第二十一話 どうしても集まらないっ
「……今日もまた返ってきましたよ、これ」
ミーナは掲示板から剥がした求人票を手に、ため息まじりにカウンターへ戻ってきた。
ゴルザンはいつものマグカップ片手に、書類棚の上でぐでっと座っている猫のような体勢だ。
「ん? 例のやつか?」
「はい、“古文書管理専門員”。昨日の昼に張り直したばかりなのに……」
「また誰にも見られなかった?」
「正確には“見た上で即スルー”ですね。目は通してるんですけど、読み終わる前に溜息ついて戻されてます」
「おー……あー……」
ゴルザンは鼻の下をこすりながら、貼り紙をひったくるようにして目を通す。
「やっぱり……これ“現場からの要望ぜんぶ盛りました”系だ」
「何ですかそれ?」
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【求人票 抜粋】
【職種】古文書管理専門員(資格必須)
【業務内容】
・古文書の仕分け、修復、魔力封印の再設定
・カウンター窓口での案内(来客対応)
・施設内の保管室の整理、棚卸、軽修繕
・データ入力および帳票作成
・隣接倉庫の備品管理
・周辺巡回(封印結界の安定確認)
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「あれ?なんだか……資格、要るんですよねこれ?」
ミーナが真剣な顔で言う。
「文書修復士一級って、三年以上の実務経験が必要な国家資格だぜ? それでこの“なんでも係”みたいな内容だとよ──そりゃ逃げるって」
「でも、書き方は悪くないと思いますよ!
“やりがいのある職場です”
って書いてありましたし──」
「そりゃ“やりがい”はあるよ。全部お前に丸投げされるからな」
「…………」
「でも、必要な仕事なんですよね……?」
ミーナがポツリとつぶやく。
求人票に並んだ仕事内容ひとつひとつを指で追いながら、どれも意味がある作業なのだと真面目に受け止めている。
「必要かどうかじゃねえ、“誰にやらせるか”だ」
ゴルザンはカウンター奥から別の求人票を引っ張り出す。
こちらは保管施設の清掃専門職。給与はやや低め、資格不要、だが業務は明確に“掃除のみ”。
「こっちはさ、やることが決まってる。だから人が来る。
この古文書のやつは“専門職なのに、オールラウンダーを求めてる”のがバレバレなんだよ。履歴書が届かねえ理由は、そこ」
「…………つまり、“全部盛るな”ってことですか?」
「そう。現場からの『これもお願いできたらいいな』って要望、
ぜんぶ丁寧に書いた結果、誰も来なくなる。よくある話だ」
ミーナは顎に手を当て、何かをぐるぐると考えているようだった。
そして、目をぱちっと見開いた。
「……だったら! 分けませんか、業務内容!」
「分ける?」
「はい! 文書修復を本職とする人に“集中してもらえる環境”を整えて、
補助作業は別職種で募集するんです。“修復士アシスタント”とか!」
「──おぉ。やるな、新人ちゃん」
「もうミーナって呼んでるくせに……」
***
翌週、張り直された新しい求人票にはこう書かれていた。
【職種】古文書修復士(資格必須)
【業務内容】修復作業および分類/補助職が作業サポートあり
【補助職同時募集】
窓口案内・備品補充・簡易データ入力など
「ほらな。人、来ただろ?」
「うわっ……本当だ、応募2件も来てる!」
カウンター越しに応募票を見たミーナが思わず声を上げた。
ゴルザンはマグを傾け、どや顔でうなずく。
「求人票ってのはな、ターゲットを絞って、
“なにを諦めるか”を決めたやつが勝つんだよ」
「……諦める、ですか?」
「全部求めたら、誰にも求められねぇってことだ」
ミーナ、社会人1年目。
またひとつ、“働く側と雇う側のズレ”を学んだ日だった。




