02話
薬のせいか病気のせいかは分からないが、趣味の読書ができなくなった。
なんというか、やる気があっても意欲が無いみたいな感じ。
読みたくても読めない。
ひどく億劫に感じる。
だから最近の趣味は寝ること。
眠らなくてもただ横になって目を閉じるだけでもいい。
そうしていると何も考えなくても済むから。
そういえば最近夢を全く見なくなった。
これも薬のせいか病気のせいか。
「そこんとこどうなんでしょうか」
「うーん、意欲が湧かないってのは統合失調症の症状にあるけど、夢の方は分からないな」
前回出された分の薬がなくなったので、また病院へ来た。
「あと、寝る前に飲む液体の薬がめっちゃ苦いんですけど、どうにかなりませんか」
「ああ、エビリファイね。良薬は口に苦しという言葉知ってる? それはそういうものだから我慢して飲みなさい。水とかジュースに混ぜてもいいから」
「オレンジジュースに混ぜて飲んでるんですけど、それでも苦いです」
「しょうがない、我慢しなさい。んで、調子はどう? まだ自殺だのなんだの考えてるの?」
「軽くヘビィなこと聞きますね。………そうですね、別視点の自分が囁くというか、意見を言ってくることはありますね」
「そりゃ陽性症状だね。幻覚とか幻聴とか。ほとんどの患者はそれが普通だと思うんだけど、君は自分で変だと思ったんだね」
珍しいね、と先生は言う。
「でも意欲が湧かないとかは陰性症状なんだよ。まあ、前に話したように症状はひとそれぞれだから、必ずしもどちらかの症状しか出ないというわけではないからね」
「はあ」
「まあ、そんな感じでエビリファイ増量しとくから」
「え〝」
「前に出した量は、いわば『慣らし』みたいなものだから。今回は倍の量だよ」
「えー」
「文句言わないの。あと飲み忘れに注意ね。ではお大事に」
「はい、ありがとうございました」