デスゲームの鱗片
耳当たりの良い古き良きチャイムが聞こえる、追憶に耽っていたらもう昼休みに入っていた。
カバンの中にある、早起きして作った自信作を片手に、誰かの机に出張してこの学校の情報収集をする時間だ。と言っても二日もいるとだいたいこの学校のことは理解した。初日ほど辛かった日はない
「ハミちゃんここいい?」
クラスの人気者ハミちゃんの席のところまで自分の椅子を持って行き、お弁当を広げる。話題も自然に広がっていく。
「瀬川さん、お弁当すごく美味しそうですよね」
「そお?内なる女子力が開花しちゃったか」
周りにいる女子からの感嘆の声が上がる。
この瞬間がたまらなく気持ちいい。この感覚を味わう為だけに、朝早起きしてると言っても過言ではないさぁ、もっともっと。
「瀬川ちゃんってそんなに女子力高かったんだ」
背後から声がかけられる。声的にななりんだ。このグループに混ざりに来たか。
予想通り、声のする方を見るとななりんが立っている、手にはお弁当箱が下げてあった。お弁当といえば、ななりんのお弁当は、誰が作っているのだろう。今まではウチが作ってやっていたが、今はそうもいかないだろうに。
ななりんのお弁当を覗く。お弁当袋の中には、コンビニなどでよく売られているたらこおにぎりとサンドウィッチか。
まだこの状況に慣れておらずお弁当の用意どころではないのか、はたまた料理がそもそも苦手な人物なのか。そもそも考えてみりゃ突然人の娘の世話をしろって言われること自体無理なことか、どれにしろウチの体に入ってる人間は変化適応能力が低い。
どうせいつか殺すことになるんだ、仕掛けてみるのもいいかもしれない。
仕掛けると言っても世間話にすぎないが。
「ななりんのお弁当は誰が作ってたの?お父さん?」
ななりんの首がコクンと縦に振られる。
「そっか、お父さん最近忙しいのかな?」
「多分…」
多分か、純粋にウチの体に入ってる人は一体どんな生活してるのか気になるな。もう少し聞いてみるか
「お父さん、最近変わったことない?」
「ない」
顔を伏せたな、目が合わなくなった。ななりんが嘘ついてる時のいつもの癖。
敵の情報は出来る限り全て集めてやる。
あるに越したことはないし聞けることは聞いておこう。
「あー、なんりん嘘ついてる。絶対何かあるでしょ、誰にも言わないしウチが力になれることならなんでも力になるよ、何があったの?」
「あ、、あの」
ゆっくり目が合ったななりんは何か伝えたそうに口を開く
「イッターー!!」
ななりんの次の言葉を固唾を呑みながら待ってると、肩に激痛が走る
か、肩が、肩が外れ、てはない、ぎりぎり、ぎりぎり耐えた。何が起きたんだ、誰かにものすごく強く肩を叩かれた。
ハミちゃん!?
犯人はハミちゃんのようだ、犯人どうこうよりもハミちゃんの肩をたたくパワーへの驚きの方が大きい。
いや、ハミちゃんの力というより自分の体が前の体と比べて華奢なのか?
「ごめん、強かった?ちょっとななりんと話したいことがあってさ、あれ?話したいこと忘れちゃった」
「カタハズレルカトオモッタヨー」
ごめんごめんとでも言いたげな表情と仕草、許す。
「トイレ、行ってくる。ごめん」
唐突にななりんから離席を伝えられる。
ななりんもハミちゃん同じような仕草を見せる。許さん。
タイミングが悪い。敵のこと聞き出すって時になんでトイレ行くかね。
その後のななりん抜きでの会話は、一週間後に迫る修学旅行の話やら、その前にある期末テスト、アコニタムの話などで盛り上がった。それにしても修学旅行先が北海道だとは、近頃なかなか旅行になんて行けてなかったから正直、クラスの誰よりもテンションが上がってる自信がある。
結局ななりん帰ってこなかったな。
午後の授業も難なくこなし、下校の時刻となった。七時出勤、十六時退社、業務内容着席時々運動。これを毎日続けるだけの生活、神様ありがとう。
誰よりも早く学校から出て、まだ人気の全くない帰り道を浮遊でローラスケーターのように滑走する。
というのもウチはまだ自分の能力をよく知らない。そこで、放課後に河原に出向きどんなことができるのか検証する。少しでも時間は多い方がいい。
「彼を知り己を知れば百戦危うからず」これも昨日見たアニメの受け売りだけど。
ウチは「彼を知り己を知れば百戦危うからず」を地でいく戦い方でいくと決めている。それが一番性に合ってる。
それにしても遅い。遅すぎる。
右腕につけられた時計と、目の前の赤信号を交互に見つめる
もう四分近くはここで立っているだろ。なんなんだこの信号は、車なんて全く走ってないのに、赤信号からずっと変わらない。壊れているのか?
寒い。長い。暗い。
下校の時刻は四時ごろ、季節的な関係で空はもう暗くなり始めている。
「空もう暗いね」
後ろから追いついてきたななりんが話しかけてくる。
娘はどちらかといえばシャイな性格だと思っていたが、こう積極的に人に話しかけれてるところを見るとそうでもない気がする。
そして娘にきちんと友達がいたようで素直に嬉しい。
「ボタン、押さないの?」
ボタン?
ふっふふははっは、そうか…ボタン式か…どうりで。
「ななりんのこと待ってたの。」
「ありがと」
「ううん、そういえばななりん、昼のことだけど」
「お父さんのこと?何も変わりはないよ」
「うっそだぁ、ウチななりんのことよーく知ってるからさ、そうやって俯いてる時は何か隠し事してるって」
「え?」
なんだそのなんでわかるのって顔は、お前の癖は結構わかりやすいぞ。
「ななりんのこと好きだからさそういうの、気づいちゃうんだ。何かあったの?」
信号が青に変わる。ボタンを押した途端すぐ色が変わった。
よく考えると、昨日までは確かに複数人で信号まちをしていた気がする。その中の誰かがボタンを押していてくれたんだな。
音が聞こえる。
車の走行音が、それもかなりスピードを出している音だ。音が段々大きくなるな。近づいてきてるのか。
嫌な予感がする。まだ横断歩道を渡りきれてない。車道のど真ん中。
いやまさかそんなベタな。
いや待て、ウチは今、異能力デスゲームに参加しているのか。
こういうことも全然あり得るのか。
そうか。先が思いやられるな。
かろうじて視線を向けることはできたが想定通りの最悪な光景にしか見えない。
突っ込んでこようとする一台の車。距離はだいたい五十mぐらいは離れているだろうが、ただ速度的に衝突まであと二秒もかからない。運転席には誰も乗っていないようだ。
狙いはウチか
ななりんは少し前を歩いていたおかげで直撃までは行かなそう、というかななりんの今いる場所からならば走れば普通に避けられるだろう。
ただ肝心の本人はこんな時に恐怖に駆られて一歩も動けそうにない。
世話やかすなあ、少し荒っぽくなるけど命は助かるんだ感謝しろよ。
残された数秒を有意義に使う。と言ってもできるのはせいぜいななりんを突き飛ばしてあげるぐらいだけど。
あとは、どうにでもなれ。
瞬間。今までに経験したどんな音よりも酷い、金属と金属のぶつかり合い、ひしめき合う轟音が耳をつんざいた。
ん?案外どうにかなったな?
「大丈夫だった?ななりん?」
足元に盛大に転がるななりん手を伸ばすと熱でカチカチになった制服が肌をチクチクと突き刺す。




