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ミカゲ隊、花吹雪っ!!  作者: 大石次郎


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風吹く マリマリー

あたしは子供の頃、変化が苦手で上手く人間っぽい姿になれなかった。食べ過ぎで太ってたし、ウチの家系特有のスパルタで年中ボロボロで、殴られ過ぎてたからかずっと小さいミカゲと変わらないくらいチビでもあった。

何1つ上手くいかないから、政治家の家でややこしそうだったディンタンより屈折してて、短気で、ミカゲ達が周りにいなかったら尋常初等学校を卒業する前に施設に入ることになってたと思う。

チビで太っちょで毛むくじゃらでボロボロでひねくれ者で乱暴。それが子供のあたしだった。


「マリマリー」


小さくて優しい、魔法の手。呼び掛けてくれる。

その日も、いや、これはあたしの記憶。何百日ものその日が集まった幼い日々の光景。あたしの奥の勇気の光。

子供のあたしは一角騾馬の屋根の上で子供のミカゲに手当てしてもらっていた。今日も養母にボコボコにシゴかれた。


「アイツ、いつかブッ殺してやんよ。あたしが不細工でドンクサくて血が繋がってないから気に入らないんだよ」


「そんなこと言わないの。言葉がもっとマリマリーを傷付けちゃうよ」


子供のミカゲがあたしをこの日も抱き締めてくれた。桜の匂いがする。産まれた時からホノカ神から祝福されてるミカゲ。

優しくて、頑張り屋で、可愛くて、楽しくて、家族とも友達とも学校の先生とかとも仲良いミカゲ。

あたし程じゃないけどめんどくさいディンタンともいい感じで、大人になったら2人は結婚すればいいと思っていた。

あたしはミカゲだったらよかった。ミカゲならあの糞義母とも上手くやれるだろう。武術のセンスもあたしより上。

あたしの代わりに全部ミカゲがしたらいいんだよ。あたしなんていらなかった。


「・・私が皆を守るからね」


え? ミカゲ、そんなこと言ったっけ??


「ミカゲ?」


ミカゲはあたしに微笑んでみせた。その額にはホノカ神の聖印が光っていて・・・


「違うっ!!!」


あたしは目覚めた。


「うっ、がふっがふっ?!」


あたしは咳き込み、少し血ヘドを吐いた。見ればディンタンが回収した神器『紫龍闘衣(しりゅうとうい)』のドテっ腹に空けられた穴が輝く花咲く桜の苗木で塞がれていて、それはすぐにガラス質の結晶になって砕け散っていった。

傷は綺麗に消えている。


「マリマリーっ! 良かったぁっ。ミカゲが対応しなかったら、この場で私がリザレクション掛けるところだったよっ」


神器『玄武(げんぶ)の盾』を構えて、機械化された多頭竜ヒドラのブレスの連打を防ぎながらロンロンが振り返ってきた。

そう、あたしはマリマリー・タキガワ。職業、風使い・戦士型。レベル44っ。義母に叩き込まれた剣術ではなく薙刀を覚え直した!


「悪いっ、しくった!」


あたしは片手のハンドスプリングでぴょんっと起き上がった。

あたしはレベル44から上がらなくなってきてる。守護騎士のロンロンもう49に上がってるのに、ついてけなくなりつつある!

パルシーの方がよっぽどクレバーだ。ゼンならレベルが足りなくても立ち回れたろうし、ディンタンはどう見てもロンロンと同類、英雄に成れる側だ。

他人に光を見てない、自分が光ってる。

光・・ミカゲはっ?!


「ミカゲ!」


必死で自分達のいる、あちこち破壊され尽くし徐々に降下してゆく魔王軍の中型飛行艦の上部を見回した。居た!


「クェーーーッッ!!!」


ガラクタでできた鳥のような伯爵級悪魔エウドゥルエが吠え、モンスターや魔族を素材としている艦の機械類を取り込み巨大な怪鳥のような姿になった姿でミカゲに襲い掛かっている!


「『華王剣(かおうけん)櫻源郷(おうげんきょう)』」


ミカゲは、これもディンタンが回収した神器鉱石『ヒヒイロカネ』を使って鍛え直し、打ち刀から太刀に変わった『ナマクラ・華王剣』を振るって、光の花吹雪を起こし、その中に溶け込むように消えてエウドゥルエの攻撃を無効化していたっ。

もうレベル60に達しているミカゲは、神力(しんりき)に近い力を使っている!


「マリマリー! 今はこっちに集中っ!」


「ああ、そう・・だな!」


あたしはただのファンじゃないっ。まだ戦える!

猛り狂ってる機械化ヒドラはあたしのレベルで手に負えなかったが、やりようはあるっ。


「ふぅ・・っっっ」


呼吸を整え、あたしは人に近い姿の変化を解き、さらに、抑えている獣性(じゅうせい)も解放した!

兎型獣人(ワーラビット)の血が沸き立つっ!


「グルルルッッ!!!」


理性が飛びそうになるが、力が溢れるっ。


「ちょっとっ?! 大丈夫なのっ??」


「グルル・・大、丈夫。援護、頼むっ。スキル『麒麟駆(きりんが)け』」


あたしはいつもり荒い風を纏ってロンロンの玄武の盾の守りを抜け、気が狂ったように連発し続ける機械化ヒドラのブレスの雨の中に加速して飛び出した!

反応して、ブレスの7割をあたしに集中させる機械化ヒドラっ。

負荷の減ったロンロンは身を守りながら神器『(あかつき)のランス』で閃光の刃を撃ってヒドラを牽制し、あたしが飛び込む隙を作ってくれた!

あたしは薙刀、『野分け薙ぎ・改参』に力を込めるっ。


「スキル、『風神剣難禁鎖ふうじんけんなんきんさ』!!」


ブレスの代わりに多頭で噛み付いてきたヒドラと交錯様に、旋風の刃で全ての首を捕獲して締め上げてやった!


「ロンロンっ!」


「任せてっ! はぁああーーーっっ!!」


玄武の盾を艦の装甲の剥がれた部位にめり込ませて捨て置き、暁のランスを両手持ちして気合いを入れるロンロン!


「スキル、『ドミニオンランス』っ!!」


背に光の翼を発生させて羽ばたいて加速し、動きを封じたヒドラに突進し、激しく発光する暁のランスを打ち込むロンロン。

機械化ヒドラを爆砕して打ち倒した!!


「グルルッッ、ミカゲだっ!」


「盾、もうっ。めり込ませ過ぎた!」


あたしはエウドゥルエと交戦するミカゲの方に加速したまま駆けだし、ロンロンは魔力で操って回収しようとした玄武の盾が上手く艦の外装から抜けなかったらしく光の翼をはためかせて取りにいった。



攻撃され続けて、怪鳥というより歪んだ機械の渦のようになったエウドゥルエと交戦するミカゲに駆け寄ろうとしたけど、


「っ!」


降下し続ける艦の周囲で連盟の飛行艇と交戦している魔王軍の合成飛行体2体が飛来し、あたしに爆撃してきたっ。

加速と刃の風で躱し、防いだが目を付けられたらしく、旋回してしつこく狙い付けてくる!


「グルルッ! 音速を・・超えたくらいで調子づくなっ! スキル、『風神雲海斬(ふうじんうんかいぎ)り』っ!!」


あたしは超広域に烈風の刃を放って高速飛行する合成飛行体達を両断して仕止めた。


「はぁはぁ・・」


あたしが霊薬(エリクサー)を飲んで回復させているとロンロンも追い付いてきた。


「行けるっ?」


「グルルッ、当たり前!」


あたしとロンロンが今度こそミカゲの加勢に入ろうとすると、機械の渦から無数のエウドゥルエの分体が出現して行く手を阻んできた! くそっ。


「クェッッ、あの女との約束があるので貴女達と直接交戦するつもりはなかったのだがっ! そちらから向かってくる分には致し方のないことよっ」


エウドゥルエは機械の渦の身体から電波照射機のような器官を2つ露出させると起動させて。

これに反応して数十体の合成飛行体がミカゲに殺到した。

猛烈な爆撃を光の花吹雪による回避と迎撃で凌ぐミカゲ!


「ミカゲっ!」


助けたいが、エウドゥルエの分体達が邪魔をする!

ああ、ミカゲ。あたしは本心ではこの争いが嬉しかったんだ。

尋常中等学校を卒業する頃、ミカゲからはやんわり距離を取られた。ディンタンとも線を引いてた。

単にノンケだ、ってのはあったのかもしれないけれど、ミカゲは不安定なあたし達を友達として見守るつもりだったのかもしれない。

それぞれ違う世界で生きていく。また地元で顔を合わせれば勇気づけ合う。何かあったら話すし、なんなら助ける。

・・友達として。

わかってる。いつか本当に大人なれば年に数度、いやもしかしたら何年かに1度しか会わなくなる。それでも友達だともわかってる。

だけどそんなお決まり時の流れを、グリムツリーが、魔族達が、引き裂いてくれた。

ミカゲと旅を続けたい。現実を越えたい。同時にこんなにまた近付きたくなかった。思い出の中だけにいてほしかった。あたしは光に焼かれてしまう。


「『華王剣・万剣境(よろずけんきょう)』」


ミカゲは光の花弁を数え切れない光の刃に変えて、数十体の合成飛行体を一瞬で撃墜し、さらにエウドゥルエの電波照射機と顔面もメチャクチャに引き裂いた。


「クェーーーッッ??!!!」


絶叫して機械の渦の身体から死に物狂いに金属の槍や、熱線をミカゲに放つエウドゥルエ! 光の花吹雪の中のミカゲには当たらないっ。


「マリマリー! 私達も観客のまま終わらないよっ?」


「グルルッ! 当然だっ」


あたしは群がる分体を薙ぎ払って溜めの構えを取った。ロンロンは玄武の盾に力を込める。


「スキル、『シールドウォール』っ!!」


ロンロンは広範囲に盾の衝撃波を放って分体の4割を一気に吹き飛ばしたっ。


「スキル、『風神鋼颪(ふうじんはがねおろし)』っ!!」


打ち下ろす風の刃の連打を残り全ての分体に放ち撃破した!


「メガヒールライトっ!」


ロンロンは上位魔力活性剤(ハイエーテル)3本を対価に自分とあたしと、光の花吹雪のせいで居場所は不特定だったけどミカゲにも、光の治癒魔法を掛けた。

疲労が消えた!


「グルルッ!」


あたしは一気に突進し、


「風神雲海斬りっ!!」


エウドゥルエの機械の渦の全体を丸ごと斬り付けた! 両断はできなかったが損傷させ、渦の回転と攻撃の連打を止めてやったっ。


「このっ、雑魚がっっ」


崩れたガラクタの鳥の顔の奥に凶暴な魔族の瞳が見えた。


「『華王剣・久遠櫻(くおんざくら)根打(ねう)ち』」


光の花弁と共にテレポートしたミカゲの残撃がエウドゥルエの頭部の機械の集合体の巨体を真っ二つにした!!


「クェエエ・・・・ッッ??!! お前、お前か? お前が、勇者なの、だな・・これは、僥倖、くくくくっ!!」


エウドゥルエは嗤いながら、光の花弁に変換されて消滅していった。


「グルル・・・ふぅっ」


あたしは獣化を解いて、人に近い姿に戻った。腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。

ロンロンもすぐ近くに光の翼で舞い降りてきた。


「やったな、ミカゲ」


未だ光の花吹雪の中のミカゲに、眩しいな、と思いながら笑い掛けるとミカゲも微笑み返そうとしてくれたけど、


「っ! ロンロン!!」


突然鋭く叫び、これにロンロンは素早く玄武の盾を上に向かって構えてあたしもカバーして魔力障壁を展開したっ。その直後、

真上から、炎と氷の斬撃の雨が降り注いだ!


「ぐうっ!!」


「うおぉっ?!」


耐えるロンロンっ。周囲が破壊されまくってミカゲの様子がわからないっ! あたしは石突きを杖にして身を起こした。

攻撃が止み、エウドゥルエに匹敵する魔力を感じて見上げると、斧を持つ炎の悪魔と2本の鉈を持つ氷の悪魔が降下してきた。


「地上に出るのが少しばかり早かったからといい気になっていたエウドゥルエ。いい気味でしたね」


「刺客の死に損ないの女どもまともに扱えぬ魔族の面汚しよっ」


2体の悪魔は不敵に嗤った。


「ワタクシはモチャウナウ。氷の伯爵級悪魔ですよ? 趣味は生け捕りした赤子のをフラッペにすることです! モチャチャチャっ!!!」


「我輩はゴバラズオっ! 炎の伯爵級悪魔っ! 捕虜どもを裸足で焼けた鉄板焼きの上で踊らせることを嗜みとしている! ゴバラゴバラっっ!!!」


奇怪な嗤い方をする悪魔達に、ミカゲはスッと表情を無くし、ディンタンが回収した『時間結晶』で強化済みの腕時計をした左腕を掲げた。


「オールファウンテンシールド、『真なる水の(とき)』」


ミカゲの背後に凄まじい魔力の込められた水の時計盤が出現した!

そして、瞬く間だった。


「っ!!」


氷の悪魔モチャウナウと炎の悪魔ゴバラズオは既にミカゲによって両断されていた。


「『華王剣・(こご)ざくら・根打ち』」


「モチャぁっ????」


「時を、止めたのか??? ゴバラぁああっ!!!!」


2体の伯爵級悪魔は為す術無く光の花弁に変換されて滅びていった!


「なっ・・」


「凄いね・・」


あたしとロンロンが唖然としていると、ミカゲはその場に倒れてしまったっ。


「ミカゲ?!」


「っ! メガヒールライト! マナフローっ!」


あたしは慌てて駆け寄ってミカゲを慎重に抱えて支え、ロンロンは体力回復と魔力譲渡魔法を使った。

額の聖印を光らせたミカゲの身体中から、ガラス質の桜の苗木が生えだしていた!


「ちょっと、力使い過ぎちゃった・・」


「ミカゲっ」


泣くしかできないっ。くそ!


「パルシー達のピックアップを待ってられないねっ。すぐ、母艦に戻ろうっ! この船も墜ちる!!」


ロンロンはウワバミの腕輪から雲竜(うんりゅう)召喚の書を取り出し、飛行速度の速い雲竜を召喚し、あたしとミカゲをまとめえ抱えて光の翼をはためかせて竜に乗り込み、墜落する飛行艦と周囲の戦闘から逃れていった。



どうにか連盟の母艦に戻ると、ミカゲは呼吸マスクを付けられて魔工の技で作られた回復槽に入ることになった。


「僕は医者でも魔工医療の専門家でもないですが、安定化はさせました。ゼンに予定を変更してもらって、次に寄れそうな国までタデモリ神様を連れてきてもらうので」


パイロットスーツの上から白衣を着たパルシーが疲労の濃い顔で言った。


「ゲコー、ここまで神性の侵食が進むと私では難しいですねぇ」


同じ格好で手伝っていたマブカ神もパルシーに回復薬(ポーション)を渡しながら言う。


「ミカゲ・・」


あたしはミカゲの眠る回復槽に触れた。泣くばかりだ。


「僕達は休ませてもらうよ。マリマリーも休んだ方がいいよ? ロンロン達ももう休んでるんだから」


「ああ・・」


「行くゲコ」


マブカ神はパルシーを連れて、回復槽の置かれたこの部屋を出ていった。


「遠いよ・・」


あたしは泣いたまま、回復槽に額を当てた。苦し気な顔で眠り続ける桜に包まれたミカゲ。

子爵以下の魔族狩りが片付くと、すぐに伯爵級魔族狩りになったが、バカげたような力のヤツらばかりだった。

それに呼応してミカゲもどんどん人から離れてゆく。

不安でしょうがない。あたしじゃ護衛や応援係みたいなことしかできてない。

ディンタンならもっと「もう勇者みたいなことやめろYO」とか、ずけずけとラップで言えるのかな?


「・・ダサい」


イジけた思考だ。子供の頃殴られ過ぎて、骨の髄まで負け犬根性が染み付いてる。

涙も、止まった。


「ミカゲ、もう好きでいたくないよ。あんたが・・憎くなっちまうよ」


独りでにそんな言葉が口に出て、ミカゲが子供の頃言った通りに、血が噴き出すくらいあたしの心を抉った。

その傷口に、1つの声が響いた。


(いい苦しみだ。神に至る真実の愛を理解しない者は、反逆者足り得ない。お前は、成ったのだ。贋物に甘んじたあの人形の女達では不足)


その声は暗く、全ての傷を覆い尽くしてゆく。


(裏切り者が多過ぎた。我の顕現が滞っていた)


あたしの耳に、口に、鼻に、舌に、皮膚に、闇が最初からそうあるべきであったように染み渡る。


(対価はやろう。お前は、もう愛さなくてよい。これは救いだ)


「あああ・・・」


あたしは、嗤っていた。ずっと心の中で吹いていた、風が止まり。別の何かが逆巻きだした。

こんな心地好いことは知らなかった。と、


「見舞いに来たぜぇーーーっ!!! このナガイがっ!!!!」


部屋にパルシー達と組んでるナガイというゴーレム使いの男が入ってきた。

あたしは何食わぬ顔で屈んでいた姿勢から立ち上がった。


「あまり騒ぐなよ? あたしは休むよ・・」


「おお? いや、正直よく知らないミカゲ・オータムゴールドと2人にされても困るのだが??」


「知らないね」


あたしはそう言って1人で部屋を出て、そのままミカゲ達の前から消えた。

新しい、黒い風が、あたしの中で吹いていた。

早く全てを消し飛ばしてほしい。全てを

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