第五十話 ギルド職員
「さて、本日の面談は──」
「依頼人、いませんよ」
カウンターで帳簿をめくっていたミーナが、くるりと椅子ごとこちらを向く。
「今日は予約なしの日か」
「たまにありますよね、こういう日。でも、最近はほとんど埋まってたから、久しぶりです」
「そうか。じゃあ、さぼ……いや、書類仕事でもするか」
「さぼるって言いましたね?」
ミーナが目を細める。
ゴルザンは鼻を鳴らしてごまかした。
「……でも」
「ん?」
「ちょっと、寂しいですね」
「は?」
「なんだかんだで、ここに来てから毎日のように、誰かの話を聞いてたじゃないですか。少しずつ、顔も名前も覚えてきて……今日は静かすぎて、逆に落ち着かないっていうか」
「……ふっ」
ゴルザンがマグを持ち上げる。
「染まってきたなあ、ミーナも」
「どういう意味ですか」
「昔の新人ちゃんだったら、“今日は暇ですね!”って言って、張り切って帳簿の棚卸しでも始めてたぞ」
「そんな黒歴史、掘り返さないでください……」
ミーナは頬を膨らませたが、その表情もすぐに和らぐ。
「でも……こうして、いろんな人の話を聞いて、仕事を紹介して、喜んでもらえることがあるって、すごくいいなって思うようになりました」
「ギルド職員、向いてるってことだな」
「はい!」
即答。
「この仕事って、やっぱり、人の人生に関わるじゃないですか。重いなって思うこともあるし、自分の判断が間違ってたらどうしようって悩むこともありますけど……」
「でも、それでも、やるんだろ?」
「はい」
ミーナはまっすぐにうなずいた。
「……ミーナ」
「はい?」
「今日、俺たちのギルドに求人が一件、来てる」
「えっ、さっき“予約なし”って……」
「求職者じゃない。求人票の話だ」
ゴルザンは机の引き出しから、一枚の紙を取り出した。
「ギルド本部からだ。“次年度、本部職員候補を募集予定。希望者は各支部から推薦を”──だとよ」
「へえ……って、えっ!? それって……!」
「そう。うちからも、“誰か”を推薦しなきゃならん」
ミーナが、ぎゅっと口を結ぶ。
「──私は、ここに残ります」
「……そうか」
「まだ、学ぶことも、教わることもたくさんあります。私にとって、この場所が、最初の現場で、いちばん大事な場所ですから」
「……そうか」
もう一度、同じ言葉。
だが、さっきより少しだけ、声に温もりがあった。
「ま、でも──いずれはそういうのも、ありかもな」
「はい。いつか、自信を持って“ギルド職員です”って言えるようになったら、その時は」
「……推薦してやるよ」
「ふふっ、期待してます!」
カララン、と扉の鈴が鳴った。
「おっ、来たな」
「本日の、真の一件目?」
「さあ、どんな話を聞けるか……だな」
──第二十一等級冒険者ギルド・ラストリーフ支部。
今日も、小さな出会いが、人生を変える。




