来たるべき時 (3)
昼の十二時近く、アモンはテオドールに起こされ、床を出る。
テオドールに渡された上着を羽織って二階の寝室から階段を下り、玄関から外へ出る。
ぐるりと庭園を見渡しながら半周し、庭師のアルセイデスと何気無い会話をすると、城門を抜けて森へ向かう。
高い日を浴びて森への道を進み、森に入ると三色に分かれた樹々の木漏れ日を楽しむ。
緑の木漏れ日。
黄の木漏れ日。
赤の木漏れ日。
しばらく進み、指定席の苔生す岩に腰を下ろす。
愛用の煙草入れから忘れ草を一本。
マッチ箱からマッチを一本。
慣れた手つきでマッチをブーツにこすり点火するや、素早く口にくわえた煙草の先へと導く。
紫煙を深く吸い込み、肺を満たすと、静かに吐き出す。
いつもと変わらない見慣れたはずの森の光景。
それを時間も忘れて見つめ続ける。
そして、何本の煙草を吸い終えた頃か、日の傾いてくるのを確認すると、やおら岩から腰を上げて森を後にする。
日も暮れかけた頃に城へ戻り、再び庭園のアルセイデスと談笑する。
玄関を入り、書斎に向かうと、しばらく気に入りの書物に目を通し、時間を潰す。
ほどなく、テオドールの呼び声で夕餉の時間を知り、一階の食卓の間へと向かう。
切り分けられたパン、野草とチーズのサラダ、豚の腸詰、鹿肉と卵のスープ、林檎に野苺と山葡萄、炒った落花生の砂糖和え、加えて林檎酒。
一通りに手をつけ、林檎酒で流し込むと、満腹感と暖かな暖炉の火に眠りへと誘われる。
テオドールに上着を渡して食卓の間を出、階段を上がると寝室に入る。
ベッドの上に置かれた着替えの寝巻きへと袖を通し、ベッド脇の小物入れの中に煙草入れとマッチ箱、鼻眼鏡を外して仕舞い込むと、滑り込むようにベッドへ入り、眠りにつく。
いつもと何も変わらない一日。
いつもと何も変わらずに終わるその日。
それがアモンにとってこの城で過ごす最後の一日となった。




