表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/62

第十八話 常に全速力

「さあミーナ、今日も元気に──朝の体操!」


 


ゴルザンが唐突に立ち上がって、謎のポーズを決める。


 


「えっ、そんな習慣ありましたっけ……?」


 


「上、上、下、下、左、右、左、右、BA!」


 


「だからBAって何なんですか!」


 


「わかる人にはわかる」


 


「説明放棄、やめてください!!」


 


ミーナが半分呆れた声を上げたその瞬間、

ギルドの扉が──


 


バァンッ!


 


「おはようございます!!! 求人、まだありますか!!?」


 


風とともに飛び込んできたのは、汗だくの青年だった。


 


「……今日の依頼人か?」


 


「え、え、早くないですか!? 時空歪んでます!?」


 


 


***


 


「名前は、カイン=ガロットです!!」


 


既に椅子に座っても、息は上がったまま。


 


「はい、よろしくお願いします。ご出身は──」


 


「南の港町、コルド! 走ってきました!!」


 


「……えっ、えぇ!?」


 


「得意なのは、早口読み上げと、高速移動です!!

あと、“多少のミスなら巻き返せる”って、よく言われます!!」


 


「褒めてるんでしょうか、それ……?」


 


 


カインはとにかく、速かった。


話すのも、動くのも、記入も、リアクションも。


でも──


 


「えーと……これ、希望職種“農業”ってなってますが……?」


 


「はいっ! 一昨日までは“配送”で、その前は“飲食”でした! 全部、全力でやってます!」


 


「……えっと、続いてる仕事は?」


 


「ありません!! ぜんぶ、やりきって終わりました!!」


 


 


後ろで聞いていたゴルザンが、ため息交じりに呟いた。


 


「……やべぇやつ来たな。頑張ってんのに、空回るタイプだ」




***




「頑張ってるのに、どうしても失敗しちゃって。

でも、止まると……なんか、ダメな気がして。だから、とにかく走ってて……」


 


カインの声は、思ったより静かだった。


 


 


「なあ、カイン」


 


ゴルザンが珍しく、真正面から名前を呼んだ。


 


「お前、“速くてすごい”って思われたいわけじゃないよな。

“頑張ってること”を、ちゃんと認めてほしいだけだろ」


 


「……」


 


「でもな。速さは、使い方を間違えるとただの“事故”になる。

お前は方向転換が下手なんだよ。スピードだけあっても、カーブで曲がれなきゃ壁に突っ込む」


 


 


「……でも、止まるの怖いっす」


 


「止まらなくていい。止まらなくていいから、“直線の仕事”をすりゃいい」


 


 


***


 


数日後。

カインは、緊急伝達専門の“走り屋”として登録された。


 


ギルドで扱う依頼の中には、

「ここの書類を三軒先の部署に即時届けてくれ」

「搬入ミスを急ぎ別支部に伝えてほしい」といった**“人力伝令系”の仕事**もある。


 


しかも、ギルド内では短距離伝達・急送依頼が絶えない。


 


「彼、速いけどミスしないよな」

「間違っても自分で気づいて戻ってくるから助かる」


 


──それは、ゴルザンの言った“直線の仕事”だった。


 


 


「仕事って、止まらなくてもいいんですね……」


 


報告に来たカインが、ちょっとだけ照れたように言った。


 


「俺、向いてるって、初めて言われました」


 


「全速力も、“ちゃんと向いた方向に”走れば、武器だ」


 


ゴルザンのその言葉に、ミーナもにこりと笑った。


 


「……でも、せめてドアは静かに開けてくださいね? 毎回すごい音しますから!」


 


「はーい!! 次からは“静かに全速力”で頑張ります!!」


 


「……なんか矛盾してません!?」


 


 


ギルドの扉は、また全力で開かれた。


でもそこにいたのは、

“ただ走るしかなかった”男ではなく、

“走る先を見つけた”ひとりの仕事人だった。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ