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大喰らいの樹

マリマリーがいなくなって2日後に、最初にグリムツリーが出現したブルメヒア国の古代遺跡に魔王の試練迷宮(ラビリンス)が出現した。

これに呼応して各地で封じられていた古代の魔獣が復活。地上の爵位魔族を粗方片付け、魔王軍艦隊も残り2割程度にまで追い詰めていた私達は対応に追われることになった。



反魔王軍連盟の大型艦の1つ『琥珀(こはく)号』が私達の母艦。先にロッカクオウを扱うパルシー達が使っていた艦だね。


「・・ふぅ」


ソファでため息1つ。私の私室は変形した桜の木々と春の草花まみれだ。もう秋なのにお構い無し。

レベル64になって少しはホノカ神様の神力をコントロールできるようになったけど、同じ場所をずっと使っているとこんなことになっちゃう。

部屋着の私は数日前に合流した、マージケムシーノからオラクルケムシーノに進化したマティちゃんの背中? のモヒカン毛にブラシを掛けてあげていた。

気持ちいいみたいで、マティちゃんはすやすや眠っている。

と、扉の向こうの廊下の先からディンタンの気配を感じた。元気無いけど頑張ってしっかり歩いてる足音。扉が開けられた。

ディンタンは私服の上に適当に連盟のジャケットを羽織っていた。


「YO、ミカゲ。悪い知らせと、悪い知らせと、あとはまぁ悪い知らせが多いぜ?」


「全部悪いじゃん」


「そんなもんさぁ」


ディンタンは変形桜のまみれのソファの私の隣に座るとあたしの頭をわしゃわしゃと撫で、ポンポンと2回軽く叩いた。


「一般には伏せることになったが、魔王の依り代はマリマリーだ。概念的に他の者達が滅ぼすのは難しいみたいでYO、俺達が担当することになった。魔王撃破時、マリマリーのレスキューは無理筋、つうか、自分から魔王と契約したっぽいな。ま、そんなとこだ。実際、最後に始末つけるのはミカゲになるな」


ディンタンはこちらを見ずに言い切った。


「・・うん、わかった」


わかってた。


「なんか、景気付けに上がる感じのラップでもかましとくか? セイホー?」


「いい、疲れる」


ディンタンは苦笑した。


「俺、いいリリックなんだけどなぁ」


「・・魔王は関係無いけど、いつか、きっちりさせなきゃだったんだね」


ごまかしてたワケじゃないけど。


「俺達は大丈夫さ。なんも、無かったことにはならねーよ」


私は左手をディンタンの大きな右手の甲の上にそっと置いた。


「ミカゲ、俺は」


「今は手を握っていて」


「YO・・だな」


眠るマティちゃんを膝の上に乗せたまま、溢れると光の花弁になってしまう涙を私は流して暫く、握り返してくれたディンタンの右手を取っていた。



古代の魔獣は各国の州軍と冒険者ギルドとマブカさんの眷属の蛙人族達に任せられ、ブルメヒア国の魔王のラビリンスに反魔王軍連盟軍と各地から選ばれた神々の祝福を受けた選抜冒険者達が集約させられることになりました。

魔王軍の造反者達は魔王の地上への出現に3割はいずこかへ遁走してしまいましたが、残りの7割を集め、どうにか軍の体裁を保ってます。

9月の朝焼け眩しい中、魔王のラビリンス遥か先の上空で、最後の戦いが始まりました! 先陣は勿論、僕とマブカさんとナガイの駆る新型決戦機『ロッカクオウ・アスラ』と結局導入するしかなかった汎用姉妹機『ロッカクオウ・ファミリア』8機からなるロッカクオウチームですっ!!

エースのナガイは指示を出せないので隊長は僕になりました。


「皆っ! 神様達がこの国単位で毒光石(どくこうせき)弾は敵味方問わず封じてはいるけど、イレギュラーな事態は有り有りですからっ」


「了解!!」


「ゲコっ」


「やってやるぜぇっ!!」


「僕らは魔王の分体の1つと融合したと見られる超火力の敵旗艦『アッシュロア』の撃沈と! 引き連れてる変形戦艦巨兵数百体を釘付けにすることっ。しくじれば味方の被害だけでなく、士気の低い造反魔族軍が離脱しかねないです! 最初に『いける感じ』を醸し出すっ! それが僕らの真のミッションですっ!! 上げてゆきましょうっ!」


「うぉおおぉーーっ!!!」


「隊長ぉーーっ!!!」


「パルシー君っ!!」


「やるぜやるぜやるぜぇーーーっっ!!!」


ちょっと煽っただけですが、もう通信がうるさいです。大型ゴーレム乗りはそういうとこありますね。

全員との通信を終え、マブカさんとナガイとだけの通話に切り替えました。


「・・今さらだが、パルシー、マブカ神様。マリマリーのことを気付いてやれなくて悪かったぜ」


「ゲコ? 我ら神々でも探知はできなかったので気にしなくてよいです」


「悔やんでも仕方無いです。柄に無いことを考えるより、役目を果たすことに集中して下さい」


「それもそうだな・・よーしっ! やるぜやるぜやるぜぇーーっっ!!!」


「・・・」


通信の音量がですね。

ともかく、雑魚の合成飛行体やターゲット外のその他の敵艦をいなしながら進むと、程なく、アッシュロアとの交戦空域に入りました!

既に変形済みの戦艦巨兵数百体はアッシュロアの上下左右を円形に取り囲んでいますっ。


「鼻ぁーーっ?!!」


叫ぶナガイ。アッシュロアの艦橋辺りに巨人の鼻のような物がへばり付いて艦を侵食していました。


「魔王の分体ですね。・・機会は1度きりです。総員配置っ! 来ますよっ?!」


アッシュロアの艦首が2つに割れ、艦と周囲の戦艦巨兵から供出されたエネルギーが集束し始めますっ。

これにロッカクオウ・アスラの後方に控えたロッカクオウ・ファミリア達がロッカクオウ・アスラにエネルギーを集束させ始めました。


「神力、『グランブルービッグガントレット』っ!!」


ロッカクオウ・アスラの両手に圧縮された水の神力が宿されますっ。


「うおおっ、スキルっ!『海皇千手(かいおうせんじゅ)構え』っ!!」


ロッカクオウ・アスラは水の神力を宿した両手で円の動きを始めます・・


「っ!!」


エネルギーを最大に充填したアッシュロアは『超集束消滅ちょうしゅうそくしょうめつ波動砲』を放ってきました!!

海皇千手構えの特性でオートでそれを両掌で挟むようにして受けるロッカクオウ・アスラ!!


「ぬぅああーーっっ!!! スキルっ、『波動白刃取(はどうしらはど)り』っ!!!!」


水の神力の籠手を消耗しながら、掴んだ波動砲を集め、固め、球形に圧縮してゆくロッカクオウ・アスラ!!


「『ゴッドスラッシャーアーツ』っ!!」


波動砲球体を抱えて激しく錐揉み回転するロッカクオウ・アスラ!!


「うぉおおぉーーっっっ!!!!」


「ゲコぉおおおーーーっっっ!!!!」


「わぁあああーーーーっっっ!!!!」


回転運動により荒ぶる波動球体に指向性を与えますっ!!


「『スピニングぅううっ、波動ぉおおーーっっ、リリーーーースゥッッッ』!!!!!」


僕達は声を揃え、ロッカクオウの両手を崩壊させながら、波動球体を撃ち返しました!!

アッシュロアと戦艦巨兵達の迎撃熱弾、熱線を撃ち抜き、アッシュロアの防御障壁も撃ち抜きっ! 波動球体はアッシュの艦首砲貫き、艦橋の鼻を叩き潰して炸裂し、アッシュロアを轟沈させました!!

ロッカクオウチームは通信でやんやと喝采しましたが、


「皆、戦艦巨兵数百体は丸ごと残ってますよっ! こっからが本番ですっ」


「了解っ!!」


「やるぜやるぜっ!! うぉおおーーっっ!!!!」


「やりますよやりますよっ!! ゲコぉーーーっっ!!!」


僕達ロッカクオウチームは渦を巻くようにして飛来する戦艦巨兵の大群に挑んでゆきました!!



パルシー達のロッカクオウチームが魔王の分体の1つと一緒に敵の凄い火力の旗艦をやっつけて、生身で倒すは1体でも大変な戦艦巨兵を纏めて引き受けてくれたから、中型迷彩艦に乗った私達、ラビリンス突入隊は一気に敵艦隊を抜けてゆくことができてた。

もうギリギリだけど私の艦の私達の隊は聖水を使って映像通信画面を作り出す方法で、ホノカ神様、テンジクカ神、タデモリ神と通信もしていた。

3神とも後方の母艦にいるから同じ画面。ちょっと珍しい組み合わせ。


「名も無き魔王、仮にその性質から『大喰らいの樹』とでも呼ぶなりか? ヤツはグリムツリー撃破の速やかさと、ホノカ神に正体を見破られ眷属に裏切られ、拙速にでもとにかく地上に顕現することを選んだナスっ!」


「あの兎娘を依り代としてもパワーは4割は低いのじゃっ! チャ~~ンスっ、だプンっ!!」


「・・ミカゲちゃん、大丈夫?」


「はい。私、諦めてませんから!」


3柱の神様達はそれぞれ頷いてくれた。


「ナススっ! ラビリンスの結界は我等神々で破るなり! ラビリンス本体は無理にでも地上へ突破させる為にラビリンスとして生成、安定化させた以上、必ず踏破は可能っ! 魔王と言ってもアレは集合体の魔物。全ての眷属に去られ餌も得られなくなることを恐れた脆弱な存在性なりっ!!」


「ついぞ特定の誰かが勇者とはならなかったようじゃが、ここまでくればお前達の、その行いの全てが『勇者』を形作ったと言えるプーンっ!!」


「寄り合う星々の光のように、皆の勇気が一つ所に集まりますように」


私達は神様達から激励、祝福され、天から降り注いだ激しい光の中で結界の打ち破られた魔王、大喰らいの樹のラビリンスへと突入を始めた。



・・・陰火(いんか)だけが燈台に灯る闇の中、あたしはゴテゴテしい呪われた鎧やマントを着せられ、悪趣味な玉座に座らされていた。

薙刀の代わりに与えられた槍は『砕け散る魂』というらしい。ロクなもんじゃない。

近くには形だけ宰相のように1体、人に近いシルエットの衣服を着た魔族が虚ろな顔で控えていた。

元は魔王のヤツの右腕だった大公級の魔族だが、裏切りを疑われて魔王に分体の『耳』を寄生させられて壊れてしまってる。口からよだれ垂れてる。

感じ取れる。ラビリンスの中には、まず中型ゴーレム達が突入して、次に蘇生し易いタデモリ神の匙人間兵達、その次は各地で神々が浄化して眷属化した黄金のモンスター達が突入。

規模が異常に大掛かりだが、ルートを取らせてから本体がボス狙いで本命ルートを攻める。

ラビリンス攻略の定石がそのまま実行されていた。


「・・あんた、負けるんじゃない」


この何も無い哀れな魔物と会話でもしてやろう。


(真の勇者の兆しを持ち、我等に匹敵する者達は極わずか。それらを倒せばどうにでもなる。神々は我がその全てを地上に顕現成し得ていないから勝てると踏んでいるようだが、笑止。温存しているのだ。勇者達さえ倒せば、あとは容易い)


「『我等に匹敵する』とか気安いね。キモいわ」


(マリマリーよ、お前が我を疎むのはお前がお前を疎む故)


「そうだろうね、それもどうでもいい。・・あたしは、楽しみなんだ」


(・・? 破壊や殺意、劣情は無いな。なんだ? その意識は)


「雲が無い綺麗な青空、見てたつもりで見てなかった。あたしはようやくそれが見れる」


(ミカゲ・オータムゴールドを殺して清々するということか? 悪意や快楽の意思が無い、発狂しているにしては思考は明瞭だな? 地上の者特有か? 理解することに価値は感じないが)


「あんたなんで魔王になったんだ? 何がしたいんだ?」


(我は我ではない)


「は?」


(最弱の、何者でもない魔の塵のごとき者達。それが集まり集まり、1つの樹のようになり、あらゆる敵対者達を取り込み続け、やがては魔界は我の世界となった。その生存の繰り返しが、今日、ここにある我等だ。悪に近しく、しかし、我等は生命である。やがて神々を取り込めば、我等は真の生命となり、あるいは我等は1つの宇宙として、我等でなくなっても構いはしない。生命足り得ること、その過程をお前達が魔王と呼んだに過ぎない。あるいは我等が天界で産まれ善に近しければ、お前達は信仰さえしただろう)


「・・お前にあたし達の最後を見せてやるよ。お前の言う生命はただの反応だから」


(反応が生命ではないのか?)


あたしはそれ以上は応えず、黙って待つことにした。



本命のルートらしいのがどうにか取れた。俺達は大喰らいの樹のラビリンスをかなり進んでいた。

と、前方でかなり激しい争いと焼けつくよつな強烈な闇の気配。


「魔王分体がいるぞ? ゴーレムや匙兵が無駄に消耗する前に確認しないか」


後方で討ち漏らしや脇や後方から差し込んでくる魔王軍兵やラビリンスの守護モンスターを狩っていた選抜隊に呼び掛け、俺達は前方に出た。・・いた。


「ネフネフネフネフッッッ!!!!」


不快な声を上げているのは『舌』の巨大魔族だった。

このルートを先行したゴーレム兵をほぼ壊滅させ、匙人間兵達にも大きな損害を与えていた。


「相性の良さそうな2割でコイツは引き受けようっ。ミカゲ! 行けっ!」


俺やエオン、サジ夫。即断で残ることにした2割の選抜隊は舌の分体に一斉に牽制を始めたっ。その隙に、


「ゼンっ! 皆でキャンプ行くからねっ」


ミカゲ達と残り8割の選抜隊と匙人間兵とわずかなゴーレム兵達はラビリンスの先へと抜けていった。

キャンプか、いいな。


「ネフネフネフッッ!!!」


俺達の火力をうるさく感じたのか? 舌の分体は半透明の光のカーテンのような障壁を纏ってこちらの攻撃を無効化し、一方で、自分の放つ破壊光線や溶解液は光のカーテンを素通りさせてきた。デタラメなヤツだ。


「サジ夫っ! エオンっ!!」


2人の能力はよくわかってる。2人も即応し、エオンは影潜りのスキルでサジ夫の影に潜り、サジ夫は他の残留組の援護を受けながら飛び上がり、ディンタン達が回収した神器『ガイアモール』で、


「プンっ!!!」


スキル『バリアブレイカー』を放って光のカーテンを打ち砕き、続けてサジ夫の地上の影から飛び出したエオンが速攻を掛けた。


「スキル、『邪神割烹肉散華じゃしんかっぽうにくさんげ』っ!!!」


全身に神器『双月(そうげつ)』で瞬間的に斬撃を放ち怯ませ、飛び退く。

どう見ても弱点の巨大な舌にも十数発打ち込んだがあまり通ってない。見た目より硬いな。それなら・・


「スキル、『アダマンドリルバレッド』1つっ!」


魔力を溜めていた俺は神器『コスモドライブガン』で超硬質でドリル型に変形させた弾丸を分体の舌のわずかに傷付いた部位に撃ち込んだ。傷口は開いたが、まだ浅い。


「2つっ!」


間髪いれず2射目を同じ箇所に撃ち込み、大きく損傷させる。さらに、


「3つっ!!」


とどめに同じ箇所に撃ち込んで分体の舌に深々と貫通させ、舌その物を砕いた。だが、


「ネフゥゥーーーッッッッ!!!!」


舌の分体は巨大な口から盛大に流血しつつ、全身から数え切れない舌を発生させ、溶解型の毒粘液の絡むその舌で四方八方をめちゃくちゃに高速攻撃してきた。


「ゼン! マズいぞっ?」


返って危険と影に再び潜るのを控えるエオン。


「プーンっ!!」


回避は得意でないので舌を打ち返し掛かるサジ夫。


「どういう構造だコイツ??」


俺は後衛タイプで物理対応が苦手な様子な選抜隊員の援護に回った。

ミカゲが大喰らいの樹と、マリマリーと対峙するまでに片付けておかないと状況を混乱させてしまう。

暴れ狂う舌の分体を前に、内心かなり焦っていた。

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