表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/62

第二十三話 引退レーサー

「うぉ、今日は“魔導バイク”って書いてあるぞ。競技経験者か?」




朝イチで届いた登録カードを見て、ゴルザンが眉を上げた。




「え、あの魔導バイクって……あの、ぶおーん!って高速で走る、あのやつですか!?」




「ぶおーん……まあ、そうだ」




ミーナの擬音に苦笑しつつ、二人がざわめいていると、扉の鈴が鳴った。




カララン──




入ってきたのは、無骨な黒のジャケットに身を包んだ青年だった。




年は二十代前半。姿勢は良いが、左足が義足になっているのが一目でわかる。




「カイン=バルロックです。……一応、求職という形で」




淡々とした声。だが、その中に、わずかに揺れるものがあった。




「お話、伺いますね。今までのお仕事は……魔導バイク競技のライダー、で合っていますか?」




「元、です。プロライダーでした。去年の事故で引退しました」




あくまで静かに、彼は言った。




「右コーナーで接触して……吹き飛ばされて、脚を……まあ、こうなったわけで」




「……大変だったんですね」




ミーナがそっと目を伏せた。




「事故のあと、しばらくはスポンサーの支援もあって、リハビリもしたんですが……復帰は無理だとわかってから、なにをすればいいのか、わからなくて」




「教官とか、整備士とか、そういった道も考えなかったのか?」




ゴルザンが尋ねると、カインはかすかに首を横に振った。




「俺は……“走る”ためにバイクに乗ってたんです。教えるってのは、なんか違うというか……」




「走ることに未練があるんですね」




ミーナの言葉に、カインは少しだけ口元を歪めた。




「……未練なんて、ないって思いたいですよ。でも、“走ってた頃の自分”が、まだどこかにいる気がして」




沈黙が落ちた。




その沈黙を、ゴルザンが破る。




「なあ、パラ魔導競技って知ってるか」




「……パラ?」




「片足の制御、義足との同調、バランス感覚を競う部門がある。魔導ボード系とか、魔力操作系の座位操縦種目とか。大会関係者が今、人材探してるって話を聞いたことがある」




「……それは、俺に“また走れ”ってことですか?」




「違うな。走るかどうかはお前が決める。

でもな、“終わった”と思ってるのは、お前だけかもしれねぇぞ」




その言葉に、カインの表情がわずかに揺れた。




──数日後。




ギルドからの紹介状を手に、カインは都市競技連盟の窓口へと向かった。




***




後日、ミーナのもとに一通の報告が届いた。




「決まりました! カインさん、“パラ・エアライド部門”の候補選手として採用されたそうです!」




「へぇ、やるじゃねえか」




「今度は、義足と魔導浮力で、空中バランス競技に挑戦するそうです!」




「また“走る”のか」




「いえ、“飛ぶ”そうです!」




ミーナがぱっと笑う。




「なんか、すごく嬉しいです。……怪我をしても、終わりじゃないって」




「そうだな。終わりってのは、誰かに言われるもんじゃねぇ。自分で決めるもんだ」




ゴルザンがぼそっと呟いたその横顔は、少しだけ懐かしそうに見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ