閑話休題 それぞれの印象
──入職、初日。
静かな事務所に、陽光が差し込んでいる。
机の上にはまだ封も切られていないファイル。
カウンターに並ぶ、どこか古びた椅子。
床の一部には、いつからあるのかもわからない染み。
その中で、ミーナは固まっていた。
(えっ、嘘。ここ……ホントに配属先……?)
ギルドの“支部”って聞いた時は、てっきり忙しい現場だと思っていた。
けれど、目の前のギルドマスター──ゴルザンと名乗った男は、
机に足を乗せ、ぬるくなったマグを傾けながら言った。
「……ん。自己紹介、聞こえた。よろしく」
その言葉とともに、目が合った。
けれど、その目はどこか死んだ魚のようで──
(えっ、ギルマスって、やる気……ゼロ!?)
不安しかなかった。
ここに配属された理由もわからなかった。
“エルフの新人”──ただそれだけで、どこか適当に放られたような気がした。
(……私って、“期待されてない”のかも)
──その頃のミーナは、まだ“ギルド”の現実を知らなかった。
***
一方、ゴルザンはその日の夜。
誰もいないギルド事務所で、ミーナの履歴書を読み直していた。
セントフロリア高等学院卒。
魔導理論・職能適性学専攻。
実技研修評価は優秀。──ただし、現場経験は皆無。
「ふーん……」
マグを置きながら、低く息を吐いた。
「……また、“育ちのいい箱入りさん”か」
本部の意向も知っていた。
エルフは長命種ゆえ、ちょっとこじらせるとすぐ辞める。
だから“辺境の現場で様子を見よう”という──いつもの雑な判断。
「続いても三ヶ月ってとこだな」
正直、期待はしていなかった。
現場での泥臭さも、焦げた空気も、彼女には似合わないと思っていた。
けれど、翌週。
ミーナは黙々と配属初日の記録を整理していた。
その次の週も、誰に言われるでもなく問い合わせ対応メモをまとめていた。
「……ん?」
気づけば、毎朝ちゃんと出勤してくる。
やけに気合いが入っている。
(……案外、しぶといかもな)
***
──数か月後、二人で軽く酒を飲む夜。
ふとした話題から、そんな“最初の頃”の話になった。
「私……最初、“期待されてないんだ”って思ってました」
「そりゃ……最初は、俺も“続かねぇ”と思ってたよ」
「ひどっ」
ミーナがむくれた顔をしながらも、どこか懐かしそうに笑った。
「でも──ギルマスが“任せてくれた”から、
私、ちょっとずつ“自分の場所”って思えるようになったんです」
「……ミーナ」
「はい?」
「これからも、“まっすぐな道”作ってこうぜ。俺たちなりの」
「……はいっ!」
“すれ違い”だった最初の一歩は、
今や、確かな“信頼”に変わりつつあった。




