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モテグループの日々

俺は、仲間に入ることにした。


タカのグループ。


いつも教室の中心にいて、笑いの輪を作る連中。


その中に、俺が加わった。




最初の企画は、他の女子校との合コンだった。


連絡先を交換し、次の合コンを企画する。


それが、タカたちのルーティンらしい。




指定されたカフェの個室。


丸テーブルを囲んで、他校の女子たちが笑い合っている。


俺は、自己紹介の順番が回ってきた。




「俺、はるたって言います!よろしくお願いします!」




少し声が上ずった。


笑顔を作ったつもりだったけど、手のひらが汗ばんでいた。




女子のひとりが、隣の子に耳打ちする。




「彼が新しい子?なんかタカのグループらしくないっていうか…背も低いし、頼りないかも?」




その言葉が、テーブルの上に落ちた。


俺は笑ってごまかそうとしたけど、タカがすぐに返した。




「こいつは、俺が見込んだやつだよ」


「俺の仲間にも、新しい風を入れたくてね。なんか必死で可愛いだろ?」




その言葉に、女子たちは笑った。


「確かに可愛いかも!」


「ねぇ、君、もっと話さない?」




俺は、少しずつ話し始めた。


好きな音楽、趣味、学校のこと。


女子たちは、俺の話に耳を傾けてくれた。


笑ってくれた。


俺は、輪の中にいた。




帰り際、タカが俺に言った。




「俺がフォローしてやるから、お前は好きにやれ。別に女装とかしなくていいから、男らしく振る舞えばいい」




その言葉は、意外だった。


俺は、タカを誤解していた。


てっきり、俺を“面白枠”として使うだけだと思っていた。


でも、彼は俺を守ろうとしていた。


俺の“選んだ姿”を、否定せずに受け止めてくれていた。


こいつは、実はいいやつだと思った。


―――

放課後、駅前のファストフード店。


タカのグループの“たまり場”は、いつもここだった。


窓際の席に集まって、ポテトをつまみながら、くだらない話をして笑い合う。




俺もその輪の中にいた。


最初は居心地が悪かったけど、少しずつ馴染んできた。




「はるたってさ、昔メガネだったよな?しかも、なんか…ダサいやつ」




メンバーのひとりが、ポテトを口に運びながら言った。


他のメンバーが笑いながら乗っかる。




「わかる!あの縁の太いやつ!あれでモテようとしてたの、逆にすごい」


「てか、髪型も昔はヤバかったよな。前髪、田んぼみたいだったし」




俺は笑ってごまかした。


でも、心の奥では少しだけチクッとした。




実は、タカに会う前は、俺もモテようと必死だった。


雑誌を読んで、髪をセットして、服を選んで。


でも、何かが足りなかった。


“俺らしさ”が、どこにもなかった。




このグループでは、欠点を笑いながら指摘し合う。


でも、それは否定じゃない。


「直していこうぜ」っていう、仲間の合図だった。




「でもさ、今のはるた、わりとイケてるよな」


「タカが見込んだだけあるって」




そんな言葉が、ポテトの油の匂いと一緒に、俺の胸に染み込んでいく。




俺は、仲間の一員になっていた。


誰かに見られることじゃなくて、誰かと並んで笑えること。


それが、こんなにも温かいなんて、知らなかった。




――――――




俺がグループのノリにも慣れてきた頃だった。


笑って、いじられて、返して。


そんな日々が、少しずつ“楽しい学園生活”に変わっていた。




でも、その空気は突然、凍りついた。




いつものたまり場。


今日は、笑い声がなかった。


タカが、ノボルに詰め寄っていた。




ノボルは、俺に最初に話しかけてくれたやつだ。


メンバーのディスりに黙り込む俺を見て、


「まあまあ」ってなだめてくれた。


グループにいない時は、よく二人でつるんでいた。


根は優しいやつだと思ってた。




でも、今そのノボルが、タカに睨まれていた。




「で、なんで俺の女にちょっかいかけてるわけ?」




タカの声は、冷たくて、鋭かった。




ノボルは、少しうつむいて答えた。




「タカがもうあんな女興味ねぇって言ってたから。彼女、落ち込んでたし、慰めるつもりで…」




「は?誰がそんなこと言った?おい、誰か聞いてたか?」




タカの声が跳ねた。


ノボルは、焦ったように言い返す。




「この間の帰り道で、お前ムスッとしてたから、どうしたのか聞いたら、あんなムカつく女知らねぇって言ってたじゃないか!」




その瞬間、空気が割れた。




「お前、俺の女ディスってんのか?いつからそんな偉そうな口聞けるようになったんだ?おい!」




タカがノボルの髪を掴み、テーブルに叩きつけた。


ポテトの皿が跳ね、ドリンクがこぼれる。




「まずはごめんなさいだろうが!」




俺は、反射的に立ち上がった。




「やめろよ!やり過ぎだろうが!」




声が出た。


自分でも驚くくらい、強い声だった。




タカが俺を見た。


その目は、いつもの軽さじゃなかった。


俺は、ノボルの肩に手を置いた。


彼は、顔を伏せたまま震えていた。




このグループは、笑い合うだけの場所じゃなかった。


誰かが支配し、誰かが黙る。


その構造の中で、俺は“仲間”になったつもりでいた。




でも、今は違う。


俺は、誰かの手札じゃない。


誰かの“女”でも、“男”でもない。


俺は、俺だ。




 ――――――――


タカは、激高したまま言い放った。




「お前ら2人とも、俺の気が済むまで企画参加禁止な。俺が許すまでパシリとして置いといてやるから、感謝しろよ。」




その言葉に、俺の中で何かが切れた。




「俺はパシリなんてごめんだね。行こうぜ、ノボル。」




ノボルの腕を引いて、店を出た。


夜風が、まだ震えている彼の肩を撫でていた。




「もう忘れろ。悪意があった訳じゃないことは、みんな分かってるよ。


明日、ちゃんと話そうぜ。仲間だろ。」




ノボルは、うつむいたまま呟いた。




「タカさんに逆らったら、もう仲間じゃない。俺、もう終わったわ…。」




「おいおい、そんな大袈裟な…」




言いかけた言葉が、スマホの通知音に遮られた。




画面には、一本の動画が表示されていた。




『Ms.unknown終了のお知らせ』


『正体バレ、ただの陰キャ男だった!』


『モテるのに必死で女装ダンス!?』




俺は目を疑った。


動画は、巧妙に編集されていた。


中学時代の俺の写真。脂ぎった額、猫背、マスク姿。


そして、どこかで切り取られたコメント――


「女装してでもモテたい」


「かわいくなれば、見てもらえると思った」




それは、俺が誰にも言えなかった本音だった。


でも、今は違う。


俺は、自分のために変わった。


誰かに媚びるためじゃない。


誰かに笑われないためでもない。




コメント欄には、罵倒が溢れていた。




「まじキモ」


「俺は知ってた」


「Ms.unknownは芸能プロダクションのステマって言ってたヤツ息してるか?」




俺は、スマホを握りしめた。


手が震えていた。


でも、それは恐怖じゃなかった。


怒りでもなかった。




それは、悔しさだった。


俺が選んだ姿を、勝手に切り取られ、勝手に笑われたことへの悔しさ。




風が吹いた。


冷たい夜だった。


でも、俺は立っていた。

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