編み込みハーフアップ
はぁ、はぁ…
まだじんじんと痛む首を押さえながら少女に礼を言う
それを聞いた少女は少し驚いた風な表情を見せた。
「どうしたの?そんな顔して」
彼女は顔を少し俯けさせながら、なんでもない。と呟くと、この場から立ち去っていく。
「待って!どこいくの?」
「学校。もう時間だから。」
学校?どういうこと?
「弁当はあるの?スマホは?忘れ物ない?」
状況が全く理解できない。
しかし理解するよりも先に、先の少女を自分の娘と重ねたのか。いつものように送り出そうと言葉が出た。
気になって少女が出ていった先を目で追うと、今まさに家から出ようとしている最中だった。
見覚えのある制服を身に纏う少女、それよりも目についたのは彼女の髪だ。
決してボサボサと言うわけではない。むしろその逆、丁寧に整えようとした痕跡がいくつも見られる。でも、『痕跡』止まり。最終的に整えられてない。
そのせいで変に見えるとか、おかしな髪型だとかではない、代表的な編み込みハーフアップ。
しかしどこか諦めが垣間見える。それが時間のなさによるものなのか、本人の実力によるのもなのか。
って、この子のこと髪型ひとつで考察しすぎかな?
仕方ない。長年美容師を営んできた人間の性分なのだ。
「ちょっと待って。」
氷道でも滑らなさそうなスノーブーツを履きおえたばかりの少女を引き留める。
彼女は振り返ると不思議そうな顔でこちらを見つめた。
「どうしたの?」
そのまま、履いたばかりの靴を脱ぎこちらに近づいてくる
「いや髪が気になって、時間まだ大丈夫?」
スッと彼女の背後にまわる
「大丈夫だけど…」
少女は俯いた。
「本当はここ、こうしたかったんじゃないの?」
彼女の長い髪の毛をそっと持ち上げ、あるべきであったであろう場所へと持っていく。
「本当はね」
そうしたいんだけど、そんなニュアンスを含んだまま口ごもる。
「任せて」
「え?」
確かにこの髪型は一人で作ろうとすると難易度が高い、第三者ありきな髪型。
「よし、できた!」
30秒もかからない。
数秒の出来事についていけない様子の彼女は、胸ポケットから鏡を取り出し自身の髪型を確認すると頬が緩む。
満足のいく仕上がりだったようだ。
「どうして?」
「いいから、いいから。早く学校行ってきなさい」
少女の両肩に手を置き、歩かせるように軽く押しだす。
「ありがとう…」
靴を履き直すと一言、そう呟き彼女は学校へ向かった。
よし。結局あの子は誰だったんだろう?
葉美と同じ制服。もしかしたら葉美とおんなじクラスの子かもしれない。
窓から光が差してきた外が明るくなってきたようだ。
試しに家の中を歩き回る。
見ず知らずの家をツアーするのはなんだかゲームみたいで面白い。
その末、リビングらしき部屋にたどり着く。リビングの一番目につく場所に飾られている時計を見ると、時刻は10時をまわっていた。
ん?そういえば8時くらいにギルちゃんくるよね?
今日は、九龍ギルティとのコラボ配信を予定していたはず、しかし肝心の私が今こんな状態になっていることに疑問を持つ。
呑気に家宅捜索してる場合ではなかった。急いでTVをつける。パソコンにはロックがかかっており、スマートフォンも手元にないこの状況で動画配信サービスを視聴する方法はテレビに限られた。
7分前に配信終了?
おかしい。そもそも配信は九時から始めて3時間を予定していたはず。それがなぜか50分弱のライブ動画が10分前に終わっている。
気になるところは他にもあった。
サムネイルが黒背景に筆で書いたような白文字で大きく『重大発表!』と書かれている。そんなものは用意した記憶がない。
考えるよりも先に動画を再生させる。
『容姿端麗!清廉潔白!花鳥風月!猪鹿蝶!孤高のASMRer.九龍クーロンギルティ!と?』
『え、えぇ、うばたまの、我が黒髪の、アコニタム、今日も今日とて、配信開始!うばたまのアコニタムや』
『なんかぎこちないね』
『いいからさっさと話すこと話してくれ』
『そうだね、いやー色々あってね?簡潔に話すけどギルティたち、ろんぐティットって事務所に所属したいな〜って思ってて』
は?
『前からスカウトはされてたんだけど、答えることができてなくて、今日アコちゃんと話し合って一緒に入らないか?って話になって』
『わs…うちも、ろんぐティットに興味が湧いてな』
『そしてここからが今回の配信の本題なんだけど、まだこのことはろんぐティットさんにも話してません!だからこれから電話でアポなし直談判して加入できるまで終われません配信やります!』
ギルティ節が全開に効いている配信にコメントがものすごい速さで流れる。
「やめとけ」「怒られろ」「やばw」「急には無理だろ」「流石に演出だよな…」「おい、アコ今すぐこいつを止めろ」「スカウトされてたならワンチャン行けるか?」
『あ!もしもし〜そちらの会社で一番偉い方にお繋ぎいただけますか?』
頭、痛くなってきた…
もしやと思い、動画を飛ばしてみると動画の残りの時間いっぱいまで電話をしている様子が流れていた。
そしてこのライブが終了しているということはそういうことなんだろう。
再生バーを最後の方に持っていく
『じゃ!私たちこれからやらなきゃいけないことできたから配信終わるね〜おつ〜』
はぁ、あの場にいなくてよかったかもしれない。
それにしても変な気分だ。動画に出ていたアコニタムは確かに私の声だった。
今考えると神様は自分の見た目のやつと殺し合いをさせようとしてるのか、あいつ見た目に反してなかなかに外道だな。
プルルッ!プルルッ!
リビング中にスマホの着信音が鳴り響く
そういえば、朝起きてからスマホを一度も見かけていなかった。
音的に近くにあるだろう、音のする方向に一直線で進んでいくと案の定目立つ場所に置かれてあった。
誰からだろ?
さっきからずーっと着信が続いてることを考えるとかなり重要なことか、急ぎであることが伺える。
恐る恐る緑色の受話器のマークをスライドする。
『何回電話かけたと思って、、今どこにいるんですか!』
「えっと?家かな?」
『はぁ!?いえ?ふざけてないで早くきてください、今人手が足りてなくて大変なんです!』
「何があったの?」
『何がって、ニュース見てないんですか?暴力団の抗争ですよ、それで今患者が溢れかえってて、前科招集かけられてるんですよ』
「なるほど」
『なるほどって…とにかく先生も早くきてくださいね!』
先生?




