護衛も楽じゃない
裏譜を家に連れた次の日──。
「外出たい!」
裏譜の好奇心が爆発した。
「とりあえず、服着よっか」
昨日はみんなの上着を着ただけのため、まだまともに私服がないのだ。そして、涼香の持っている服を裏譜に着せた。
「外か……。もし万が一、あいつとかに見つかったらめんどくさいんじゃない?」
「でもだからってうちに閉じ込めても、前の生活と変わんないし……」
みんなは俯く。裏譜は今でも狙われているだろう。クロムは涼香が縄で縛った所にはいなかった。あれだけのことをしてまで裏譜を管理していたのだ、その裏譜が消えたらどんな手を使ってでも取り戻すつもりだろう。
「護衛みたいなこと、してみる?」
「……へ?」
卓が言った。途端、周りの空気の流れが止まる。
「護衛って……、裏譜に何かあったら、何がなんでも守るってこと……?」
「うん」
「うんって……。軽く言うねえ」
その後もみんなは反論したが、より良い別の案が生まれなかったため、卓の護衛で決定した。
家の周りの商店街を歩く裏譜と彼女を守る男、それは……、
「言い出しっぺ、か……」
「プラス俺〜」
卓と華佗だ。
「てか、なんでお前も来てんの?」
卓が問う。
「だって、裏譜が……」
「お兄ちゃんと行きたい!」
「なんて言うんだから……。断れないし、そもそもお兄ちゃんになった覚えないし……」
「ま、護衛だし数人いたほうが心強いから」
そして、三人の非常に重要な任務、「散歩」が始まった。
「とは言ったものの、何する?」
ただ歩いているだけではつまらないだろう、と考える卓だったが……、
「いや、もうしばらく歩いたままでいいんじゃない?」
華佗の振った目線の先は、周りを見渡して目を輝かせる裏譜の姿だった。どれだけカプセルに閉じ込められていたかは分からないが、相当外の景色に憧れたのだろう。
「あー、そろそろ何か店入るか。そうだ、なんか食べる?」
華佗は裏譜に問いかける。
「食べる……。……やってみたい!」
(あ、そうか……。食べるっていう行為すら言葉を知ってる程度……)
「ラーメン、ステーキ、寿司……。流石商店街、色々あるね」
裏譜は様々な食べものの看板を見て、うーんと唸る。そして、
「あれ、食べてみたい!」
裏譜がある方向に指を指した。それは、スイーツ店だった。店内はテーブル席で、パフェやケーキなど多くの種類のスイーツを味わうことができる。
「初っ端スイーツか……、まあいっか」
三人は、店内に入った。
「へえ、結構デカイんだな」
意外にも、ほとんどすべてのスイーツのサイズは予想こ遥かを超えた。
「おお……!」
相変わらず、裏譜のキラキラは衰えを見せない。どうやら、一つのパフェに興味津々のようだ。
「これ、食べる?……って、高……」
それは、様々な果物やお菓子が入っており、クリームが層を形作りアイスが頂点を制する、なんともメルヘンで甘そうなパフェだった。しかし、それだけ盛り付けられているからか、値段はメルヘンとはかけ離れていた。
「まあ、買えなくはないし……」
そして、三人はテーブルで各々スイーツを食べた。
「いつもラーメンとかばっかだったから、こういうの新鮮だな。どう?初めてのスイーツ」
裏譜が小さなスプーンに生クリームをすくい、不慣れな手つきで口に運んだ。口の中に乗った瞬間、
「お、美味しい……!」
裏譜の笑顔が大きく咲いた。その笑顔は、周囲の空気を暖かく包み込んだ。
(か、可愛い……)
その一輪の花は、華佗たちの不意を突いた。
「あー、美味しかったな」
「うん、みんなも誘ってまた来よーぜ」
「そしたら、次も同じの食べたい!」
「ぐっ、同じのか……」
雑談をしながら歩き、しばらくして商店街から外れ住宅街に入った。
「ここらへんも人いないな」
「さっきの商店街とは大違いだ」
すると、前から何か影が近づいてくる。
「ッ……!?裏譜……!」
それは、フードを深く被った男だった。
「お前ら……、御神体に何をした!」
男は叫ぶ。
「早速か……。御神体がなんだか分からないけど、裏譜は早く出たかったってさ」
「そんなことはどうでもいい!さっさとこっちにそいつを渡せ!」
男は華佗たちに詰め寄る。しかし、そう簡単には近寄らせない。華佗の足元から湧き出る水が、男の足をすくい距離を取らせるよう遠くに流した。
「チッ……。……あ」
男の視線が捉えたのは、住宅街が歩く女性。男は女性の首に指を構える。
「早くそいつを渡さなければ、この女ぶっ殺すぞ!」
「いやあああ!」
「卑怯だな、あいつ」
「動くなよ。そこまで強くは見えないけど、危害は危害」
裏譜は何か言いたげに口を開ける。少し息を吸ったそのとき、
「それはダメだ」
卓が出力により作られた刀を鞘から抜く。そして数秒後、納刀をする。チャキッンッ、と金属の当たる音を鳴らした刹那──、
ザシュッ。
「ゴフッ……」
男の身体に三つ、大きな切り傷ができた。勢いよく血を吹き出し、男はバタリと倒れた。女性は恐怖のあまりどこか遠くまで走って行った。
「ダメだ、気失ってる」
斬撃を受けた男は、気絶してしまった。
その後、夕方まで遊んだ。家に帰る途中、華佗の視界に何かがうつる。
「ん?どうした、華佗」
「いや、なんかテントみたいなやつがあって……」
「まあ、このへん森に近いし、テント建ててる人もいるでしょ」
華佗は納得し、三人は無事帰宅した。
「あのガキですか?」
「ああ、あの男からの連絡も来なくなった」
「御神体が奪われた今。例の計画、明日にはもう実行しなければならない」
「さあ、世界を変えようか」




