第1話
『ゆうくん、大好きだよ』
鈴を転がしたような、それでいて柔らかな優しい声音が耳に心地良い。
ただこの心地良い声も何十回、何百回と聞き続ければさすがに辛いものがある。
それでも俺は相手が待っているであろう言葉をなんとか絞り出す。
「……お前は本当に幸せ者だな」
「うんうん、そうそう、そうなんだよ。俺はとっても幸せ者なんだぁ~」
いい加減見飽きた幼馴染みののろけ顔に俺は思わずため息をもらす。優太はそんな俺の様子に気づきもせずに、手のひらほどのクリーム色のぬいぐるみを幸せそうに胸に抱いている。
ハムスターをかたどったこのぬいぐるみは、実は録音機能を兼ねている。録音できる時間は1分ほどと大変短いが、このサイズで1分も録音できると考えれば意外と馬鹿にはできない。また通常の録音機と比べて音質こそ劣ってしまうものの、話した言葉を正確に聞き取り明瞭に再生してくれるという素晴らしい機能を備えてもいる。近所のスーパーにあったガチャガチャでゲットしたとは思えないほどの優れものである。ただ唯一の欠点を挙げるとしたら、録音は一度きりしかできないという点だ。そこは300円というお値段相当である。
二ヶ月ほど前、俺はそのハムスターを優太にプレゼントした。小動物が好きな優太はとても喜んでくれた。録音が一発勝負になることも話したのだが、本人はさほど気にしていない様子だった。
優太が真っ先に録音したのは俺の幼馴染みでもあり優太の彼女でもある花純の声だった。それからというもの、俺は優太と会う度に録音した花純の声を聞かされている。声優さながらの花純の可愛らしい声と録音された恥ずかしさこみ上げる言葉に初めこそそれはもう気持ちが高ぶったが、何度も聞かされた今ではもはやその新鮮さは大いに薄れてしまっている。
それにしても優太の行動は異性と付き合った経験のない人間に対する仕打ちとして、かなり酷な部類に入るのではないか。さりとて優太の幸せそうな顔で毎回絆される俺が、それに対して抗議の声をあげる日はまず来ないであろうと妙な自信もある。
「そんじゃ、さっそく乾杯しますか!」
どちらから合わせるということもなく、お互いのグラスが自然にぶつかり合う。なみなみつがれたビールが気持ちいいぐらいに喉を勢いよく流れていく。ぷはーと一息つき、アルコールが全身に染み渡っていく感覚を手放しで楽しむ。目の前に視線を向けると、優太も同じような顔をしていた。
俺たちは競い合うように目の前の溢れんばかりのごちそうの数々を次々と食していった。温かいこたつに足を突っ込みながらの食事はやっぱりおいしい。脳内が幸せホルモンで満たされていくのを実感する。
優太も俺と同じく幸せそうだった。少し前まで死にそうな顔をしていたとは思えないほどの勢いで目の前のごちそうにがっつく幼馴染みを見て、俺はつい安堵のため息をこぼす。




