144若狭侵攻20
144若狭侵攻20
永禄1年1558年 5月 明智治光
武藤は、その言葉通りに勝手知ったる館を迷わずに進んでいく。やはり、逸見の忠臣たちが最後の抵抗を試みるが、武藤の側近が果敢に応戦する。館の廊下に響く足音と金属音。
治光は、戦闘の隙を見て進軍を促し、奥へと道を開く。六角兵は、側近の代わりとして前に出て、武藤の背を守る。忠義と忠誠が交錯する中、戦場は静かに最終局面へと向かっていた。
「逸見ぃ!!!この裏切り者が!!!我が義統様に変わってお前を誅してやる!」
武藤の叫びは、館の奥に響き渡った。義統への忠義と逸見への怒りが、脇差の一閃に込められていた。逸見は、冷静に武藤の動きを見ながら、脇に控えていた者に目配せする。だが、すでに側近は迎撃に出ており、館内にはほとんど残っていなかった。六角兵が即座に前に出て、逸見の防衛線を崩しにかかる。
治光は、武藤の動きに目を凝らしながら、逸見の剣筋の鋭さに舌を巻いていた。武藤は怒りと忠義に突き動かされていたが、逸見は冷静に間合いを測り、反撃を繰り返す。戦場での感情は時に力になるが、冷静さを失えば命取りになる。治光は、武藤の気迫が逸見の技量に押され始めていることを悟っていた。治光はその様子を見ながら、内心で「予定通りだ」と呟いた。武藤が勝つ可能性は低い。だが、それで良い。彼が命を懸けて逸見に挑む姿こそが、若狭武田の正統性を証明する“演出”なのだ。
やはり、個人の武勇は逸見の方が優れている様で段々と武藤が不利になっていく。
「武藤!威勢がいいのは口だけか!」
逸見の笑みは、戦場での余裕の表れだった。彼は、武藤の忠義を嘲るように言葉を投げかけ、感情を揺さぶろうとしていた。治光は、その言葉の裏に逸見の戦術的な狡猾さを感じ取っていた。剣だけでなく、言葉でも相手を崩す。それが逸見の戦い方だった。
「ふんっ!確かにワシだけでは勝てぬかも知れぬが、卑怯者のお前と一騎打ちをする必要もないわ!周りを見てみよ!既に残っているのはお前だけぞ!」
確かに、武藤が斬りかかっている間に六角兵達は逸見の側近を全員斬り殺し、着実に排除していた。治光の指示により、無駄な戦闘を避け、的確に敵を削っていく。武藤が逸見に集中している間に、周囲の脅威はほぼ消えていた。だが、それが武藤の孤立を意味することに、治光は気づいていた。
「なんだと!お前こそ、武士の一騎打ちを愚弄する卑怯者であろうが!」
逸見の声には、怒りというよりも苛立ちが滲んでいた。彼は、武藤の言葉に反応しながらも、戦況が自分に不利になっていることを感じ取っていた。武士の誇りを盾にしても、戦場では結果がすべて。逸見は、武藤の動揺を見逃さず、次の一手を狙っていた。




