巡検士試験受験(2)
妖森の中を、気配を殺しながら探して歩いた。
小動物のそばを歩いても、小動物は気づきもせずに毛繕いをしている。よし。まだまだ修行した腕はなまってはいないようだね。
そうしていると、前方で叫び声とも鳴き声ともつかない声が聞こえた。
〈あれかあ〉
〈人面犬、初めて見たわ。スマホがあればねえ〉
〈最近はAIで合成もできるから、信じてもらえないわよお、きっと〉
まあ、そうだろうねえ。
私はがっくりと肩を落としてから、木の間に見える、人の顔をした四つ足の動物がサルのような生き物に吠えかかるのを見た。
サルのようなものは木の上から歯をむいていたが、人面犬のようなものが届かないことをわかっているようで、木の実をちぎって投げつけ、笑い声を残して木から木へと飛んで逃げていった。
「うわああ!! わおう!! わん!!」
やっぱり「わん」と鳴くのか、と変なところに感心していたが、今が好都合とねねとよりこに合図を送ると、二人もこちらを見て、軽く頷いた。
人面犬の大きさは、大柄な大人が四つん這いになったくらいだろうか。犬の特性が生きているなら、足は速いだろうし、耳も鼻もいいのだろうし、噛む力も強いのだろう。
まず、尖った棒を人面犬の後頭部に投げつける。
その瞬間、人面犬は向きを変えて、棒手裏剣は人面犬のこめかみに突き刺さった。
「ぎゃうっ!?」
鳴いてよろめく。
それを見届けることはせず、風のように素早く、音もなく接近して、喉をかききった。
人面犬はほとんど何が起こったかわからないまま絶命した。
その死体を見下ろして、私たちは言った。
「これ、一頭仕留めたらそのたびに町に戻って教会に行かないとだめなわけ?」
面倒くさいという気分が出てしまっていただろう。
「マンガで、何か裏技みたいなやつってないの?」
よりこがねねに訊くと、ねねは困ったような顔で首を傾げて言った。
「確か、収納バッグとか収納庫とかいうものが、出てくる場合もあるのよねえ」
私とよりこが首を傾げる番だった。
「収納庫?」
日本の庭にもあるし、そこら中で売っていた。
「収納バッグって、バッグは荷物を収納するもんでしょ?」
どういうものだろうか?
ねねはううんと考えて言う。
「見かけの大きさを無視したくらいたくさん入るのよねえ。中には、入れたときのままの状態が続くっていうのもあるのよお」
私もよりこも想像してみた。
「それ、便利じゃない?」
「それがあれば、買い物も猟も大助かりだよ」
「あったら欲しいわよねえ」
私たちはそれがあればさぞや便利だろうと想像していたが、今はないので、そんなことをしている場合ではない。
人面犬を担ぎ、教会へと一旦帰ることにした。
ギルドへ戻る途中、ニワトリもどきを見つけた。
「あ」
向こうも、「あ」という顔に見えた。
素早くよりこが棒手裏剣を正面から投げつけると、それはニワトリもどきの額を突き抜けるようにして刺さり、ニワトリもどきはどうと倒れた。
「一発ね」
「脳の位置もわかっていたからね」
「ラッキーだったわあ。でも、運ぶのが重くなっちゃったわねえ」
私たちは嘆息して、二人で人面犬とニワトリもどきをぶら下げて一人が前で警戒するというのを、順番に交代しながら町へと歩いて行った。
教会へ二体の死体を持ち込むと、受付してくれた修道士は驚いたような顔をした。
「もう二つも?」
そう呟く。
「やっぱり、運搬方法、何とかならないかしらね」
「いちいち戻るのも面倒だ」
「そうねえ。時間の無駄よねえ」
修道士は我に返り、納品の確認を始めながら言った。
「収納力が抜群な収納バッグもありますけど、高いですからね。冒険者でも、皆さん、お金を貯めて買うか、ポーターを雇うかですね。収納バッグを持って一人前とも言いますし、大きなチームだとポーターも所属していますしね」
そういうものなのかと内心で感心しながら、残る一体に取りかかった。
「候補はブタ人間ね」
「ブタなのか人なのか確かめないと」
「うふふ。ブタだったら、食べられるのかしらあ」
修道士が、ぼそりと呟いた。
「嘘だろ。この短時間で二体? 本当に七十三歳?」




