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第二十一話 どうしても集まらないっ

「……今日もまた返ってきましたよ、これ」




ミーナは掲示板から剥がした求人票を手に、ため息まじりにカウンターへ戻ってきた。

ゴルザンはいつものマグカップ片手に、書類棚の上でぐでっと座っている猫のような体勢だ。




「ん? 例のやつか?」




「はい、“古文書管理専門員”。昨日の昼に張り直したばかりなのに……」




「また誰にも見られなかった?」




「正確には“見た上で即スルー”ですね。目は通してるんですけど、読み終わる前に溜息ついて戻されてます」




「おー……あー……」




ゴルザンは鼻の下をこすりながら、貼り紙をひったくるようにして目を通す。




「やっぱり……これ“現場からの要望ぜんぶ盛りました”系だ」




「何ですかそれ?」


 


********************

【求人票 抜粋】


【職種】古文書管理専門員(資格必須)

【業務内容】

・古文書の仕分け、修復、魔力封印の再設定

・カウンター窓口での案内(来客対応)

・施設内の保管室の整理、棚卸、軽修繕

・データ入力および帳票作成

・隣接倉庫の備品管理

・周辺巡回(封印結界の安定確認)

********************

 



「あれ?なんだか……資格、要るんですよねこれ?」




ミーナが真剣な顔で言う。




「文書修復士一級って、三年以上の実務経験が必要な国家資格だぜ? それでこの“なんでも係”みたいな内容だとよ──そりゃ逃げるって」




「でも、書き方は悪くないと思いますよ!


 “やりがいのある職場です”


って書いてありましたし──」




「そりゃ“やりがい”はあるよ。全部お前に丸投げされるからな」




「…………」


 


「でも、必要な仕事なんですよね……?」




ミーナがポツリとつぶやく。

求人票に並んだ仕事内容ひとつひとつを指で追いながら、どれも意味がある作業なのだと真面目に受け止めている。




「必要かどうかじゃねえ、“誰にやらせるか”だ」




ゴルザンはカウンター奥から別の求人票を引っ張り出す。

こちらは保管施設の清掃専門職。給与はやや低め、資格不要、だが業務は明確に“掃除のみ”。




「こっちはさ、やることが決まってる。だから人が来る。

 この古文書のやつは“専門職なのに、オールラウンダーを求めてる”のがバレバレなんだよ。履歴書が届かねえ理由は、そこ」




「…………つまり、“全部盛るな”ってことですか?」




「そう。現場からの『これもお願いできたらいいな』って要望、

 ぜんぶ丁寧に書いた結果、誰も来なくなる。よくある話だ」


 


ミーナは顎に手を当て、何かをぐるぐると考えているようだった。

そして、目をぱちっと見開いた。




「……だったら! 分けませんか、業務内容!」




「分ける?」




「はい! 文書修復を本職とする人に“集中してもらえる環境”を整えて、

 補助作業は別職種で募集するんです。“修復士アシスタント”とか!」




「──おぉ。やるな、新人ちゃん」




「もうミーナって呼んでるくせに……」


 


***




翌週、張り直された新しい求人票にはこう書かれていた。


【職種】古文書修復士(資格必須)

【業務内容】修復作業および分類/補助職が作業サポートあり

【補助職同時募集】

窓口案内・備品補充・簡易データ入力など


 


「ほらな。人、来ただろ?」




「うわっ……本当だ、応募2件も来てる!」




カウンター越しに応募票を見たミーナが思わず声を上げた。

ゴルザンはマグを傾け、どや顔でうなずく。




「求人票ってのはな、ターゲットを絞って、

 “なにを諦めるか”を決めたやつが勝つんだよ」




「……諦める、ですか?」




「全部求めたら、誰にも求められねぇってことだ」


 


ミーナ、社会人1年目。

またひとつ、“働く側と雇う側のズレ”を学んだ日だった。

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