来たるべき時 (1)
その日、アモンはいつもの森の散策から戻ると、玄関先でひどく険しい顔つきをして自分を迎える二人の従者を見た。
「……どうした? 二人とも、何かあったのか?」
「それはこちらの台詞です!」
テオドールが厳しい口調で言う。
「いくら鈍くても、こう何日も様子がおかしくなってたら不審に思って当然でしょ!」
「殿下、私たちに隠し事なんて水臭いですよ。どうかちゃんとお話ししてください」
玄関へ立ち塞がるようにして並び立つテオドールとアルセイデスから、ある意味、今一番聞かれたくない質問をされ、アモンはしばらく戸惑ったが、二人が予想以上に頑なであるのを見て取ると、ついに諦めたように話し始めた。
「……分かった。確かに結局は隠し通せることでもないし、全て話そう。二人とも、食卓の間に来てくれ」
そう言うと、二人の間を縫うようにアモンは玄関を通る。
その後をテオドールとアルセイデスは付き従う。
矛盾しているがこの時、二人はアモンから話を聞くことを恐れていた。
もし、アモンの口から語られることが絶望的に悪い内容であったならば、どうしたらよいだろうかと。
とはいえ、何がしか自分たちが力になれるようなことならば、力の及ぶ限りどうにかしたい。
聞きたいと思う気持ち。
聞きたくないと思う気持ち。
どちらも本心であったが、彼らはより建設的な選択に賭けた。
聞かずに、状況も理解できずに何事かが終わるのを待つよりも、真実を聞いた上でともに対策を考えたい。
もちろん、それが対策を立てられるような事柄である場合に限られるが、それでも可能性に賭けず、ただ漫然と事態の推移を眺めるよりは遥かにましだ。
少なくとも、二人はそのように結論し、アモンに問うたのである。
廊下を渡って食卓の間のドアを開けると、アモンは普段通り暖炉近くの席へ腰を下ろす。
テオドールとアルセイデスも続いて部屋に入り、それぞれ左右に分かれアモンを挟むように席へ着いた。
と、アモンは大きく深呼吸し、しばらくしておもむろに話し出した。
「お前たちにはいらん心配をさせたくなかったから、出来れば言わずに済ませたかったんだが、もうそうはいかんらしいな。二人とも、これから話すことをよく聞いてくれ」
二人が真剣な顔をして大きくうなずく。
その様子を確認すると、アモンはテーブルの一点を見つめたまま、これまでの経緯、そしてこれからの予測を詳細に語った。
「この前、アルバインがここへ訪ねてきた時、あいつから教えられたことなんだが、どうやら私を暗殺しようと画策していた連中というのは思っていたよりも性質が悪いらしい。ただ、今までこそ直接的な実力行使……まあ、覚えているだろうが城への二度の賊の襲来や、ガトックからの襲撃。こうした対処を取ってきた連中は、ひとまず片付いたようだ」
ここまで聞いて、一瞬ほっとするような表情を二人は浮かべたが、
「しかしだ」
間を開けずに話を続けるアモンに、二人は再び緊張した面持ちになった。
「これからは、奴らは大っぴらな武力行使で私を殺すことを諦めた代わり、さらに厄介な方法を取るだろうというのがアルバインの見解だ。そして私も、その見解は恐らく正しいだろうと思っている。手段は単純だが確実に、しかもまず回避は不可能。正直こちらから取れる対策は無いと言っていい」
アモンの言葉に安堵の希望が消える。
「……あの……」
「ん?」
「その……厄介な方法っていうのは、具体的にはどういうものなんです?」
アルセイデスの質問に、アモンは少し考えてから答えた。
「具体的に言えば、恐ろしく単純だ。何せこれをやられたら、手段と結果が同時に出る。つまりやられた時点で詰み。一巻の終わり。手立ては無い。だからお前たちにはその前兆をまず言っておこう」
露の間を取り、アモンが断言する。
「今後、もし誰かから何らかの誘いを受けて私が中央におもむくことになったら、その時には間違い無く、私は殺される」
無表情に言い放つアモンを見つめながら、テオドールとアルセイデスは全身が硬直した。
二人の心に深く暗い雲が立ち込める。
賭けの代償に失った希望の穴を埋めるように、絶望が彼らを満たしてゆく。




