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田中梅子(30)、悪役令嬢になります! ~読み専転生者の夢の乙女ゲーライフ  作者: りすこ
第三章 運動会。改め、借り物競争バトル

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アルフレッドの独白2

ダークよりの話です。

アルフレッドのイメージが崩れる恐れがあります。

そして、かなり突飛な設定も出てきます。

この世界の根底にある設定ですが、無理だなぁと思ったらUターンをお願い致します。

「アルはさ、何でもできるのに、何一つ見えてないよね」


 そうエディに言われたのはいつだったか……


 たぶん、繰り返す前だ。


 ジェシーへの思いをもて余して、好きと気づかなかった一度目の学生時代に言われた。


 どういう意味だと聞いたら、エディはただ笑って言った。


「そのままの意味だよ」と。



 ◇◇◇


 一度目の人生。それは今とは違う箇所が幾つかある。その頃の俺とエディは双子ではなかった。エディは五歳年上の兄。顔はよく似てはいた。性格も今と同じ、属性も同じだった。


 ただ、年齢だけが今と違っていた。



 一度目の学生時代、俺はジェシーと婚約したばかりだった。きっかけは親同士の引き合わせだ。


 当時、俺の家とジェシーの家で共同開発が行われた。新しい魔法道具の開発だ。思念伝達を魔法道具を介して見えない相手にも送ろうとしていた。


 理論には反した道具だが実用されれば便利なものになる。転移スポットも俺とジェシーの家で先々代に開発されたものだ。再び集まり新しい道具の開発に親たちは意気揚々としていた。


 俺は国唯一の”在”属性。両親は違った。この属性は俺の家でも稀にしか生まれない。貴重な存在と言われて続けてきた。それは、俺自身が魔法の塊みたいなものだからだ。理論が分かれば具現化できる。理に反した存在。それは俺の体の一部でも同じだった。血だ。俺の血を魔法道具に与えれば同じように再現できた。だから、新しい魔法道具の開発は俺の血が使われた。


 特別な存在というものは、隠され畏怖の念を抱かれやすい。俺もまた特別が故の不条理にさらされた。呪いとか、人ではないものとか言われたな。だからだろうか。俺は根本的に人を信用していない。いや、もっと直接的な言い方をすると、馬鹿にしていたんだな。


 なぜ、こんなこともできないのか。

 エディ以外は馬鹿ばかりだ。

 その考えは俺を放漫にした。


 両親に連れられてジェシーの家に行った時に、ジェシーの姿に驚いた。


「初めまして、ジェシカ・セルベックです」


 黒く豊かな髪に少しつり上がったエメラルドグリーン瞳には強い意思が見えた。きつい印象の目元のわりに彼女の笑顔は穏やかだった。


 一目見て……だったと思う。


 この人が欲しいと感じた。

 陳腐な表現だが、俺は運命を信じたくなった。



 その衝動は親に勘づかれ俺たちは婚約者となった。表向きは家同士の政略的なものに見られたが、俺は……少なくとも俺はそんな契約的なものは感じていなかった。


 キレイなものでもない。

 自分が自分でなくなるような泥まみれの感情だ。それが最初は気持ち悪くて嫌悪感しかなかった。


 側にいると感情が掻き乱れる。離れたいのに、離れると不安定になる。俺は困惑した。


 幼かった俺はそれが「好き」だとは気づかなかったんだ。



 そんな俺だったから、ジェシーに対しては冷たかった。

 婚約者になったのに、浴びせる言葉はいつも裏腹だった。


「どうせ、政略的な婚約だ」


 二言目には傷つけるようなことばかり。

 ジェシーが小さく傷つく顔を見るたびに心が血を吹き出すのに、俺は酷く満たされていた。傷ついた顔が嬉しくて、俺のことでジェシーが埋まっていくのが快感だった。


 俺は本当に最低なヤツだったんだ。


 それでも、ジェシーは健気だった。文句も言わずに俺のそばにいた。怒りもせず、感情をむき出しにもしない。静かに俺を受け入れた。


 それがますます俺を苛立たせた。




 ジェシーは時折、不思議な話をした。


「尊敬している人なのです」


 そうジェシーが話す人物の名前は”ウメコ・タナカ”という名前だった。


 この国では聞いたことのない名前の人物だ。どこの国の人か気になって聞いてみたが、ジェシーは朗らかに笑うだけだった。


 ジェシーはその”ウメコ・タナカ”の影響なのか令嬢らしくない振る舞いをするようになる。


 魔法で作ればいいのに、わざわざ手で包丁を持ち、料理をした。怪我をした指先を見ては、冷たく言ったこともある。


「できないことをするな」


 ただ、心配だと言えばよいものをその時の俺は一言がいつも足りなかった。



 ジェシーと居ると苛立つのに離したくなかった。だから、学園を卒業すると俺たちはすぐ結婚をした。


 俺はジェシーが離れないと対外的に認められて心が落ち着いていった。少しずつだったが、ジェシーを気遣えるようになっていった。


 まぁ、最初が酷いからな。

 それが多少マシになった程度だ。


 俺はどこまでも素直じゃなかった。

 彼女を手放しに愛する行為を怠っていた。




 だから。


 ジェシーの心が離れていったのは仕方ないことなんだ。



 それに気づいたのはマルクスとの密会だった。


 ラリエ国の次期国王としてマルクスと出会ったのは王家が開催されたパーティーだったと思う。


 当時のマルクスとセナは従者関係が逆転していた。年齢は変わらなかったが、マルクスにが次期国王候補で、セナは従者だった。彼は眼鏡をかけ、黒髪になっていた。セナは特異体質のため、力を抑制させられていた。王家の血筋であることは変わらないが、彼は完全に国王候補ではなかった。それは、今も変わらないか……


 そんな二人と出会ったのは先ほど言ったパーティーでだ。開発がうまくいった思念伝達の魔法道具のお披露目を兼ねた晩餐会だった。


 俺は相変わらずジェシーに対しては度量が狭かったから、いつでも彼女と連絡が取れるように魔法道具を渡していた。一度、無くしてしまったと言われてそう思い込んだが違った。ジェシーは魔法道具の一つをマルクスに渡していた。その道具を介して二人は密談を繰り返していたらしい。愛の囁きと共に。



 ――あの日の夜。海をバックに俺は二人を見つけた。


 ジェシーに呼び出されて行った先で、二人に出会った。マルクスは今と違って本来の姿を見せていた。鮮やなオレンジ色の髪と金色の瞳。――ラリエ王家の証をその姿に宿していた。


「なぜ、マルクスと共にいる」


 静かに問いかけると、ジェシーはマルクスと密談していたことを話した。


「わたくしは夫がいながら、マルクス様に心を奪われました。どうぞ、離縁してください」


 頭を下げるジェシーに、腹の底から怒りが込み上げた。


 離縁?

 離縁だと?

 心を奪われたから?


 はっ。


 なんの冗談だ?


 ――ふざけるな。君は俺のものだ。誰がなんと言おうと、俺のものだ……!




 俺の中で獣が生まれる。

 理性を無くした獣が。


 あぁ、理性を無くすとは、なんとも心地よいものなんだな……


 そうか。


 最初っからこうすればよかったんだな――――





「くっ……はは。はははは!」


 昏い笑いが木霊した。俺は衝動のままに二人の元に行く。ジェシーの顔を覗き込み、ゆるり口元に弧を描く。


「――だから?」

「…………」

「その程度のことで俺が君を解放するとでも思ったのか? ……笑える冗談だ」


 ジェシーは不快そうに眉根をひそめた。その手を掴み捕らえようとした時、マルクスがさっと前に出る。


「今のは冗談です! 本気にしないでください!」

「マルクス!」


 マルクスは俺に向かって意味不明な言葉を並べた。


「奥方様は夢にとりつかれています! 強いストレスから自分を夢の住人だと思い込んでいます! これ以上、負荷をかけたら彼女は自分を保てなくなるんです!」

「やめて、マルクス! 違うの! あれは夢なんかじゃないの!」


 ジェシーはまたあの人物の名前を叫ぶ。


「ウメコは私なの! 彼女と私は同じなのよ!!」


 半狂乱で叫んだ言葉に嫌悪した。


 あぁ、ジェシーが言っていた尊敬する人物か。胸糞悪い。実に不快だ。


「……またウメコとかいう奴の話をしていたのか? 困った子だ。尊敬しているのは構わないが、ジェシーはジェシーだろ?」


 そう言うと、ジェシーは酷く傷ついた顔をした。


「下らないことを話すな。さっさと帰るぞ」


 その一言に、マルクスが激怒して俺の胸ぐらを掴む。


「奥方様は様子がおかしいじゃないですか! 夫婦なのにそんなことも分からないのですか!!」


 ――その言葉は今のセナにも言われたな。”婚約者なのにそんなことも分からないのか”と。


 ……まぁ、その話はいい。


 今なら分かるが、当時の俺は言っている意味を理解していなかった。……いや、理解するのを放棄した。


 ただ、ただ、マルクスという存在が不快だったから。


「邪魔だ。手を離せ」


 魔法でマルクスを振りほどく。呆気ないほど簡単に彼は地面に叩きつけられた。


「マルクス!」


 ジェシーがマルクスに駆け寄った。そして、俺を睨み付ける。


「フレッド……いえ、アルフレッド様。わたくしは戻りません。わたくしは、もう、あなた様を愛していないのですから」


 そう言って、ジェシーはマルクスの頬に顔を近づけた。


 交わされる唇を目の前に俺は獣となった。



「――離してください!」


 それから、どうしたのかよく覚えていない。


「離して! 嫌っ! フレッド!」


 俺は屋敷にジェシーを連れて帰ると強引に口づけを交わした。衝動的に、深く。


 まるで獣だ。本当に。


 口づけを終えるとジェシーは言った。憎悪の目で。



「――最低のキスね」



 ここから俺たちは破綻の道をゆくことになる。




 俺はジェシーを離さなかった。

 離縁だけはさせなかった。


 屋敷に閉じ込め、彼女を外に出さなくした。彼女の心の病を言い訳に監禁した。


 俺はどこまでも身勝手だった。



 彼女はだんだんと心が病んでいった。


 そして、”ウメコの所に行きたいと”繰り返し言うようになる。


「この世界は何でも叶えられるのに、なんて不自由なんでしょう。ウメコの世界では不自由なのに、とても自由なんですよ。心が自由なんです」


 夢に浮かされながら、ジェシーは繰り返した。俺はやめろと言っても彼女はただ口元に笑みを浮かべるだけだった。


 そして、ジェシーは部屋に籠って繰り返し”ウメコの世界”を絵に描いた。


 見たことのない世界。

 見たことのない建物。

 見たことのない食事。


 何かに取りつかれたようにジェシーは絵を描いた。


「これは……?」

「ザルソバという食べ物ですの。とっても美味しいのですのよ。思い出深い味だとウメコが言っていました。いつかわたくしも食べてみたいものです」


 まるで少女のように笑う彼女を見て、俺は何も言えなかった。


 時がたち、獣が息を潜めた頃、俺はジェシーと向き合うようになった。


 彼女が言った。ザルソバというものを食べせたくて、形状や味を聞いた。ウメコの話をする時だけ、ジェシーは穏やかで生気を取り戻していた。だから、会話する時はウメコの話をした。


 色んな技術を頼ってザルソバというものを作ってみた。ジェシーの絵を元に食器も用意した。だが、ジェシーは何度口にしても同じことを言った。


「違う……こんな味ではないの」


 俺を見ず、ただ遠くを見つめるだけのジェシーに俺は絶望感にうちひしがれていた。



 あの小人アメもそうだな。あれもジェシーが言い出したことだ。


「ねぇ、アルフレッド様。人をこのポケットに入るくらい小さくできるでしょうか?」

「……それは理に反している。無理だろう」

「そうですか……ふふっ。ウメコが夢中なドラマの一つなのですよ。小人になるなんて、なんて夢があるのでしょう。わたくしも小さくなってみたいものです」


 その当時は叶えられなかった。だから、俺は今のジェシーにはその願いを叶えたかったんだ。




 一度、綻びもつれあった糸は元には戻らない。


 切るしかないのに、俺は今さら足掻いた。


 でも、元には戻らなかった。


 俺は酷く後悔した。


 もっとジェシーに優しくしていれば。

 最初から惜しみ無い愛を捧げていれば。


 もっと、素直になっていれば……


 その思いは日に日に強くなった。



 ある日、憔悴した俺はエディに尋ねた。


「エディ兄様、時間を巻き戻せると思いますか?」


 エディは俺たちの事情を知っていた。


「……やれなくはないかな。俺とアルの力があれば」


 その言葉に一縷(いちる)の光を見た。


「でも……思うに、繰り返すだけなんじゃないかな。魔法は経験に基づく再現だから……もし、時を戻してもまた繰り返すだけだと思うけど……」


 それでも、よかった。

 もし、あの出会った頃に戻れるのなら。

 再びやり直せる可能性があるのなら。

 俺はそれにすがった。


「頼みます、エディ兄様……俺はやり直したい。彼女を……愛して、愛されたい」


 本当にそれしか望んでいない。


 彼女は俺の世界の中心だ。

 彼女がいなかったら、もう俺は生きてはいない。


 ――あぁ、本当に俺はなんなんだろうな……


 ――なんでもできる魔法使い。奇跡の力と言われたが、これは呪いだ。


 ――人とは違う力を持って生まれたくせに、俺は何一つ、手にできやしない。






 そして、あの日。


【アルフレッド様、今までありがとうございました】


 そんな置き手紙を残してジェシーは消えた。



 次にジェシーを見た時は、マルクスとミアと共に血たまりの中にいた。



 そして、俺はエディの声に導かれるまま、共に時間を巻き戻した。




 ◇◇◇



 やり直したかった。

 今度は彼女を一心に愛する男になろうと思った。


 今度のジェシーはやはり、ウメコの影響か突飛な行動を次々と起こした。それは俺が学生時代に経験しなかったことを数々やり始めた。


 俺は容認した。

 彼女がどんなことをしても怒らず受け入れようと思っていた。


 そうやって、一心に愛を捧げていればいつかきっと……



「私の本当の名前は田中梅子。この世界ではない別の世界から来たものです」



 君に愛され、愛し続けられると思っていたんだ。



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