第二十三話 引退レーサー
「うぉ、今日は“魔導バイク”って書いてあるぞ。競技経験者か?」
朝イチで届いた登録カードを見て、ゴルザンが眉を上げた。
「え、あの魔導バイクって……あの、ぶおーん!って高速で走る、あのやつですか!?」
「ぶおーん……まあ、そうだ」
ミーナの擬音に苦笑しつつ、二人がざわめいていると、扉の鈴が鳴った。
カララン──
入ってきたのは、無骨な黒のジャケットに身を包んだ青年だった。
年は二十代前半。姿勢は良いが、左足が義足になっているのが一目でわかる。
「カイン=バルロックです。……一応、求職という形で」
淡々とした声。だが、その中に、わずかに揺れるものがあった。
「お話、伺いますね。今までのお仕事は……魔導バイク競技のライダー、で合っていますか?」
「元、です。プロライダーでした。去年の事故で引退しました」
あくまで静かに、彼は言った。
「右コーナーで接触して……吹き飛ばされて、脚を……まあ、こうなったわけで」
「……大変だったんですね」
ミーナがそっと目を伏せた。
「事故のあと、しばらくはスポンサーの支援もあって、リハビリもしたんですが……復帰は無理だとわかってから、なにをすればいいのか、わからなくて」
「教官とか、整備士とか、そういった道も考えなかったのか?」
ゴルザンが尋ねると、カインはかすかに首を横に振った。
「俺は……“走る”ためにバイクに乗ってたんです。教えるってのは、なんか違うというか……」
「走ることに未練があるんですね」
ミーナの言葉に、カインは少しだけ口元を歪めた。
「……未練なんて、ないって思いたいですよ。でも、“走ってた頃の自分”が、まだどこかにいる気がして」
沈黙が落ちた。
その沈黙を、ゴルザンが破る。
「なあ、パラ魔導競技って知ってるか」
「……パラ?」
「片足の制御、義足との同調、バランス感覚を競う部門がある。魔導ボード系とか、魔力操作系の座位操縦種目とか。大会関係者が今、人材探してるって話を聞いたことがある」
「……それは、俺に“また走れ”ってことですか?」
「違うな。走るかどうかはお前が決める。
でもな、“終わった”と思ってるのは、お前だけかもしれねぇぞ」
その言葉に、カインの表情がわずかに揺れた。
──数日後。
ギルドからの紹介状を手に、カインは都市競技連盟の窓口へと向かった。
***
後日、ミーナのもとに一通の報告が届いた。
「決まりました! カインさん、“パラ・エアライド部門”の候補選手として採用されたそうです!」
「へぇ、やるじゃねえか」
「今度は、義足と魔導浮力で、空中バランス競技に挑戦するそうです!」
「また“走る”のか」
「いえ、“飛ぶ”そうです!」
ミーナがぱっと笑う。
「なんか、すごく嬉しいです。……怪我をしても、終わりじゃないって」
「そうだな。終わりってのは、誰かに言われるもんじゃねぇ。自分で決めるもんだ」
ゴルザンがぼそっと呟いたその横顔は、少しだけ懐かしそうに見えた。




