなれると思ったんだよ。 そして、俺はある日、封印されていた精霊と契約しようとした」
「・・・・・・・・どうなったの?」
「失敗さ、しかもその精霊は封印場所を抜け出して、俺の村を襲った。 酷いものだったよ。 毎日見た平和な村が火に囲まれ、顔見知りの村人たちが、次々に倒れていった。 あの時の俺には何もできなかった。 泣くことも、助けを求めることもできなかった。 しばらくしてさ、親父たちが来て、そいつを封印し直した。 俺は何度も何度も殴られたさ。 殺されることも覚悟した。 でも、俺が次期当主だったこともあって、殺されることはなかった。 けど、幼なじみは俺を精霊からの攻撃を代わりに受けた」
「・・・・・・・・その人は、どうなったの?」
「サラはさ、精霊化って知ってるか?」
ハヤトは腰にぶら下げている二本の内の一本抜いた。
いつも使っている鬼怒丸ではなく、もう一本の黒光りする刀身の刀をサラの前に差し出した。
「・・・・・・・精霊化って人の魂を精霊と同じにするっていう、禁忌の術だよね」
「こいつの中には、俺の幼なじみが居るんだよ、血にまみれた手で、俺の刀を握って、あいつは術を唱えた」
「・・・・・・・・禁忌の術 『ゴースト ドール』 初めて確認されたのが、3000年前 魂を移し替えるという術を編み出した人が居たんだよね 」
「移し替えたのは、最愛の恋人を助けようとした女の子だった。 女の子は自分のお気に入りの人形に、恋人の魂を込めた。 込められた魂は、術者が死なない限り成仏しない」
「なら、ハヤト君の場合はどうなるの? 」
「あいつは・・・・・・・カレンは消えることは無いよ、あいつは精霊になったからな。 単純に魂を移し替えだとは違うから」
「会ってみたら?」
「・・・・・・・・そうだな」
ハヤトはもう一本の刀である悪美蛇丸に魔力を込め、自身の精神内に精霊を呼び出した。
白い空間には、ハヤト以外の人間はいない。 音もなく、風も無い空間の向こう側からは、見覚えのある少女が髪をかきあげながら微笑んでいた。
「久しぶりね、ハヤト」
「ああ、カレンこそ、変わってない・・・・・・・・って当たり前か」
「うん、精霊になるとお肌の調子良いのよ? まぁ、当然なんだけどね」
「・・・・・・・・・・・俺は」
「ハヤトは悪くないわよ、私が勝手にやったことだから。 それなのに、私が死んだこと、私の精霊化をハヤトに濡れ衣を着せてしまった」
「でも、俺があいつを目覚めさせなければ、お前は! 」
「・・・・・・・・・ハヤト、もう前を向いて歩こうよ、あなたを信じてくれた娘もいるんでしょ?」
「・・・・・・・そうだな、俺はもう迷わないよ」
「うん」
頷いたカレンの身体は徐々に光に包まれていく。
「・・・・・・・・ごめんね、もう限界みたい」
「俺が、カレンに魔力供給を怠ったせいだよな」
「それまで・・・・・・・・・・・・・・またね、ハヤト」
「・・・・・・・・・うっ・・・・・・・ここは」
「会えた? ハヤト君」
「・・・・・・・ああ、ん? んんん??」
正気に戻り始めたハヤトはサラの膝の上で寝かされていた。
もちもちとした健康的な太ももに、ハヤトの顔はみるみる赤くなる。
「な、なんで、こんなこと」
「ハヤト君が眠りやすいように・・・・・・・・・・・ダメかな?」
「いや、サラのおかげで会えたよ。 でも、しばらくは眠りにつくみたいだ」
「そっか。 ・・・・・・・・・・・ハヤト君、スッキリした顔してるよ」
「・・・・・・・・・うん、今最高に気分が良いよ」




